連載 【第28回】
運動と健康

profile
関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了・医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬三敬塾
クリニック院長を経て、現在ピュシス統合医療クリニック院長。公益財団法人 未来工学研究所研究参与、東京大学大学院新領域創成科学研究科共同客員研究員、統合医療 アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・業務執行理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『花粉症にはホメオパシーがいい』『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著。『1分で眠れる4-7-8呼吸』監修など多数。


漠然と健康のために運動しないといけないと思っていませんか。運動と健康との 関係で最近「マイオカイン」という筋肉から分泌される物質の重要な働きがわかってきています。今回は運動がなぜ健康にいいのか考えてみましょう。


マイオカインとは

筋肉には骨格筋、心筋と平滑筋がありますが、大半は骨格筋です。骨格筋の約70%は下半身の筋肉です。骨格筋は身体活動を支えるとともに、血液中の糖や脂質の多くを消費する代謝臓器でもあります。マイオカイン(Myokine;myo=筋、kine=作動物質)は、筋肉を動かすことで骨格筋から分泌される細胞間情報を伝達する生理活性物質(サイトカイン:cytokine)のグループの総称です。現在発見されているもので40~50ほど、同定されていないものや代謝物を含めると数百もの成分があるといわれています。筋肉だけでなく全身の臓器や組織とコミュニケーションをとり、機能の調整をしています。図1にいろいろなマイオカインとその働きを示しています。

図1

マイオカインはちょっとだけ身体を動かすレベルを上げれば増えるといわれています。例えば、いつもより早歩きするとか、なるべく階段を使うことです。またマイオカインは新しい筋肉から分泌されるため、全く運動していないと筋肉の新陳代謝が行われていないので、分泌されにくくなります。特にマイオカインは腰から下の筋肉から主に分泌されるので、毎日の筋トレとして、例えば10回のスクワット3クールをウォーキングの前に行ううことは効果的です。


ウォーキングと健康

運動による身体への多様な影響を図2にあげています。運動の中でもウォーキングが最も手軽に始められます。ヒポクラテスは「歩くことが最良の薬である」と言っています。マイオカインの分泌だけでなく、有酸素運動でもあるウォーキングの習慣によって脳に一定時間酸素を送り続けることにもなります。このことによって脳の神経細胞が再生され、認知症の予防につながります。歩き方は、顎を引いて胸を張り、背筋を伸ばし、肘をまげて腕を前後大きくふる。また脚は伸ばし、歩幅はできるだけ広くとって、かかとから着地するのがよいと言われています。歩く場所を選ぶのも効果的です。グリーン・エクササイズという緑の中の運動(公園や自然の中)の効果を研究した報告があり、森林療法なども最近では着目されています。

 

図2

 

ウォーキングの習慣

  1. 1日10分程度を3回など合計で1日30分程度 7000~10000歩目標
  2. 脚は伸ばし、歩幅はできるだけ広くとって、かかとから着地する:大股で早歩きする
  3. 朝出勤時に最寄り駅のひと駅前に降りて歩いたり、昼休みランチを食べた後に10分歩く
  4. 毎日の筋トレとし10回のスクワット3クールをウォーキングの前に行うと効果的
  5. 排気ガスの多いところを歩くのはできる限り避ける
  6. 緑の中を歩く;5分間でもグリーン・エクササイズという緑の中の運動

 

ウォーキングだけでなくサイクリング、ガーデニングなどによっても心へのポジティブな効果が認められています。身体をリラックスさせる、あるいは緩める運動やストレッチ、さらにヨーガや太極拳などでは心も緩め、ストレス軽減に役立ち、こころの健康につながります。




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(Up&Coming '25 新年号掲載)
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