vol.1
人の見た目は左が9割
株式会社 パーソナルデザイン
プロフィール
唐澤理恵(からさわ りえ)
お茶の水女子大学被服学科卒業後、株式会社ノエビアに営業として入社。1994年最年少で同社初の女性取締役に就任し、6年間マーケティング部門を担当する。2000年同社取締役を退任し、株式会社パーソナルデザインを設立。イメージコンサルティングの草分けとして、政治家・経営者のヘアスタイル、服装、話し方などの自己表現を指南、その変貌ぶりに定評がある。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科経営学修士(MBA)、学術博士(非言語コミュニケーション論)。
下記2つの顔文字のどちらがより笑っているように見えますか?
A (^_・)
B (・_^)
・・・・・・・・
さて、あなたはどちらを選びましたか?
おそらく、Aを選んだ方が多いはずです。
実はこの結果は、人間が一つの物体をみるとき、右側よりも左側を強く認識するという脳のしくみに基づいています。
人は物体の左側を強く認識しやすい
例えば、魚を描く場合、左側に頭を描く人が多く、チラシの作成では目玉商品は左上に配置することが多く、スーパーの目玉商品も左上の棚に陳列したほうがよく売れるという実験結果もあります。
広く知られているように、脳は左右逆の手足を支配しています。右脳から出た命令が左半身に、左脳から出た命令が右半身に伝わるということです。それと同じことが視覚でも起きています。右側の視野で見たものが左脳に、左側の視野で見たものが右脳に伝わります。
右脳は「イメージ脳」、左脳は「言語脳」と呼ばれており、私たちが見たもの(=イメージ)を判断する際には、左側の視野が中心となります。つまり、私たちは、物体の左側を重視するという傾向があるのです。これを「シュードネグレクト効果」といいます。
ハトやヒヨコを使ったドイツのデーカンプ博士による実験でも同じ結果が得られているようです。鳥にも『左側重視』の傾向があり、生まれたてのヒヨコでさえ『左側重視』とのことですから、私たちのシュードネグレクトは250万年前以上に遡ることができる長い進化の産物といえます(※1)。
初対面で大切なのは右顔
とくに左側を重視する傾向は初対面のときほど強いと言われます。「はじめまして」の場面では、相手の情報はありません。無意識のうちに相手の見た目から内面を想像しています。
無意識領域をつかさどるのは右脳です。しかも初対面の場合、視覚から得る情報は55%を占めますから、ほぼ左側、つまり自分の右顔が相手により多くの情報を与えているわけです。
この効果を考えると、例えば、念入りにお化粧すべきなのは顔のどちら側でしょうか?
正解は、相手から見て左側ですから、「自分の顔の右側」ということになります。
しかし、化粧をするとき鏡の中の自分は左右が逆。つまり、自分の左側の顔が自分にとって左に位置しているため、無意識に左側の顔を念入りに化粧してしまいがちです。敢えて右側の顔に意識を向けることが大切です。
さらに髪形によって大きく印象が変わることも知っておきましょう。自分の右側の顔をより相手に見せることがポイントです。右顔に前髪がかかりすぎて目元や眉が隠れることで相手に不信感や不安感を与えてしまうことも。以前にも書きましたが、目は意思を表し、眉は感情を表します。目と眉セットで相手に見せることは、コミュニケーションにおいて肝心要です。
また、相手により強く意識してもらいたいなら、相手の左側の位置をキープすると良さそうですね。懇親会やパーティ等で使えそうな方法です。
左右顔の違いから生まれるコミュニケーション
鏡に映った自分の顔は人がみている顔とは左右が逆になっていると書きましたが、ビデオに映る自分をみて違和感があったという経験はありませんか? そうです。いつもの見慣れた自分は鏡の中の顔。ビデオに映る自分は左右が逆転していますから印象が異なります。
それほどに私たちの顔は左右がアンバランスなのです。
赤ちゃんや子どもころは誰もが左右対称に近いですが、人生経験を積むごとに左右のバランスが崩れていきます。これも左右脳の影響によるものです。右顔は左脳によって影響を受けるため作り笑いが得意です。左顔は右脳に影響されるため本当に楽しいときや笑いたいときには豊かに表情をつくりますが、社交辞令的な笑いが苦手です。そのため、左顔はこどもときの顔がそのまま加齢した顔、右顔は人生の生きざまが現れる顔といえます。これまでの人とのコミュニケーション体験が現れる顔ともいえるでしょう。(図1・図2)
そして、その左右の違いは相手とのコミュニケーションに影響を及ぼします。左側を強く認識するため右顔の印象が優先はしますが、右側からも情報を得ています。その違いによっては、笑っているのに笑っていない。優しそうなのに優しそうでない。つかみどころのない人になってしまいそうです。
愛想笑いだけでなく左右顔ともしっかり微笑むには、心の底から笑うこと。相手と自分が真綿で包まれて、穏やかで楽しい時空間をイメージすることで左右ともにバランスの取れた微笑みを浮かべることができます。苦手な相手と接するときこそ、そんなイメージ力がよりよいコミュニケーションをつくってくれます。
ジェスチュアも右手が肝心
デートのときの女性のちょっとしたしぐさにぐっときてしまうなんて男性、少なくないでしょうね。髪をかき上げる姿、頬をなでるしぐさ、手を振る動作などは相手に多くの情報をあたえているはずです。そんなちょっとした動きにも左側を強く認識するとなると、無意識に左手が動いてしまうなんて言っていられません。敢えて右手を使うことも戦略のひとつでしょう。しかし、右利きの人が多いというのはコミュニケーションの生き物である人間が神から与えられたものかもしれません。
一方、ビジネスの場で考えれば、挙手するときは右手を挙げた方がより早く相手が気づいてくれそうですね。握手やハイタッチの際に差し出す手もやはり右手。プレゼンテーションでは右手のジェスチュアを多く取り入れることで表現が伝わりやすくなる。すべてに応用していくとよりコミュニケーションは豊かに育まれるかもしれません。ただし、100%の人が左側重視とは限らないことは頭の片隅に置いておく必要がありますね。
こうした人間の脳の傾向を知って、コミュニケーションに役立てることこそ、ビジネスの世界でもプライベートでも重要なポイントといえます。次回からコミュニケーションについてさらに深めていきましょう。
※1:池谷裕二「脳には妙なクセがある」2013 扶桑社 P.96-98
(Up&Coming '23 盛夏号掲載)
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