恵那市岩村町のロードセクション(移動区間)では、大勢の観客が間近で声援を送った。選手もそれに応えて手を振る

12年ぶりのWRC日本開催でさらに高まる今後への期待

ラリージャパンはヒョンデのティエリー・ヌービルが勝利
トヨタの勝田貴元が母国で3位表彰台を獲得!

難易度の高い舗装路ラリー
世界各地を戦った選手も警戒

2022年11月10日(木)。いよいよ、止まっていた時計の針が動き出した。2010年で途絶えていた日本でのWRC開催が、実現する時がやってきたのだ。煌々と照らされた豊田スタジアム内にラリーカーが並べられ、セレモニアルスタートが始まった。武将隊によるオープニングアクト、転輪太鼓 打乱漢 獅闘〜SEED〜による大太鼓のパフォーマンスが場を盛り上げる。愛知県警察音楽隊による国歌演奏ののち、大村秀章愛知県知事や自由民主党モータースポーツ振興議員連盟の会長を務める古屋圭司衆議院議員らの挨拶の後、フォーラムエイト伊藤裕二代表取締役社長の開会宣言で、『フォーラムエイト・ラリージャパン2022』は幕を開けた。

10日(木)からスタートし、13日(日)まで4日間にわたって開催されるラリージャパンは、愛知県(岡崎市、豊田市、新城市、設楽町)と岐阜県(恵那市、中津川市)にまたがる山間部のワインディングロードが主な戦いの舞台となる。タイム計測をするスペシャルステージ(SS)も実に多彩で、集落を抜けるコースや、2車線の県道を使った高速コース、世界でも類を見ないほど狭くコーナーの多いセクションが、トップドライバーを待ち受ける。初開催であることに加えて落ち葉で滑りやすいなど難易度も高く、下見を終えた各選手は口々にその難しさを語っていた。

セレモニアルスタートで伊藤裕二社長が開会宣言を行い、12年ぶりのWRCが幕を開けた

サービスパークの豊田スタジアムでは整備作業が見学できる。サインの求めに応じる選手も多く人気の観戦スポットだ

ロードセクションでは豊田市駅前などの市街地も走行。無料で楽しめ、初めてラリーを観戦するという方々も訪れた

ラリー序盤は波乱の展開
パンクが明暗を分ける

セレモニアルスタートを終えて、各選手はそのまま最初のSSへと向かっていく。豊田市の鞍ケ池公園を舞台とするSS1は、林道セクションと公園内の道路を組み合わせた2.75kmの短距離SSだ。ここではトヨタのセバスチャン・オジエ(フランス)がベストタイムを刻み、0.1秒差でMスポーツ・フォードのクレイグ・ブリーン(アイルランド)が続いた。勝田貴元は1.7秒差の7番手で初日を終え、翌日以降のステージに向けて感触を確かめた。

競技2日目の11日(金)は豊田市の稲武地域を中心とするステージ構成。しかし序盤からトラブルが発生し、競技運営の面でも混乱の展開となった。この日最初のSS2では前日トップのオジエがパンク。SS内でのタイヤ交換を余儀なくされ、大きく順位を落とすこととなってしまった。また、ヒョンデのダニ・ソルド(スペイン)がクルマから出火し、消火のためステージは中断。この影響で続くSS3がキャンセル、SS2の再走ステージとなるSS5は距離が短縮され、さらにSS4でブリーンがガードレールにクラッシュした影響でSS7もキャンセルと、運営面でも問題の多い展開となってしまった。こうした混乱のなかで総合首位に立ったのは、トヨタのエルフィン・エバンス(英国)。3秒差の総合2番手にはヒョンデのティエリー・ヌービル(ベルギー)、5.1秒差の総合3番手にはトヨタのカッレ・ロバンペラ(フィンランド)がつける展開となった。

競技3日目の12日(土)は、愛知県東部の新城市や設楽町、岡崎市を巡る構成。快晴に恵まれたものの、林道部分では落ち葉やダストで滑りやすいコンディションとなっていた。この日最初のSS8では、総合3番手につけていたロバンペラがわずかにコーナーで膨らみ岩壁に接触、パンクを喫してタイムを失ってしまった。これでヒョンデのオィット・タナック(エストニア)が総合3番手、勝田が総合4番手に浮上することとなった。エバンスはこの日後半まで首位を守ったものの、SS12でヌービルに交わされ、首位が交代する。この日の最後を締めくくるのは、岡崎市の河川敷で行われたSS14。ヌービルはここでベストタイムをマーク、一方のエバンスは2秒遅れに沈み、ふたりの差は合計4.0秒に。最終日に残されたSS距離、わずか69.82㎞で勝敗が決する。

