未来を可視化する
長谷川章のアート眼
vol.10
社会の未来を語るキーワード「シンギュラリティ」をテーマに、
長谷川章のアート眼が捉えるものを連載していきます。
人類が生命を超え、加速する未来を可視化する鍵を探ります。

長谷川 章(はせがわ あきら)氏
中国中央電視台CCTVのステーションロゴを始めNHKのオリンピックオープニング(1996)、ニュースタイトル、TV-CMなど数千本の制作してきた長谷川章が、日本人の持つ無常の精神から空間・環境のアーティスティックなソリューションであるデジタル掛軸を発明し今日のプロジェクションマッピングの創始者となった。

 Akira Hasegawa

コロナ騒ぎによって見えてきたもの

世界はゲーム化されている

今日の人間社会は情報化社会と言われて何年か過ぎてきました。
情報化とは数値化のことです。
数値化すると比較が容易になり、勝敗がわかりやすく目に見えるようになります。
そして環境や状況までもが数値化されると、そこに自然とルールが生まれるでしょう。
ルールがあり、条件があり、勝敗が決まる――私たちはそれをゲームと呼びます。
つまり情報化とは、人間社会がゲーム化されたことを意味しているのです。

ルールがあり、勝敗が決するのがゲーム

来年開催が予定されているオリンピックも、正式名称はオリンピアード競技大会(Games of the Olympiad)、まさしくゲームです。
野球をはじめゴルフもサッカーも、スポーツはすべてゲームですが、
それだけでなく株式相場や為替、宝くじといったお金が絡む経済活動も、ルールがあり、勝敗が決するという意味ではゲームです。
もっと言えば、政治や宗教、教育といった分野も、ある側面から見れば立派なゲームだと言えるでしょう。


安全性が脅かされすぎると危機になる

侵略戦争や人種争いなども、すべてはゲーム化されて社会に組み込まれています。
ゲームは本来安全なものです。なぜならプレーヤーはゲームの外にいるからです。
ですが、ゲームがハードになりすぎてプレーヤー自身の安全が脅かされる事態になると、
たちまちのうちに社会は混乱し、今日のようなコロナ危機となって現れるのです。


なぜ人はゲームが好きなのか

なぜ人間はゲームに巻き込まるのでしょう?
いままで何度もゲームに巻き込まれ散々な思いをしてきたのにも関わらず、なぜ懲りずにゲームが好きなのでしょうか?
それは、ゲームにはスリルがあるからです。


究極のスリルとは

究極のスリルは死の恐怖です。
私たちは死ぬかもしれないゲームに喜びを感じます。たとえばスカイダイビングやバンジージャンプ、
厳しい冬山に単独登山し、素潜りでどこまで潜れるかに挑みます。
それは冒険家やプロスポーツプレーヤーなどの特殊な人たちのことだと思われるかもしれませんが、
実は私たちは日常でもさまざまな形で小さな死を経験しようとしています。
わざわざ怖い思いをしてホラー映画を見たり、お化け屋敷に行くのはなぜでしょう?
行列してまでジェットコースターや絶叫マシンに乗るのはなぜなのか?
すべては安全圏から死を体験するためです。

では、死を体験することがなぜそれほど魅力的なのでしょうか?
それは、私たちは死の恐怖から解放されたときに大きな生の喜びを得るからです。
つまり私たちは常に生きていることを実感したいのです。

ゲームのプレイヤーから離れ、没入しすぎると恐怖が高まる

では今回のようなコロナ危機はどうして起こったのでしょうか?
それはゲームに没入しすぎたからです。
毎日のようにコロナの情報を集め、ニュースを片っ端から見て、信ぴょう性のない噂を信じ、
医師でもないコメンテーターの妄言を聞きすぎたからです。
ゲームで例えると、安全な居間でゲームを楽しんでいたプレーヤーだったのに、
それを止めてゲームの中の主人公になってしまった、というところでしょう。
ゲームの中に入ってしまったのです。
こうなると、見るものも聞くものすべてが怖くなります。ゲームの中の情報に支配され、
現実を見ることができなくなってしまうからです。
こう考えてみると、コロナ危機を大きくしたのは現実に起こった出来事ではないことに気づくでしょう。
人から人へ恐怖は伝染し、またたく間に広がっていきます。
つまり、ここまでコロナ禍を大きくしたのは、一人ひとりが心の中で作り出した虚構の恐怖なのです。


心の病を吹き飛ばすには

このような閉塞状態、心の中の恐怖を吹き飛ばすのに力を発揮するのがアートです。
アートが本領を発揮できるのは、まさにこういう危機的な状況でしょう。
逆に言えば、この状況に打ち勝てないものはアートではないのです。
顔を上げて目を開き、自分の呼吸を感じて今にありましょう。
心の中の恐怖は自分自身で作り出したものであり、それは現実の恐怖ではないのです。
そしてこういうときこそ、AIなどの最先端の技術が生まれ、人々のために活躍する契機になると
信じたいものです。


能登見附島「デジタル掛け軸と能舞」ライブ世界配信(令和2年12月1日)

能登見附島「デジタル掛け軸と能舞」実行委員会
松林研究室株式会社 代表 松林賢司
デジタルアーチスト長谷川章



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(Up&Coming '21 新年号掲載)

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