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人間の生活に河川はいろいろの分野で深く関わってきました。古来より生活に欠かせない水の供給源として川の近くに住み、生活用水や稲作をはじめとする農業用水として利用してきました。また水路として人や物資の運搬に利用され、生活を豊かにする役割を担ってきました。 このように生活に密着して存在した河川は小説や演劇の面でもいろいろ取り上げられています。身近なところでは幼い時、お母さんが読んでくれたおとぎ話の桃太郎が川を認識した初めでした。私事になりますが、お芝居を趣味にしてきた筆者にとって川が舞台になっているお芝居がいくつも印象に残っております。その中のいくつかをご紹介いたします。 |
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はじめにご紹介するのは、歌舞伎や文楽でよく演じられる野崎村(新版歌祭文)段です。 奉公先の商家を追われ実家に戻っている奉公人の久松のもとに商家のお嬢さんのお染が訪ねてきた。久松には許嫁のお光がおり、祝言を挙げようと話していた。お染と久松はすでに深い仲になっており三人の間で恋の葛藤があったが、お染と久松を別れさせると二人は心中すると察したお光は自ら身を引き、尼になって諦めた。お染を迎えに来た母親とお染、久松は商家に戻ることになるが世間を気にしてお染たちは船で、久松は駕籠で帰っていった。船と駕籠で帰る二組を土手で見送るお光が見つめている中で軽妙な下座音楽で送る―悲しくも哀れな幕切れです。 昭和54 年1 月の国立劇場で見た五代目中村勘九郎のお光、二代目沢村藤十郎の久松、五代目坂東玉三郎のお染、十七代目中村勘三郎の久作(お光の父)で演じた芝居は素晴らしく目に残っています。野崎村に出てくる川の名は芝居には出てきませんが、現在の地図で予想すると寝屋川の支流のようです。 |
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同じく川のほとりで繰り広げられた悲劇に「生写朝顔話」があります。 宇治川の蛍狩りの折に見染めあった儒学者の宮城次郎左衛門と福岡藩家老の娘深雪は互いに和歌を送り別れた。その後婚約したものの、次郎左衛門の病気や転勤のため別れ別れになってしまう。次郎左衛門を慕い福岡を出た深雪は目を患い、瞽女(ごぜ)となって「朝顔」と名乗り次郎左衛門を捜し歩いた。東海道の島田の宿で二人は出会ったが、深雪が盲目だったこともあり、互いに確認できないまま別れてしまう。すぐ後に次郎左衛門だった事が判り後を追うものの、大井川が雨で増水し川を渡ることができない―川が障害になり悲劇になる悲しい筋書きとなっています。 平成元年7 月の国立小劇場での公演、大夫が七代目竹本住太夫、三味線が五代目鶴澤燕三、琴が鶴澤燕二郎、人形は次郎左衛門を吉田玉男、深雪を吉田蓑助が演じた文楽のお芝居が印象に残っています。
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このほかに川が出てくる心に残っているお芝居としては、「妹背山女庭訓」の山の段があります。 大判事清澄の息子久我之助と大宰少弐定高の娘雛鳥の両家は犬猿の仲であったが、野遊びで出会い恋に落ちる。しかし時の権力者の蘇我入鹿がやってきて雛鳥を妃に、久我之助を家臣になれと迫る。そこで二人は吉野川をはさんだ背山と妹山の下館に逃れるが、入鹿の手が伸び、互いの命を守るため自害してしまう。両家の親は嫁入り道具と亡骸を吉野川の対岸に送り二人の祝言を上げる―という悲しい話です。 平成21 年6 月歌舞伎座で雛菊を二代目中村魁春、久我之助を四代目中村梅玉、定高を四代目坂田藤十郎、清澄を九代目松本幸四郎で拝見しましたが、とても素敵な舞台でした。
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歌舞伎舞踊でも川が出てくる踊りがたくさんありますが、華やかな「京鹿子娘道成寺」の前段階に日高川の段があります。 僧の安珍を慕う清姫は、日高川で船頭に妨害にされ川を渡れず、大蛇に化身して安珍がいる道成寺に向かう。道成寺ではなかに入れてもらえず、門前で「誰れに見しょとて紅鉄漿つけよぞ みんな主への心中立て」と恋しさや「殿御殿御の気が知れぬ 恨み恨みてかこち泣き」と恨みごとを言って嘆き、最後は鐘の中に隠れた安珍を大蛇と化した清姫が焼き殺す―という、華やかな踊りの陰で恐ろしいことが隠れている踊です。 道成寺は毎年といってよいほど上演されていますが、今まで見た中では昭和45 年4 月の歌舞伎座で演じた六代目中村歌右衛門が演じた道成寺が印象に残っております。 歌舞伎、文楽の中で川が出てくるお芝居は上記のほかにたくさんあり、歌舞伎十八番の「鳴神」、「弁天娘女男白浪」(弁天小僧)の稲瀬川の場、隅田川を背にして演じられる「法界坊」、怪談物では「四谷怪談」や「累」、歌舞伎舞踊では「乗合船」、「戻橋」、「三社祭」等多々あります。下座の波音をバックに演じられお芝居は風情あるものです。 皆様も視点を変えて観劇するのも新しい楽しみ方となると思います。
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(Up&Coming '25 新年号掲載) | |||||||
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