芸術の秋を堪能 「ストップモーション・アニメーション」特集

芸術の秋、皆さんどのように過ごされるご予定でしょうか?映画界では、10~11月に掛けてアカデミー賞の有力候補の作品が上映、日本では10月末から東京国際映画祭が始まり、芸術の秋真っ盛りのシーズンとなります。

実写作品を紹介しても良いのですが、今回は独特の魅力を放つストップモーション・アニメーションを取り上げます。一見3DCGのアニメにも思えますが、実際に人形やジオラマを作り一コマずつ動かしてカメラで撮影をしています。気が遠くなるような作業ですが、一コマ一コマが芸術の塊です。ぜひとも秋の夜長にいかがでしょうか。

ここでしか見られない日本の原風景
「KUBO クボ 二本の弦の秘密」

現代のストップモーション・アニメーションを語る上で外せないのがアニメーションスタジオ「LAIKA(ライカ)」です。LAIKAは設立して初めての長編作品でゴールデングローブ賞にノミネートし、常に新作に注目が集まっています。これを機会に、是非LAIKAの名前を覚えて下さい。

今作は中世の日本を舞台としており、黒澤明の「七人の侍」のような風格さえ漂っています。どう見てもCGにしか思えないのですが、毛並みのリアル感やキャラの動かし方に違和感を覚えるはずです。当然です。全て手作業で動かしているのですから。中世の日本がこのような形で視覚化されるのは私が知る限り初めてです。奇跡のようなショットに酔いしれてください。

「KUBO クボ 二本の弦の秘密」 2017年 アメリカ映画
上映時間:103分 監督:トラビス・ナイト
出演:マシュー・マコノヒー、シャーリーズ・セロンほか
見所:CGとしか思えない美麗な自然風景、生き物の動作に感動!

2019年4月2日発売『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』
ブルーレイ:¥2,200(税込) DVD:¥1,257(税込) 発売・販売元:ギャガ
(C)2016 TWO STRINGS, LLC. All Rights Reserved.


本当に失ってはいけないリンクとは
「ミッシング・リンク  英国紳士と秘密の相棒」

「KUBO」と同様、LAIKAが制作したストップモーション・アニメーション。ディズニーの「トイ・ストーリー4」を抑えて、見事ゴールデングローブ賞を獲得しました。こちらもCGにしか思えない滑らかな動きで、3Dプリンターによってキャラの顔を複数種類作り、セリフに合った口の動きに合わせています。

また、今作は動物が多く登場することから、キャラクターの毛並み表現の精細さが際立ちます。1本1本、まるで本当の毛並みのような質感に驚きます。

物語としては、ブルジョワな英国紳士が世界の不思議を解き明かすといった「八十日間世界一周」のような話なのですが、肝心なのは彼が世界の不思議を発見した後。生きた化石=ミッシング・リンクというビッグフットのような生き物を発見し彼の目的は達成されるのですが、そこから二人の絆が深まりイギリスに連れて帰ることを放棄します。本当に失ってはいけないリンクは、二人の絆。分断が叫ばれる現代に問いかける。大人こそ鑑賞して欲しい一本です。

「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」 2020年 アメリカ映画 上映時間:95分
監督:クリス・バトラー 出演:ヒュー・ジャックマン、ゾーイ・サルダナ
見所:アナログな手法で現代的なテーマを問いかけるヒューマンドラマ性の高い一本

2021年4月23日発売『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』
ブルーレイ:¥5,280(税込) DVD:¥4,180(税込) 発売・販売元:ギャガ
(C)2020 SHANGRILA FILMS LLC. ALL RIGHTS RESERVED


1人の日本人が7年の歳月を掛けて作った奇跡の作品
「JUNK HEAD」

途方もない時間と労力が掛かるストップモーション・アニメーションを、ほとんど1人で制作した今作。制作した堀貴秀さんは、本職は内装業ながらも芸術家を目指していて、「君の名は」で知られる新海誠監督がほぼ1人でアニメを作っていたことを知り、映画製作に挑戦しました。ただし、新海誠監督のようなキラキラした世界観ではなく、今作は人類滅亡の危機に瀕しているディストピアな世界観です。

美術やキャラクターの製作はもちろん、編集も撮影も音楽も、声の出演でさえもほぼ1人でこなしました。カナダで開催されたファンタジア国際映画祭で最優秀長編アニメーション賞を受賞し、日本に逆輸入する形で上映されました。ちなみに総カット数は約14万。つまり、14万回キャラの人形の手足や口の動きを微調整しながら撮影したのです。本当に、本当にお疲れ様でした。

「JUNK HEAD」 2017年 日本映画 上映時間:99分
原案・監督・撮影・編集・その他諸々:堀貴秀
見所:ほぼ全てを1人でこなした異色のストップモーション・アニメーション

名匠が贈る日本へのラブレター
「犬ヶ島」

テキサス州出身の監督ウェス・アンダーソンが、日本への愛を込めて作ったストップモーション・アニメです。全てのシーンで左右対称(シンメトリー)な構図。水平移動、鉛直移動しかしない、非常に制約されたカメラワーク。妙な撮り方なのに、あまりの映像の美しさに思考を奪われ、気付けば目には大量の涙が…。この世に完璧な人などいない。誰しも足りないものがあり、制約されています。しかし、その制約を受け入れ追求していくことで、その人しか出せない才能が光り輝く時があります。それが、この映画に凝縮されていました。

「犬ヶ島」 2018年 アメリカ映画 上映時間:101分
監督:ウェス・アンダーソン 出演:ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン
見所:鬼ヶ島の物語をベースに不可思議な近未来のニッポンを描いた作品




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(Up&Coming '22 秋の号掲載)
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