フォーラムエイト・ラリージャパン2022へ
11月にカタールで開催されたFIFAワールドカップはサッカーの世界最高峰の大会であるが、今回ご紹介するWRC(FIA World Rally Championship)は、ラリーの世界最高峰の大会だ。ラリーは、F1のように専用のサーキットで行うレースとは異なり、世界中のさまざまな公道を舞台に開催されるモータースポーツである。一年かけて世界中の各都市を10カ所以上巡り、各都市では約4日間レースを行う。
我が国で開催するWRCは「ラリージャパン」と呼ばれ、2022年は12年ぶりに日本で開催された。実は2020年、2021年も日本開催が決まっていたが、新型コロナウイルス感染症の影響で開催都市が絞られて、見送られていた。
タイトルスポンサーの名前が付く正式名称は「FIA世界ラリー選手権 フォーラムエイト・ラリージャパン2022」(FIA World Rally Championship FORUM8 Rally Japan 2022)。2022年の13戦目となる最終レース。愛知県豊田市、岡崎市、新城市、設楽町、岐阜県恵那市、中津川市の6市町が開催地となった。
【図1】とよしばでラリーカーを待つ
豊田
筆者は、DAY1の夕方に豊田市に入った。丁度、最初のレース(SS1)を終えたラリーカーが、サービスパークである豊田スタジアムに向かう時間帯と重なった。豊田市駅前のとよしばや沿道は旗を持った市民やファンですごい人だかり(図1)。ラリーカーは、車体も音もカッコいいのだが、さらに、ホテルの前で停車してくれたりして、サービス満点(図2)!
【図2】ホテルトヨタキャッスル前
「サービスパーク」とは、サーキットでいう「パドック」や「ピット」であり、ラリー全体のベースとなる場所。今回、ラリーカーは、豊田スタジアムのマニュファクチャラーで整備されて、スペシャルステージ(SS)と呼ばれる競技区間に向かう。
豊田スタジアムでは、セレモニアルスタートやフィニッシュ、シーズン表彰式といったラリーに直接関係するプログラムの他、スタジアム内の大型ビジョンではSSを走行するライブ映像が放映された。その他、主催者や協賛企業などによる物販や展示、飲食などの出展エリアが設けられた(図3)。
【図3】サービスパークとなった豊田スタジアム
ラリーカーがマニュファクチャラーに戻ってくる時間帯は、ドライバーやラリーカーの整備風景を一目見ようと、マニュファクチャラーを行き交う人の流れが一目でわかるほどであった(図4)。
【図4】マニュファクチャラー
【図5】WRCのレジェンド ドライバーとモリゾウさん
【図6】岡崎SS13
岡崎SS13
DAY3には、秋晴れの岡崎でSS13を観戦。SS13は、岡崎城の前を流れる乙川の河川敷を走る、1.40kmのショートコース。他のSSと異なるのは、乙川河川敷のターマック(舗装路)とグラベル(未舗装路)を走ること。対岸には約5000名が観戦できるエリアが設けられ、大勢のファンが詰めかけていた。
本レースの前には、WRCのレジェンドドライバーにより、水素エンジンのGRヤリスH2コンセプトとGRヤリス・ラリー2のデモランが行われた。モリゾウこと、豊田章男社長がサプライズで登場(図5)。
このコースは、スタートからゴールまで見渡すことができる。スタートして直線のターマックを駆け抜けると、特設のカーブが待ち構えており、さらにここからはグラベルに入るため、砂ぼこりが立ち上がる。このコースを2周するため、2週目は砂ぼこりの中を走り抜ける。ラリーカーは視界から一瞬消えてエンジン音のみが響いていると思いきや、砂の中から再び姿を現した(図6)。
生、そして間近で観戦する世界トップのラリーはすごい!
