株式会社フォーラムエイト
オートモーティブ アドバイザー

松井 章

Akira Matsui

1959年生まれ。三重県伊勢市出身。大学卒業後、1984年に某自動車会社に入社。空力性能を中心としたクルマの運動性能評価を担当。
その後、電子制御システムの開発部署に異動し、ABS/ESPやADAS/AD関連の開発に従事。さらに、インフラ協調システムや、MaaSの企画・開発も担当。退社後、現在は、フリーランスとして、クルマ開発に関する各種業務を受託。

第2話 クルマの自動運転化

はじめに

第2話では、「CASE」の「A」。「CASE」の取り組みの中でもクルマの知能化という特に象徴的なテーマである「Autonomous」、すなわち、自動運転に関する状況について、スポットを当てます。

ドライバーは、複雑な交通環境下で、「認知」→「判断」→「操作」という運転行動を絶えず繰り返し、クルマを操作。時には少々の寄り道もしながら、計画した目的地まで移動します。自動運転とは、この運転行動を機械であるクルマが代行することにより、生身のドライバーにありがちな注意力低下やわき見、疲労による運転ミスなどを防止し、交通安全の向上に寄与することが、大きな目的のひとつです。また、人や物を運ぶ移動サービスなどでは、省人化や効率化による大きな経済効果も期待できます。

旧来の自動車会社ではないIT企業なども参画し、自動運転の開発が世界中で大変盛り上がっています。それは、レーダーやカメラなどの周辺認識センサーやAIなどのソフトウエア技術、複雑な処理をこなす高性能なプロセッサーなどの技術的なシーズが整えられてきたことにより、自動運転が遠い夢の技術ではないと考えられるようになったためです。

図1 運転の概念〈ドライビングループ〉

CC→ACC→CACC→□□□□□

これは、人気番組の「東大王」のひらめき問題ではありません。ドライバーがアクセルやブレーキの操作をしなくても、クルマが自動的に速度を調整して走行することができる「クルーズコントロールシステム」の種類を示す略称であり、文字が増えるほど、高機能になります。

CCは、「Cruise Control」の略称。ドライバーが予め設定した一定の車速で走るようにクルマが速度を調整するシステムです。

ACCは、CCに「Adaptive(適応できる)」が追加されたものです。CCの機能に加え、レーダーなどのセンサーの搭載により、前走車との車間距離や相対速度を検出し、速度を調整する一定車間維持機能が備わっています。ちなみに、ACCは、「Auto Cruise Control」の略と誤解されがちですが、「Adaptive Cruise Control」が、正しい用語になります。

CACCは、ACCに、さらに「Cooperative(協調的な)」を追加した略称です。車両間の通信機能を加え、前走車の加速・減速操作などの情報をリアルタイムに取得することにより、素早く前車に追従して、よりスムーズな走行を実現します。いわば、ACCのプレミアムバージョンです。

CCとACCは、たった一文字の違いですが、クルマが自ら走行環境に適応する「Adaptive」機能の有無に大きな意味があります。筆者は、この「A」が、自動運転技術の本質を示すものであり、ACCは、自動運転技術の元祖と考えています。

ACCは、レーダーやカメラなどの人間の眼に相当するセンサーにより、前走車との車間距離や相対速度を「認知」し、自車の走行状況との比較から加速・減速の必要性を「判断」し、アクセルを踏んだり、ブレーキを掛けるといった「操作」を行いますから、まさに前述の自動運転の定義に合致しています。

ACCは、1995年に三菱自動車によって製品化され、各自動車会社も積極的に開発を進め、現在は、普及価格帯のクルマまで広く装備されています。

さて、□にはどんな文字が入るでしょうか? まだ、世の中に存在していません。みなさんもぜひ、自動車会社のエンジニアになったつもりで考えてみてください。

自動運転のレベルって?

自動運転は、走行できる条件やクルマによる運転代行の内容によって、技術的に5つのレベルに分類されています。(表1)

レベル

運転主体

機能

1

ドライバー

前後・左右のいずれかの運転支援(ACCなど)

2

ドライバー

前後・左右の組み合わせの運転支援(車線維持機能+ACCなど)

3

クルマ/ドライバー

特定の条件下での自動運転。継続困難な場合は、ドライバーが対応

4

クルマ

特定の条件下での完全自動運転

5

クルマ

完全自動運転

表1 自動運転のレベル

レベル1と2は、運転行動の主体は、ドライバーであり、クルマはドライバーの運転操作を支援するものという関係になります。主体がドライバーであることを明確にするために「運転支援車」と呼びます。レベル1と2の違いは、支援の方向が1つか2つの組み合わせかの違いです。

レベル3、4、5は、運転行動の主体がクルマになり、「自動運転車」と呼び区別します。レベル3と4には、走行できる道路など特定の条件が付きますが、レベル5には走行条件の制約はありません。

レベル3では自動運転の継続が困難な場合には、ドライバーによる運転操作が求められるのに対し、レベル4、5では、求められることはなく、ドライバーの存在を前提としません。

