Vol. 50
このコーナーでは、ユーザーの皆様に役立つような税務、会計、労務、法務などの総務情報を中心に取り上げ、専門家の方にわかりやすく紹介いただきます。今回は、産業医の役割と選任のコツについて解説いたします。
 
産業医について

はじめに

 大きな会社では当たり前の存在ですが、まだ会社が創業して間もない時期であれば知らない場合もあるのが「産業医」です。それもそのはず、産業医を選任する必要があるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場であるからです。ただずっと知らないままですと、だんだんと会社が大きくなった時に「何をしてもらうべきなのか?」、「どうやって選任すればよいのか分からない」ことになってしまいます。
 産業医とはどのような役割をするもので、どのように選任すれば良いのかを確認していきます。

産業医とは

 産業医とはどのような立場の人なのでしょうか。東京都医師会によると、「事業場において労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、専門的立場から指導・助言を行う医師をいいます」とあります。
 医師であれば誰でも良いわけではなく、産業医には条件があり、以下のいずれかの要件を備えた者から選任します。


・厚生労働大臣が指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を終了した者
・労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生であるもの
・学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、助教授、講師(常時勤務する者に限る)の職にあり、又はあった者
・産業医の養成過程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者

産業医の職務
 産業医は、労働者が健康に就労できるよう健康管理等を行う役割がありますが、具体的には以下のことが行うべき事項(職務)として定められています。


①健康診断の実施とその結果に基づく措置
②長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
③ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
④作業環境の維持管理
⑤作業管理
⑥上記以外の労働者の健康管理
⑦健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
⑧衛生教育
⑨労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置

 また、この他に産業医は労働者の健康を確保するために必要があると認めるときは、事業者に対し労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができ、上記項目について総括安全衛生管理者に対して勧告し、又は衛生管理者に対して指導し、助言することができます。
 さらに、産業医は少なくとも毎月1回の定期巡視を行い、作業方法又は衛生状態について労働者の健康に有害のおそれがあるときは、直ちに健康障害を防止するための必要な措置を講じます。ただし、事業者から産業医に所定の情報が毎月提供されており、巡視の頻度の変更に事業者の同意がある場合には、2ヵ月に1回の巡視でも問題ありません。
 この他、衛生委員会や安全衛生委員会に参加し、職場環境や働き方について専門家の立場からアドバイスを行います。なお、衛生委員会へのメンバーには必ず産業医は必要となりますが、毎回の出席は義務とはなっていません。



産業医を選任する事業場とは

 産業医は、事業場の規模に応じて選任することになります。ポイントは、事業所の総人数ではなく各事業場での人数による、ということです。つまり、本社のみしかなく労働者が50人以上となった場合には産業医の選任が必要ですが、本社の他に支店があり労働者の総数が50人以上であっても、本社・支店それぞれの事業場が50人未満の場合には産業医の選任は必要ないということになります。

業種 事業場の規模
(常時使用する労働者数)
産業医の選任
産業医の人数 専属の産業医の選任が必要な事業場
すべての業種 50人未満 産業医の選任義務なし
50~499人 1人 該当なし
500人~999人 ※に該当する事業場
1,000人~3,000人 該当
常時1,000人以上の労働者を使用するすべての事業場
3,001人以上 2人

※労働安全衛生規則 第13条第1項第2号で定める特定業務(有害な業務:例えば、高熱、騒音、粉塵、有害ガス業務など)に常時500人以上の労働者を従事させる事業場

 産業医を選任すべき、常時使用する労働者50人以上となった場合は14日以内に選任するとなっていますので、50人に達する前から産業医については探し始めることが現実的かと思います。選任した場合は、所轄労働基準監督署へ産業医選任報告書を提出します。また、産業医を変更した場合にも労基署への報告が必要となります。
 労働者が50人未満の事業場については、産業医の選任義務はありませんが、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師等に労働者の健康管理等の全部または一部を行わせるよう努力義務があります。ここで言う医師等には、医師の他、保健師(産業保健師)が該当します。

産業医の選び方

 それでは産業医はどのように選べば良いのでしょうか。産業医を探す時は様々な方法があります。


・都道府県医師会や郡市区医師会に相談する
・近隣の医療機関に相談する
・健診を依頼している機関に相談する
・知り合いの産業医に相談する
・同業他社や知り合いの会社で選任している産業医を紹介してもらう
・産業医紹介サービスを利用する         ・・・など

 産業医の職務は多岐に渡りますが、契約にあたって自社で特にどんなことを要望したいのかを明確にしておきましょう。健康診断後の面談なのか、メンタルヘルス対策なのか、高ストレス者の面接指導なのか等です。コミュニケーションが取れない、ストレスチェック実施者をしてもらえない、産業医が忙しくてなかなか面談してもらえない、衛生委員会に出席してもらえないといった理由での産業医変更も多くあります。 産業医の経験や対応できる範囲と自社の具体的な要望や業務の進め方などを事前に面談等で相互に確認しておくと良いでしょう。その際にコミュニケーションが取りにくい、自社の方針とは合わない、スキル不足が判明すれば違う産業医にすることも大切です。

おわりに

 昨今は生活習慣病以外にもメンタルヘルス不全なども多く、復職に関して産業医の面談や判断を復職の基準としている企業も多くあります。主治医だけの診断では本当に自社の求める就業が可能かどうか判断しづらいこともあるからです。産業医とはしっかり情報共有やコミュニケーションをとり、より労働者の健康管理を適切に行える事業所としていきましょう。



監修:社会保険労務士 小泉事務所

(Up&Coming '25 春の号掲載)



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