乙川
SS13の会場となった乙川は、一級水系矢作川で最大の支流。岡崎の中心部にありながら、これまでは積極的な活用が難しかった河川敷を日常的に利用するための取組みが行われている。
桜城橋(さくらのしろはし)は、名鉄東岡崎駅と籠田公園を結ぶ位置に令和2年(2020年)に架けられた人道橋で、フォーラムエイト・ラリージャパンでもイベント会場として使われた。橋には、乙川上流にある額田地区のヒノキが使われている。額田地区はSS8/SS11のコースとしても使われた。
乙川にかかる橋のひとつ「殿橋」の橋詰には、殿橋テラスが作られている。社会実験では、殿橋の欄干の向こう(河川側)にテラスを作って飲食を提供し、これまでになかったワクワクする風景を作り出した。その成果を受けて殿橋テラスは常設されている。
恵那SS18
恵那SS18は、恵那市の南部地域を走る、21.59kmのコース。恵南林道の中盤付近、標高750mの特設観覧席で観戦した(図7)。矢作川水系の木ノ実川を眼下に眺めるモンゴル村付近に車を停め、そこからバスに乗り込む。普段は林道として使われている一区画が歩行者専用エリアとして、五平餅、豚汁、焼き栗などの屋台が賑わっていた。
あいにくの雨模様で、スタートが予定時刻より遅れたため、もしかすると取りやめになるのでは、と皆が心配したが、無事にスタート。ラリーカーは狭い林道を登ってくる。最初、姿かたちは見えないものの、エンジンの音が山中に響きわたる。その音は一旦、聞こえなくなり、また、聞こえだす。そして、ラリーカーがいきなり視界に入ってくるや、カーブをドリフトしながら最高速度で突き進んでいく。一台のラリーカーが見えている時間はあっという間なのだが、林道カーブを次々とかけ登っていった(図8)。
【図7】恵那SS18 特設観覧席
【図8】恵那SS18
昨日は秋晴れの乙川河川敷で砂ぼこりを上げながらのレース、本日は雨中の林道をかけ登りながらのレース。日常の空間を使いながらも、刻々と変化しているレース環境に対応しながら、最高のパフォーマンスを見せてくれるラリーの楽しさを味わうことができた。
岩村リエゾン
SSが終わると、ラリーカーは次のSSに向かう。この間のルートはリエゾンと呼ばれる。
SSでのレース本番は迫力満点だが一瞬の出来事である。一方、リエゾンにやってくるラリーカーを撮影したり、ドライバーに手を振ってコミュニケーションすることは別の楽しみである。
恵那SS18のレースを終えたラリーカーは、岩村にやってきた。
岩村は、美濃東部の政治、文化、経済の要衝として古くから栄えた町。岩村城は江戸諸藩の府城の中で最も高い所に築かれ、日本三大山城のひとつである。城下に伸びる岩村本通りの町並みは、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に指定されている。
昨年8月に訪問した際は、お盆明けの平日だからか、時間帯が早かったからか、とても静かであった。団子型の五平餅をいただいたのが、懐かしい(図9)。
【図9】岩村本町通にて五平餅(8月)
一方で今回は、沿道には大勢のファンや市民が詰めかけていた。下町升形には、大型ビジョンが設けられて、レースを終えたラリーカーはここで右折して岩村本通りに入っていく。重伝建の古い町並みに、鮮やかな色使いのラリーカーは不思議とマッチしていた(図10)。
かんから餅をいただきながら、セレモニアルフィニッシュが行われる豊田スタジアムへと向かった。
【図10】岩村リエゾン
【図11】メタバース 協賛社ブース・物販エリア
ラリージャパン・メタバース
フォーラムエイト・ラリージャパン2022では、サービスパークである豊田スタジアムを3次元デジタル空間で表現したメタバースが作られた。協賛社ブース・物販エリア、セレモニーエリア、サービスパークの様子が、現実世界と同様に作られている(図11~13)。ユーザは、スマホやPCで、インターネットにアクセスする格好で、サービスパークの様子を仮想体験することができる。
リアルなラリー会場ではできないことも、メタバースでは可能だ。例えばセレモニーエリアでは、豊田スタジアムの内部に入り、ラリーカーをドライブすることもできる。
現実世界とリンクしたメタバース(仮想世界)は、デジタルツイン(現実世界のデジタルの双子)とも呼ばれる。
ラリーはリアル空間で行われるモータースポーツであるが、その企画や運営のためには、数多くの様々な情報がスタッフによってやり取りされている。近い将来、このような情報がデジタルツインで共有・可視化されるようになれば、関係者間のより円滑なコミュニケーションや、より充実したマネジメントに貢献できるのでは、とも思えた。
フォーラムエイト・ラリージャパンの開催を今年も楽しみにしている。
【図12】サービスパーク・メタバース
【図13】セレモニーエリア・メタバース
(Up&Coming '23 新年号掲載)
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