レベル5は、道も選ばす、ドライバーも不要な、究極の完全自動運転ということになります。

レベル1~3のシステム

前述のACCは、前後方向の運転を支援するレベル1の自動運転の代表選手であり、現在発売されている多くのクルマに搭載されています。

現在、実用化されている自動運転の主流は、レベル2。日産の「ProPILOT」やトヨタの「Advanced Drive」などが代表例です。前後方向の支援に対し、走行レーンに沿ってハンドルを操作する横方向の支援も加えたものになり、手放し運転(ハンズオフといいます)を許容するシステムも存在します。

世界に先駆けて製品化されたレベル3のクルマは、2022年に発売されたホンダレジェンドになります。自動運転機能の「Honda SENSING Elite」が搭載されており、渋滞中の高速道路上には限定されますが、レベル3での走行時には、ドライバーはクルマの状態や走行環境を監視する行為から離れることができ、ナビ画面での動画視聴やナビの目的地設定などの行為(アイズオフといいます)が許容されます。(図2)

図2 レベル3の自動運転イメージ

レベル4~5のシステム

省人化など、自動運転の直接的な恩恵を得られやすいのは、個人保有のクルマより、クルマを使って人や荷物を運ぶ移動サービスと考えられます。レベル4の実現は移動サービスから導入というのが、最近の主流の考え方です。世界各地と同様、日本でも移動サービスの実証実験が各地で盛んにおこなわれ、実用化に移行する段階にあります。

日本では、今年の4月1日より、レベル4車両の公道運用を許可する法改正が施行され、福井県永平寺町で実証実験を重ねてきた車両が、国内ではじめてレベル4の自動運行車両・サービスとして国土交通省、福井県公安委員会の認可を受けました(図3)。遠隔監視機能を備えていれば、そのクルマにドライバー相当の人が乗っていなくてもよいといった内容がポイントであり、「クルマ版のゆりかもめ」といったイメージになります。2025年には40箇所での運用が計画されており、永平寺町をはじめとした各地域での実運用の知見を積み上げながら、他地域でも導入が進んでいくものと思います。

図3 自動運転「レベル4」の認可を受けたクルマ

レベル5は、「完全自動運転」といい、どんな条件でもクルマが運転操作を行います。乗客としてタクシーに乗っている状態が、それにあたると考えられます。世間話好きのタクシーの運転手さんに遭遇すると、少々閉口する場合もあるかもしれませんが、レベル5車両は望まない限り無駄話もせず、黙々と正確に目的地まで運んでくれます。でも、時々は、おしゃべり運転手さんが恋しくなり、いずれレベル5のクルマにも、Chat GPTなどのAIを組み込んだ世間話機能が搭載されるものと筆者は思っています。

第1話でも触れましたが、筆者は、「流星号、応答せよ!」といえば、路地裏のどんな怪しげな居酒屋にも、さっとクルマが迎えに来る日がくるのを楽しみにしています。

開発シミュレーションツールのご紹介

自動運転の開発には、前方への他車の割り込みへの応答など、複雑な交通環境の変化に合わせた滑らかな制御ができているか、乗車しているドライバーやパッセンジャーにとって、制御のタイミングなどに違和感がないかなどの確認が重要です。

フォーラムエイトの主力製品であるUC-win/Roadは、多様なリアルタイム・シミュレーションが行える先進の3次元リアルタイム・バーチャルリアリティソフトウェアです。道路や自車の周囲のクルマや人などの3次元の交通環境や狙ったタイミングで割り込まれるなどの走行シナリオをユーザーが簡単なPC操作で作成できます。テストコースや公道での実車での評価では危険を伴うようなテストシナリオでも、安全に正確に何度でも再現することができます。実環境での評価・確認は、当然必要ですが、効率的・効果的に補完するツールとして十分な能力を持っています。(図4)

図4 UC-win/Roadを使った走行シーン

フォーラムエイトでは、自動運転の開発プラットフォームであるROS/ROS2と連携した実験環境やAUTOSAR組み込みサービスの提供など、みなさまの要望に応えることができるソリューションを準備しています。ご興味がありましたら、お気軽に営業担当までご連絡いただきますようお願いします。

おわりに

フォーラムエイトは、2022年度に引き続き、今年もFIA世界ラリー選手権日本ラウンド「WRC FORUM8 Rally Japan 2023」のオフィシャルタイトルパートナーです。

今年は、ついにFORUM8チームの自動運転レベル5を搭載したラリーカーが日本の峠道を爆走する予定です!!!と、衝撃の事前告知をしたいところではありますが、ほんのちょっぴり開発が間に合っていない状況です(笑)。

それほど遠くない日に雄姿をお見せできることをお約束して、しばらくはVRでお楽しみください。

2023年度のWRC Japanは、11月16日から、愛知/岐阜を舞台として開催されます。愛知県豊田スタジアムで、皆様と一緒にセレモニアルスタートを迎えることを楽しみにして、筆を(キーボードを)おきます(図5)。

図5 FORUM8 Rally Japan2022フォーラムエイトブースでのシュミレータ体験の様子(上、中央)とRally Japan ドライビングシミュレータ(下)

(Up&Coming '23 盛夏号掲載)



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