連載 【第27回】
コレステロールを考える

profile
関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了・医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬三敬塾
クリニック院長を経て、現在ピュシス統合医療クリニック院長。公益財団法人 未来工学研究所研究参与、東京大学大学院新領域創成科学研究科共同客員研究員、統合医療 アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・業務執行理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『花粉症にはホメオパシーがいい』『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著。『1分で眠れる4-7-8呼吸』監修など多数。


健康診断でコレステロール値が高いと指摘される人は少なくないと思います。コレステロール値が高いとどういう問題があるのか、今回はあらためて「コレステロール」について考えてます。


コレステロール

コレステロールは脂質(lipid)の一つです。生物から単離される水に溶けない物質の総称を脂質といいますが、脂質の中でも動植物の体に含まれている栄養源である油を脂肪(fat)といいます。コレステロールは生体の細胞の膜成分で、私たちの体にはなくてはならない脂質です。また肝臓において胆汁酸に変換されたり、性ホルモン、副腎皮質ホルモンなどのステロイドホルモン、ビタミンD の前駆体となります。コレステロールが少なすぎると細胞が壊れやすくなり、免疫力の低下や神経伝達障害などもおこります。実際コレステロール値が低い方が脳卒中、がん、うつ病、認知症などの発症が高いと報告されています。コレステロールは食事から摂取されますが、約60%は体内で合成されます。ほとんどの組織で生合成が行われますが、約70%が肝臓です。肝臓で合成されたコレステロールは脂肪酸エステル体に変換され(脂質であるため、血液には溶けることができません)血液中のリポタンパク質により全身に輸送されます。LDL(低比重リポタンパク質)は肝臓から各組織に運ぶ働きのリポタンパク質のことです。一方、HDL(高比重リポタンパク質)は組織中のコレステロールを肝臓に戻す働きのリポタンパク質です。健康診断での総コレステロールとは血液中に含まれるすべてのコレステロールの総量です。


脂質異常症とコレステロール

血液中には脂質としては、コレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸の4種類があります。中性脂肪は、肉や魚や食用油から食事として取り入れるだけでなく、肝臓でもつくられています。大部分は筋肉や心臓でのエネルギー源として利用されます。余った部分は皮下脂肪として蓄えられ、体脂肪を構成していますが、多すぎると問題になってくる場合があります。脂質異常症(Hyperlipidemia)というのは、LDLコレステロールや中性脂肪が多過ぎる、あるいはHDLコレステロールが少なすぎるなどの状態です。「高脂血症」とは、LDLコレステロールが140mg/dL以上、中性脂肪が150mg/dL以上のいずれか、または両方に該当する状態を指します。2007年から「高脂血症」「低HDLコレステロール血症」のどちらか1つでも該当する場合、脂質代謝に異常が生じているという意味合いにより、「脂質異常症」という名称になりました。ただアメリカ心臓病学会/アメリカ心臓病協会(ACC/AHA)が動脈硬化性心血管疾患のリスクを軽減させるための脂質異常症の治療に関するガイドライン(2012年)では、LDLコレステロールの目標値を設定することにエビデンスはないとしています。日本動脈硬化学会はこれに対し、“日本の実臨床の場では管理目標値があったほうが治療しやすく、多くの実地臨床家がガイドラインを遵守し、またその目安を求めている。患者の治療に対するアドヒアランスも考慮すると従来通りガイドラインの管理目標値を維持するべきであるとの結論にいたった”としていますが、批判があるのも事実です。日本脂質栄養学会ではエビデンスをもとに『長寿のためのコレステロール ガイドラインの要旨』(2010年版)を出しています。以下のように興味深い内容になっています。


  1. コレステロール摂取量を増やしても血清コレステロール(TC)値は上がらない
  2. “高リノール酸植物油の摂取を増やし動物性脂肪とコレステロールの摂取を減らす”という従来の栄養指導は、むしろ心疾患、癌などを増やす危険性が極めて高く、これを勧めない
  3. 血清コレステロールの心疾患に対する相対危険度は調査集団により大きく変わる。集団中の家族性高コレステロール血症(FH)などの割合がクリティカルな因子であると解釈すると、この変動性が合理的に説明できる可能性がある
  4. コレステロールの基準値を決める上で最も重要なエンドポイントは総死亡率である。40~50 歳以上、あるいはより高齢の一般集団では、TC値の高い群で癌死亡率や総死亡率が低い。これらの集団には、コレステロール低下医療やコレステロール低下をめざした食品を勧めない
  5. 女性に対するコレステロール合成阻害薬、スタチン類の使用は不要とされてきたが、男性に対しても医師の合理的な判断による特別なケースを除き、動脈硬化性疾患予防にスタチン類は不適切であり、勧めない
  6. 血清コレステロールの善玉(HDL-C)・悪玉(LDL-C)説は、その根拠が崩れた
  7. 中性脂肪値が150mg/dL 以上でも脂質異常症とはいえない。一般集団では、中性脂肪値の高い群のほうが総死亡率は低いという結果も報告された
  8. 動脈硬化性疾患およびその他の炎症性疾患を予防するためには、ω6系脂肪酸の摂取量を減らしω3系脂肪酸の摂取を増やすことを勧める
  9. 家族性高コレステロール血症などの先天性遺伝因子をもつ人に勧める脂質栄養
  10. 脳卒中はコレステロールや動物性脂肪摂取の多い群、血清脂質レベルの高い群ほど発症しにくく、脂質レベルの高い群のほうが予後は良好である
  11. わが国の食環境でみられる植物油脂の供給増の方向は危険である。動物に有害作用を示す植物油脂の代わりに動物性脂肪を肥満にならない程度に摂取すること、またそれを可能とする食環境作りを勧める
  12. 「動脈硬化性心疾患予防ガイドライン2007 年版ー日本動脈硬化学会」の問題点
  13. 欧米から発信されている脂質栄養情報を妄信しないよう勧める
  14. 長寿をめざした脂質栄養の勧めー要約


動脈硬化とコレステロール

コレステロール値が高いと動脈硬化が進む、というコレステロール仮説は1950年代から始まり、1990年代には悪玉LDL-C/善玉HDL-C 仮説となり最近まで続いています。

サプリメント「紅麹コレステヘルプ」による健康被害の背後にはコレステロールは下げないといけない、LDLコレステロールは悪玉コレステロールであるという常識があるのではないでしょうか。

最近では、動脈硬化は病理学的観察からマクロファージが主体の慢性炎症であるとされています。炎症を惹起するメカニズムとして無菌性炎症が注目され、コレステロールやカルシウムの結晶による インフラマソーム(自然免疫系に関与し、炎症応答の活性化する多タンパク質オリゴマー)活性化が動脈硬化進展メカニズムと示唆されています。このような慢性炎症を起こす因子としてLDLコレステロールの増加や高血圧、高血糖、肥満、喫煙、アルコールの過剰摂取などがあります。血清コレステロール値を下げるためにスタチン製剤の内服を始める前に、慢性炎症に着目した予防が大切だと言えます。

実際欧米では、食事や運動のプログラムでは下げることができない場合に、コレステロールを下げる薬での対応になります。慢性炎症の予防に役立つ統合医療から見た対応を図1で示しています。以前取り上げた抗炎症食や「疲労」への対応を参考にしてください。

図1




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(Up&Coming '24 秋の号掲載)
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