本連載は、「システム開発」をテーマとしたコーナーです。フォーラムエイトのシステム開発の実績にもとづいて、毎回さまざまなトピックを紹介していきます。今回は、UC-win/Roadでモニタリングシステムを開発した事例をご紹介します。

対人物・重機用GPSによる工事現場モニタリングシステム

はじめに

建設業界の労働力不足は喫緊の課題であり、より効率的・効果的な作業方法が求められています。例えば管理業務等で技術者が工事現場まで向かう必要がある場合、移動時間やコストが増大します。遠隔で現場をモニタリングできる環境が存在すれば、問題は解消されるのではないでしょうか。

また、脱炭素社会の実現やGX(グリーントランスフォーメーション)のために、燃費やCO2の詳細把握も重要視されています。今回は、対人物・重機用GPS端末を開発し、弊社開発のUC-win/Roadでモニタリングシステムを開発した事例をご紹介いたします。

システム概要

本システムの概要を図1に示します。RTKによる高精度な位置情報をUC-win/Roadに送信し、作業員と重機の位置をリアルタイムに把握することで、下記の機能を実現します。

●接近検知

 作業員と重機の距離を計算し、接近すると警告表示する。接触事故を防ぐ。

●燃費、CO2算出

 重機の走行距離に基づき、燃費、CO2排出量を算出する。

図1 モニタリングシステム概要

UC-win/Roadによるモニタリングシステム

(1)UC-win/Road連携による人物、重機のリアルタイム表示

人物、重機に搭載されたGPS端末からの位置情報をもとにUC-win/RoadのVR空間上に人、重機の3Dモデルを表示します(図2)。

(2)検知機能

設定画面では人物、重機のカテゴリ、モデル、警告検知範囲等を設定します。属性情報は端末に割り振られた属性を設定します。この属性情報によってGPS端末がどの3Dモデルに対応するかを設定します。設定画面で設定した情報をもとにVR空間上に人物、重機のモデルを表示します。表示したモデルの周辺には、警告領域(黄色)、停止領域(赤色)を表示します。なお、領域の色や透明度は変更可能です。

人が停止領域内に入った場合、黄色で警告文が表示されます。また、警告領域内に入った場合は赤色で表示されます。

人物、重機モデルの警告領域が他のモデルと接触した場合、各GPS端末に接触情報を送信します。GPS端末が接触情報を受信した際は取り付けられた警告ブザーから警告音がなります。

また、接触した領域の種類によってブザーの音の大きさが変化します。

図2 人物検知 赤:警告領域、黄:停止領域

(3)走行記録を活用した燃費、CO2排出量の算出

重機に取り付けられたGPS端末からの位置情報からシミュレーション時間、走行距離を測定し、燃費、CO2の排出量を算出します。算出した燃費とCO2排出量等のログをCSV形式のファイルで出力します。

燃料使用量は、単位時間当たりの燃料消費量(L/h)とシミュレーション時間の乗算で算出します。燃料消費量は重機のエンジン出力と燃料消費率から求められます。

燃費(km/L) = 走行距離(km)÷ 燃料使用量(L)

CO2排出係数(kg-co2/L)については、軽油であれば2.62、揮発油であれば2.29となります[1]

CO2排出量(kg)= [走行距離(km)÷ 燃費(km/L)] ×CO2排出係数(kg-co2/L)

RTK測位による高精度な位置情報把握

施工現場のモニタリングシステムの構築のためには、人や重機の位置情報を高精度かつリアルタイムで測定する必要があります。測定には、人口衛星から位置情報を取得する方法(GNSS)があります。そのうち、単独の受信機から位置情報を取得する手法(単独測位)が一般的ですが、従来の手法では精度が数十センチ以上発生するため、モニタリングには適していませんでした。

そこで本システムではRTK(Real Time Kinematic)を採用し、対人物・重機用GPSの開発を行いました(図3)。RTKは相対測位法の1つであり、基地局と移動局の2つの受信機によって位置情報を相対的に取得する方法です。これにより、誤差を数センチ以内に収めることに成功しています。

また、位置情報を時系列的に取得できるため、走行距離に基づく燃費、CO2排出量が算出可能となります。

図3 単独測位とRTKの違い

対人物・重機用GPSの開発

(1)ハードウェア

GPS端末を開発するにあたり、携行性、耐久性、防水性など様々な考慮が必要ですが、その中でも重要なのが長距離通信です。工事現場のような広大なエリアかつ通信設備の拡充が難しい環境では長距離通信が必要であるため、アンテナの指向性や取り付け方法に注意して開発を行いました(図4)。

図4 GPS端末(作業員用)

(2)GPS端末管理アプリケーション

端末ごとの通信設定や装着先種別の設定を行うためのアプリを開発しました。例えば、作業員Aは接近警告あり、作業員Bは接近警告なしというように、状況に応じて端末ごとに設定できます。

おわりに

今回は、弊社開発の対人物・重機用GPS端末とUC-win/Roadで工事現場のモニタリングシステムを開発した事例をご紹介しました。インターネットが使用できない作業エリアにおいても、基地局アンテナを設置し、移動局を人と重機に取り付けることで、リアルタイムで重機・人を正確にモニタリング可能となりました。建設機材によっては接触防止装置が搭載されているものも存在しますが、古い機材では搭載がなく、かつ規格が統一されていません。本システムで開発したGPS端末であれば、同規格の端末をあらゆる建設機材に取り付け可能です。さらに、UC-win/Roadにすべての情報を集約し、モニタリングが可能になります。

本システムにより、従来よりも効率的な施工管理が実現するのではないでしょうか。今後の開発にぜひご期待ください。

参考文献

[1] 環境省:温室効果ガス排出量の算定方法・排出係数一覧

https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/calc/itiran_2023_rev4.pdf

(Up&Coming '25 春の号掲載)



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