ピルビスワーク実践講座

連載 第14回


動けるからだを造るピルビスワーク
「物忘れやイライラが増える意外な原因とその解決法」

一般社団法人 日本ピルビスワーク協会

立花 みどり

profile

立花みどり

一般社団法人日本ピルビスワーク協会特別顧問
1980年代のフィットネス全盛期、多くのエアロビクスインストラクターの育成と、ダンススタジオの委託運営を手掛けた、エクササイズの草分け的存在。その後、『ヒトのカラダは骨盤が支えている』という点に着目し、一般社団法人日本ピルビスワーク協会を設立。以降、骨盤ブームの第一人者として活躍している。40年間に渡る研究と研鑽を重ねた“立花メソッド”は、人々の健康に大きな影響を与える施術というのみならず、その思想、哲学に至るまで洗練された人生論、生き方論であり、ヒトの生き方は姿勢に現れるという信念のもと活動を続けている。フォーラムエイトの健康経営の一環として毎週水曜に開催されているピルビスワークストレッチプログラムの講師も務めている。

日々のビジネス環境では、迅速な対応や高い生産性が求められる中、特に集中力の維持やミスの防止が重要です。しかし、集中力が続かない、イライラしやすくなった、ケアレスミスが多くなったと感じることはないでしょうか?

そのような症状の背景には、意外にも運動不足から起きる「肩関節の振動覚の低下」が影響しているかもしれません。今回は、このメカニズムと改善方法についてご紹介します。

 

肩関節の振動覚とは?

振動覚とは、身体が振動を感じ取る感覚のことです。皮膚や筋肉、関節にある特殊な受容体が振動を感知し、脳に伝達しています。この感覚は姿勢の維持や体の位置感覚を把握するために重要で、特に肩関節は腕や体幹を支え、さまざまな姿勢や動作において重要な役割を担っています。

しかし、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用などで、全身の中でも、肩がほとんど動かない状態が続くと、肩関節の振動覚が鈍くなります。振動覚が鈍ることで肩の緊張が高まり、肩こりや姿勢の悪化が進行し、最終的には心身の不調を引き起こす可能性があります。

この不調が長く続くと、集中力が途切れやすくなり、イライラしやすくなるなど、日常業務にも影響が出てしまいます。

 


参考文献「医学事始」

 

振動覚が鈍ることによる影響

1. 集中力の低下

振動覚が低下すると、体から脳への感覚刺激が減少するために、脳から全身に送る指令が不明確になり、集中力や注意力が低下する傾向があります。特に肩関節の動きが鈍くなると、脳の反射区密集している手からのフィードバックが不足し、些細なことで気が散りやすくなります。

2. ストレスやイライラの増加

慢性的に肩や首の筋肉が緊張してこることで、脳への血液や脳脊髄液の循環が悪くなり、脳疲労が進行して、無意識にイライラを感じやすくなり、日常の小さな出来事に過剰に反応してしまうことが増えます。特に長時間のデスクワークが続くと、リラックスするのが難しくなります。

3. 物忘れの増加

肩関節の振動覚が低下すると脳への刺激が不足し、記憶力にも影響を及ぼすことがあります。会議での内容を忘れてしまったり、タスクを記憶しづらくなるため、仕事のパフォーマンスが低下することも考えられます。

 

適度な関節への振動刺激

肩関節の振動覚を改善するためには、適度な頻度で振動刺激を与えることが有効です。仕事の合間や脳疲労が蓄積する前に、肩や関節に刺激を与えるための工夫を取り入れてみましょう。

 

日常に取り入れたい簡単な方法

1. 軽い肩回しやストレッチ

長時間同じ姿勢が続かないよう、1時間に1度は背筋を伸ばし、肩を開き胸式呼吸での深呼吸を行いましょう。さらに肩を前後に回したり、腕を上に伸ばしたりすることで、肋骨から肩周辺の関節筋肉が活性化し、振動覚が回復しやすくなります。

2. マッサージやバイブレーション機器の利用

直接軽い振動を振動型器具やハンディマッサージャーで肩や首に使用することで、即効的に筋肉がリラックスし、関節や筋肉への適度な刺激が振動覚の回復を助けます。血流が良くなりリラックス効果も得られるため、ストレスの緩和にも役立ちます。

3. 手や肘の疲労の解消も脳ストレスを軽減する

肩関節の振動刺激とストレッチに止まらず、手のひらや手の甲、肘関節への振動仕事もおすすめです。例えば、指の腹でデスクをコツコツ叩く、手首の力を抜いて、右手で左手をパチパチとクラップする。軽く握った握り拳で、反対側の肘をドンドン叩くようなカンタンな肘下への振動も肩に適度な刺激を与える脳と神経のリフレッシュ方法です。

4. 目や耳のリラクゼーション

深呼吸や瞑想を取り入れたリラクゼーションも効果に期待が持てますが、目と耳の感覚器の疲れも思考や行動力の低下につながります。目や耳に近い肩の振動覚の低下は、目や耳の疲労にダイレクトに影響しますから、眼輪筋と側頭筋のマッサージを休憩時間に5分程度試してみると良いでしょう。

 

日常での意識的な工夫

肩関節の振動覚を保つためには小まめに股関節を動かす習慣を持つことが大切です。股関節は肩関節と相乗した働きをしているので、股関節の動きが衰えると肩の動きも低下します。

近年は座ったままでも股関節に振動刺激を送れる「ジグリング」と言う、貧乏ゆすりを想わせる運動方法も、医療の現場では奨励されています。ジグリングと共に、1時間毎にトイレに立ち歩くようにするなど意識して体を動かす習慣を取り入れてみましょう。数m歩くだけでも肩関節だけでなく体全体の血行が促進され、心身のリフレッシュにもつながります。

 

まとめ

物忘れやイライラの原因は、単なるメンタル的な問題だけではなく、肩関節の振動覚の低下という身体的な要因も関係しています。日々の生活で肩関節に軽い振動や刺激を与えることを心がけ、適度なストレッチやエクササイズを取り入れることで、こうした症状の予防が可能です。オフィスでも関節を揺らして、さらにストレッチを習慣にし、心身の健康維持を意識して、仕事に集中できる環境を整えていきましょう。

(Up&Coming '25 新年号掲載)



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