そして最終日の13日(日)は、豊田市北東部と岐阜県恵那市、中津川市のエリアをメインとして行われた。ステージには降雨の予報が出ており、各チームともその雨が『いつ』、『どこ』に降るのか予測しながらのタイヤ選択を余儀なくされた。この日最初のSS15ではエバンスが好走を披露し、4.0秒あったヌービルとの差を一気に0.6秒にまで短縮、プレッシャーをかけていく。ところが続くSS16、エバンスは痛恨のパンク。SS内でのタイヤ交換を行ったことで優勝戦線からあえなく脱落してしまった。これでヌービルはチームメイトのタナックを1分2秒1差に従えて単独首位となった。タナックが総合2番手に浮上したことで勝田もポジションアップし、表彰台圏内の総合3番手につけることに。これで大きなマージンを持つこととなったヒョンデのふたりは、リスクを避けるためにペースダウン。最終SSまでポジションを守ったままフィニッシュし、ヌービルはシーズン2勝目を挙げることに成功した。

優勝したヌービルは「目標だった優勝を、1-2フィニッシュできて最高の気分」と語った

競技区間のスペシャルステージ(SS)は山間部を縫うワインディングロードに設定。荒々しいエキゾーストノートが美しい紅葉の山々に響き渡る

SSの中には神社の鳥居など、日本らしい風景も随所に採り入れられ、海外メディアからも大いに注目を集めた

最終SSのフィニッシュ後には、TV中継のために暫定表彰式が実施される。今回のフィニッシュ地点は豊田市の旭高原元気村。最終日に3番手に浮上した勝田は雨の中を走り切って、表彰台を獲得した

ヒョンデのタナックから祝福を受ける勝田。選手たちはお互いにチームの垣根を超えたリスペクトをもち、世界を転戦している

地元で3位表彰台の勝田貴元
2023年の活躍にも期待大

そして勝田も慎重なドライビングで最終SSを走り切り、シーズン2度目の表彰台を獲得。地元で3位表彰台という栄誉に浴することとなった。

勝田は「母国開催のラリーで表彰台に立つことができて、本当に特別な気持ちです。チーム、そしてステージやロードセクションなど、あらゆるところで応援してくれた多くのファンの皆さんに心から感謝します。ラリーの終盤は特に難しいコンディションになりましたが、なんとか乗り切ることができました。コ・ドライバーのアーロン(ジョンストン)に感謝したいですし、グラベルクルーのユホ・ハンニネンとクレイグ・パリーも、素晴らしい仕事でペースノートの情報面を支えてくれました」と語った。

ラリージャパン翌週の11月18日(金)、トヨタは2023年のラリー参戦体制を発表。勝田貴元/アーロン・ジョンストン組がTOYOTA GAZOO Racing WRTに昇格し、セバスチャン・オジエ(フランス)と3台目のシートをシェアすることが明らかになった。オジエが参戦するラリーでは、勝田は別チームからのエントリーとなるため、実質的に全戦に出場することとなる。ワークスチームの一員となることで、チームの要求も相応に高いものとなるはずだが、それに応える成長を見せてくれるはずだ。

2023年開幕戦のモンテカルロラリーは1月19日にスタート予定。短いオフを経て始まる新しいシーズン、勝田の活躍に期待したい。

2022年シーズンレビュー

2022 Season Review

変革のWRC
若き王者が誕生した1年を振り返る

約50年の歴史を持つ世界ラリー選手権(WRC)において、2022年シーズンは大きな変革の1年となった。

市販車をベースに改造が施されたワールドラリーカー(WRカー)に代わって、WRC史上初となるハイブリッドシステムを搭載する「ラリー1(Rally 1)」車両が、開幕戦モンテカルロから投入された。2021年までのWRカー規程からは、ボディを含めてすべてが刷新。従来の1.6リッターガソリンターボに、各チーム共通のハイブリッドパワートレインが組み合わせられ、最高出力は500馬力以上、最大トルクは500Nm以上を発揮する。最高出力100kWを発揮する電気モーターとバッテリーはリヤに配置され、指定された移動区間は電気モーターのみで走行。さらに、スペシャルステージで+αの電動パワーを発揮するハイブリッドブースト機能を使うことも可能となった。今シーズンの各ラリーでは、このハイブリッドブーストをいかに使えるかが鍵になった。

開催カレンダーに目を移すと、2020年のWRC復帰決定来、2回の開催中止を余儀なくされた「フォーラムエイト・ラリージャパン」がついに開催。詳しいラリーの様子は別頁に譲るとして、12年ぶりに復活した日本でのWRCは多くの観客が集まり、大盛況のうちに幕を下ろしている。すでに2023年のWRCカレンダーも発表されており、「フォーラムエイト・ラリージャパン」は今シーズンと同様、最終戦として2023年11月16日~19日の日程で愛知県・岐阜県を舞台に行われる予定だ。

2022年シーズンのWRCには、トヨタ、ヒョンデ、Mスポーツ・フォードの3チームが参戦を果たした。メーカー戦となるマニュファクチャラーズ選手権は、7勝を挙げたトヨタが獲得。ドライバーズ選手権はフィンランド出身のカッレ・ロバンペラが手にしている。

