未来を可視化する
長谷川章のアート眼
vol.9
社会の未来を語るキーワード「シンギュラリティ」をテーマに、
長谷川章のアート眼が捉えるものを連載していきます。
人類が生命を超え、加速する未来を可視化する鍵を探ります。

長谷川 章(はせがわ あきら)氏
中国中央電視台CCTVのステーションロゴを始めNHKのオリンピックオープニング(1996)、ニュースタイトル、TV-CMなど数千本の制作してきた長谷川章が、日本人の持つ無常の精神から空間・環境のアーティスティックなソリューションであるデジタル掛軸を発明し今日のプロジェクションマッピングの創始者となった。

 Akira Hasegawa

デジタル掛け軸(D-Kとは)

D-Kを展開して早30年になろうとしています
TVのデジタル化に先駆けてCMの編集を完全デジタル化し、その編集作業を通じて見出したのがデジタル掛け軸です

人間の制作物は所詮始まりと終わりのあるパッケージであり人工物の域を出ませんが、D-Kは大自然の営みです
川はいつも川なれど水は常に新しい
――この概念を視覚化したものがD-Kなのです

D-Kは一期一会の無限映像です
一度見た画像をもう一度見る機会はありません

モチーフや材料は一切なく、宇宙のノイズとされるホワイトノイズから図形をデジタル上に作画し、
15年かけて制作した100万枚のデジタル画像がサーバーに蓄積されています

このサーバーからランダムに2枚の画像を引き出し、この2枚を認識できないほどの速度でアルファブレンドすることで、
一期一会の無限映像をライブにプレイするのです

それから30年
世界遺産などを含め全世界450箇所でインストールを行い、今日のプロジェクションマッピングの礎を築きました


TVの現状は

さて、昨今のネット時代の中、テレビはメディアとして完全に行き詰まっています
コンテンツは独自性を失い、人々はTVを離れ、広告媒体としてもネット広告にその地位を譲っているのが現状です

その現状を巻き返そうとするかのようにTVのハードウェアは年々進化し、薄型から4K、8K、
またフィルムLEDや有機ELと解像度や鮮明度、利便性を上げていきますが、
その進化はむしろ、ハードウェアに見合った映像コンテンツがないことを露呈する結果となっています

今後、5Gや有機ELが普及したとしても、そのポテンシャルを引き出すような映像コンテンツが存在しないのです


この現状への答えは

そういった現状への答えは、今日のコロナ禍で、より鮮明に見えてきました

自宅で待機せざるを得なくなって一人になったとき、人々は突然不安に襲われました
いいえ、突然ではありません
もともと、人々は不安を抱えていたのです
ただ自分の中の不安や恐れを直視していなかっただけなのです

満たされていたと思っていた生活は、実は虚像でしたすべての言説や情報、物、ファッション、ライフスタイル、
果ては社会通念や世界の常識までもが、言葉や映像による幻影にしか過ぎなかったことがわかってしまったのです

私たちは自分が空っぽだということを知ってしまいました
空っぽの自分を言葉や映像で埋めていただけなのです

しかしこれはとても良い機会といえるでしょう
私たちはようやく、自分の内側を静かに見つめる機会を得たのです


新しいTV

この良き機会にTVには何ができるでしょうか
ここでTVは大胆に変わる必要があります

受動媒体としてのTVがあり、能動媒体としてのネットがあります
TVは能動メディアになろうとリモコンに投票ボタンを作ったりしてきましたが、
ネットの真似をしても未来はないでしょう

TVの強みは物理的に部屋の中に存在することであり、ただそこにあるということです
TVは情報の垂れ流しをするのでもなく、かといって能動的に楽しむものでもなく、
自分を見つめ直す鏡のようなメディアになることができます

そのコンテンツこそがD-Kです

D-Kに物語はなく、そこに何を見るかは見る人の自由です
すなわち、D-Kに映っているのは画像でも映像でもなく、見ている人の心なのです

新しい時代を開く有機EL-TVは、物体ではなく環境となっていくでしょう
空間に光と色彩のシンフォニーを花開き、心は自分へと帰ってきます

5G有機ELデジタル掛け軸は、この気づきの時代にこそふさわしい映像コンテンツなのです

最新の有機EL(半透明型)の普及やデジタルデバイスの変革により、人々はこれまでのニュースや映画、ドラマ、ゲーム、
自然環境映像などでは満足できなくなっていくのは間違いありません

D-Kは従来のリニアな映像ではなく、二度と同じ画像が現れないためコンピュータでしか再現できません
ストック映像ではなく、常時ライブ映像になります
前述したとおり、ストーリー性やタイトルがなく、表現しているのは移ろいです

基本画像は、長谷川が15年掛けて描いた10万枚のデジタルアート画像であり、
D-Kは一生に一度の映像を体験する新しいカテゴリーのアートと言えます

地球の自転速度で変わっていき、まるで夕焼けのように移ろっていく
なにかを見るのではなく、そこに佇む者の心の共鳴を奏でるシンフォニーとも言えるでしょう


4K-TVでのネット配信アンビエントART

TVは今後も高解像度、高精細へと向かい、
モニタパネルは4Kが主流となっていく流れにあります

ところが4Kの高解像度でなければならない映像コンテンツはなく、昔ながらの大自然や花や魚群といった映像しかありません
これでは、白黒TVからカラーTVへの転換のような、巨大な経済効果は望めないでしょう

そこで、4K-TVに4K解像度のD-Kをネット配信して、環境アート空間をリビングに展開するアイデアはどうでしょうか?

ステイホームの時代、ネガティブな情報ばかりが山のように入ってくる媒体のなか、
 時間と空間の拘束(これらはすべてただの情報です)から解放するD-Kアンビエントビジョンは、
新しい時代にふさわしいアートです

ようやく世の中がD-Kの概念に追いついてきたようです


第3回 長谷川章デジタル掛軸(D-K)塾

長谷川章氏の「デジタル掛軸(D-K)」の手法を企画・運営、デザイン、設営から撤収に至るまであますことなく学べます。
たとえば、電気・照明のお仕事に幅を広げたい、デジタルアートを店舗や旅館に展開したい、イベント企画の幅を広げたい、デジタルアーティストになりたい等々、様々な動機の方々が一緒に創作します。
集 合:2020年10月9日(金) 午後2時
会 場:ゆ~ぷる木崎湖
内 容:建物内外を使ったD-Kの空間づくりを一緒に創作
講 師:長谷川章(一財 最先端表現技術利用推進協会会長)
共 催:NPO地域づくり工房、一般財団法人最先端表現技術利用推進協会
協 賛:株式会社フォーラムエイト、木崎湖温泉開発株式会社
詳細は表技協HPをご覧ください >>http://soatassoc.org/




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(Up&Coming '20 秋の号掲載)

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