2年連続のダブルタイトルを決めたトヨタは、新規定に合わせてGRヤリス・ラリー1を投入。ドライバーはロバンペラとエルフィン・エバンス(英国)のふたりが全戦にエントリー。2021年のチャンピオンのセバスチャン・オジエ(フランス)は散発的な参戦に留まり、彼が参戦しないラリーではエサペッカ・ラッピ(フィンランド)が出場している。また、日本の勝田貴元が若手育成枠の「TOYOTA GAZOO RACING WRT NEXT GENERATION」として、全戦でGRヤリス・ラリー1をドライブした。

トヨタ勢はシーズン前半からロバンペラが抜群のスピードを発揮。第2戦スウェーデンで初勝利を挙げると、クロアチア、ポルトガル、サファリ、エストニア、ニュージーランドと6勝を記録。最終戦を待たず、第11戦ニュージーランドの段階で史上最年少記録を大幅に更新する「22歳と1日」で初のワールドチャンピオンに輝いている。

路面を問わない速さを発揮し、世界王者に輝いたロバンペラ(右)

トヨタのライバルとして、シーズン後半に実力を見せたのがヒョンデだ。i20 Nラリー1をティエリー・ヌービル(ベルギー)、オィット・タナック(エストニア)、ダニ・ソルド(スペイン)、そして若手のオリバー・ソルベルグ(スウェーデン)に託した。シーズン序盤戦はマシンの準備不足からトラブルに悩まされたものの、第5戦サルディニアでタナックがチームにシーズン初勝利をもたらすと、フィンランドとベルギーでも優勝。ヌービルもギリシャと最終戦ラリージャパンを制し、チームとして5勝を獲得した。

唯一の独立系チームとして、フォードのサポートを受けて参戦するのがMスポーツ。エースのクレイグ・ブリーン(アイルランド)を軸に、ガス・グリーンスミス(英国)、アドリアン・フルモー(フランス)、ピエール-ルイ・ルーベ(フランス)の若手を積極的に起用。開幕戦モンテカルロでは、WRCで9度の王座獲得経験を持つセバスチャン・ローブ(フランス)が、フォード・プーマ・ラリー1を駆り、トヨタのオジエとのバトルを制して見事優勝。前人未到のWRC80勝目、さらに47歳331日という、WRC最年長優勝記録も更新している。

11月に開催された最終戦フォーラムエイト・ラリージャパンを終え、長く厳しいシーズンの幕を下ろしたWRCだが、すでに各チームは来シーズンに向けた準備を進めている。12月は雪深い北欧中心にテストを行い、年が明ければ、1月19日からモナコを舞台に開幕戦ラリーモンテカルロがスタートする。

第1戦

第2戦

第3戦

第4戦

第5戦

第6戦

第7戦

第8戦

第9戦

第10戦

第11戦

第12戦

第13戦

2022年の各戦を振り返る

第1戦 モンテカルロ

ラリー1デビュー戦モンテカルロを制したのは、Mスポーツ・フォードから参戦したセバスチャン・ローブ。

第2戦 スウェーデン

雪を求めて開催地を北へ移したスウェーデン、トヨタのカッレ・ロバンペラが得意のスノーでシーズン初勝利。

第3戦 クロアチア

ラリー1車両がターマックを初走行したクロアチア、パワーステージでロバンペラがオィット・タナックを逆転。

第4戦 ポルトガル

ロバンペラがパワーステージも制した完全勝利を果たす。勝田とソルドの3位争いは最終SSでソルドが逆転。

第5戦 サルディニア

タナックがクレイグ・ブリーンに大差をつけて勝利。開幕からトラブルが頻発していたヒョンデが今季初優勝。

第6戦 サファリ

ロバンペラが完勝。トヨタが93年のサファリラリー以来29年ぶりとなる1-2-3-4フィニッシュ達成した。

第7戦 エストニア

エルフィン・エバンスとのトヨタ勢同士のバトルをロバンペラが制し、トヨタが今季3度目の1-2フィニッシュ。

第8戦 フィンランド

母国エストニアで優勝争いに絡めなかったタナックが、トヨタの本拠地フィンランドでシーズン2勝目を決める。

第9戦 ベルギー

ロバンペラがSS2でクラッシュ、母国ラリーのティエリー・ヌービルも沈むなか、タナックが鋪装でも勝利。

第10戦 ギリシャ

トヨタの3人がアクシデントやトラブルで脱落するなか、ここまで勝てなかったヌービルに待望の美酒。

第11戦 ニュージーランド

エバンスの脱落後、トップに立ったロバンペラが6勝目。シーズン2戦を残してWRCチャンピオンの座に輝く。

第12戦 スペイン

初日から好走を見せたセバスチャン・オジエが、パワーステージも制してフルポイントでシーズン初勝利。

第13戦 ジャパン

期待のトヨタ勢が相次ぐパンクで沈むなか、最終日まで安定したペースを刻んだヌービルがシーズン2勝目。

(執筆:合同会社サンク)

(Up&Coming '23 新年号掲載)



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