IT活用による建設産業の成長戦略を追求する「建設ITジャーナリスト」家入 龍太
イエイリ・ラボ体験レポート
Vol.58
河川シリーズ体験セミナー
【イエイリ・ラボ 家入龍太 プロフィール】
BIM/CIMやi-Construction、AI、ロボットなどの活用で、生産性向上やコロナ禍などの課題を解決し、建設業のデジタル変革(DX)を実現するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式サイトはhttps://Ken-IT.World

建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望などをお届けする予定です。

はじめに

建設ITジャーナリストの家入です。河川の洪水を防ぐ防災対策では、河川の各部分が流せる流量を精密に把握し、その流域の雨量を正確に予測することが第1歩となります。そして万一、川が氾濫した場合に備えて、浸水する範囲や水深を予測し、ハザードマップや避難計画を作成しておく必要があります。

河川の流量や氾濫範囲などの計算は、エネルギーのつり合いや、地形・標高をもとに計算されますが、計算に必要な変数が非常に多く、データ数も膨大なため、以前は最もシンプルなケースに限定した計算しか行えませんでした。

しかし、最近は河川や地形を高精度な3Dレーザー測量などによって計測できるようになりました。そのデータをコンピューターに取り込んで、連続的に変化する河川・地形の形状をそのまま生かして洪水の解析を行えるようになってきました。その結果、洪水の危険度やハザードマップなどの精度も上がり、実際の災害時に浸水範囲とハザードマップがよく一致していたという話もよく聞きます。

また、河川の災害を防ぐためには、河道の長期的に安定させる「落差工」と呼ばれる構造物を要所要所に設けて流速を抑えたり、コンクリート製の河川堤防や鋼矢板による河川護岸を設けたりして、河川流による洗掘などを防ぐ対策も必要です。

フォーラムエイトは、これらの河川防災から構造物による対策までを、精密な3Dデータやコンピューターを駆使して行う「河川シリーズ」のソリューションを開発・提供しています。さらにその結果を、リアルタイムVR(仮想現実)システム「UC-win/Road」によって、氾濫推定図をわかりやすく表示することもできます。

▲2023年4月25日に開催された
『河川シリーズ体験セミナー』
「小規模河川の氾濫推定計算」など、河川に関する
5つの製品について、機能紹介と操作実習を行った

▲河川シリーズによって解析された河川氾濫図をUC-win/Roadに読み込み、見える化した例


製品概要・特長

フォーラムエイトの河川シリーズのうち、河川の流れを解析するプログラムとしては「等流・不等流の計算・3DCAD Ver.9」があります。

河川や水路など、「水面」のある流れは、流速が遅いところでは水深が深く、流速が速いところでは水深が浅くなります。

流速が速いか遅いかの基準となるのは、水面を伝わる波の速さです。流速が波より遅い場合は「常流」、早い場合は「射流」、同じ場合は「限界流」と言います。学校で水理学を学んだ人は、これらの用語を聞いたことがあるでしょう。

▲常流と射流のイメージ。射流から上流に変わるところでは「跳水」という現象がある

実際の河川に当てはめてみると、勾配が緩い通常の区間では常流、急な区間は射流となり、射流から常流に移るところでは「跳水」という現象が起こって再び常流に戻ります。また河川の幅や断面の形・寸法がずっと一定の場合の流れを「等流」、場所によって変わる場合を「不等流」と言います。

「等流・不等流の計算・3DCAD」では、現場の状況や求められる精度によって、「レベル1」から「レベル3」までの5種類のモデルや平均流速公式を使って解析します。複雑なエネルギーのつり合い計算を行うため、水位を少しずつ変えてトライアンドエラーを繰り返す「収束計算」という方法をとります。その過程は収束曲線というグラフで表されるので、技術者は正常に収束が行われたかどうかを確認できます。

▲収束計算の過程をグラフ化した収束曲線

河川断面ごとに、洪水による氾濫の恐れがある水位(氾濫開始水位)を設定し、水位と流量の関係式である「H-Q」式からこの水位での流量を算出できます。その結果、氾濫の恐れがある断面を突き止めることができるのです。

▲河川断面ごとの氾濫開始水位から流量を求めた画面。氾濫の恐れがある断面を特定できる

氾濫の推定に使えるプログラムとしては「小規模河川の氾濫推定計算」があります。河川が氾濫した後、河川に沿って流れる「流下型氾濫」や一定の範囲に水が留まる「貯留型氾濫」の解析に対応しています。

▲「小規模河川の氾濫推定計算」は流下型氾濫と貯留型氾濫に対応しているが、拡散型氾濫には対応していない

洪水時には、川幅に沿って仮想の壁を立てた場合を想定した「壁立て計算」によって仮想の流量を計算し、実際に河道が流せる流量との差をとって氾濫流量を求めます。

この氾濫流量から、氾濫の範囲や水位を求め、氾濫推定図を作成します。氾濫推定図はグーグルアースなどで使われる「KMLデータ」として、国土地理院の地図上に描画することもできます。

▲氾濫範囲は、KMLデータで国土地理院の地図上に重ねて表示できる

洪水時の河川を強化する構造物としては、河川に落差を設けて水流を弱める「落差工」や、市街地などで河川堤防を高くする「RC特殊堤」、そして護岸を垂直にして河川断面を広げる「矢板式護岸」などがあります。

落差工の設計プログラムとして、フォーラムエイトは「落差工の設計計算 Ver.3」を開発、販売しています。落差工とは、河川の流れによって河床が洗掘されるのを防ぐため、河川に落差を設ける構造物です。

落差工を越流した水はいったんコンクリート製の水たたきと呼ばれる部分に落下して射流になり、その後、跳水を起こして再び流れの緩やかな常流になります。この跳水現象の部分で水のエネルギーを損失させて河川を洗掘から守るのです。

▲落差工の原理。越流した水は、水たたき上で射流→跳水→常流と変化し、水のエネルギーを損失させる

▲ステンレス流し台に蛇口からの水を落としたところ。落差工と同じように射流→跳水→常流の部分ができている

「落差工の設計計算 Ver.3」では、直壁型と緩傾斜型の落差工を対象に水理計算を行って、水たたきの必要長さや厚さ、根入れ長などを計算するほか、落差工本体の土圧、水圧、揚圧力に対する安定計算、落差工や水たたき構造物自体の応力照査や配筋の自動決定などを行います。

▲落差工の設計計算で自動決定された落差工本体や水たたき形状の結果。左が直壁型、右が緩傾斜型

RC特殊堤の設計用には、「RC特殊堤の設計計算 Ver.1」があります。このプログラムでは堤体となる逆T型の鉄筋コンクリート擁壁と、杭基礎(交換、RC、PHC、H鋼)の強度や安定計算を行います。また、堤体下の浸透水流を防ぐために設置される「うなぎ止め」と呼ばれる遮水壁の影響を考慮した設計も行えます。

▲RC特殊堤のイメージ。逆T型の鉄筋コンクリート擁壁の下には、うなぎ止めや杭基礎がある

▲うなぎ止め(遮水壁)の影響を考慮した揚圧力。河川側の水位が高いため、揚圧力も高くなっている

矢板式護岸の設計には、「矢板式河川護岸の設計計算Ver.2」というプログラムがあります。設計対象は「自立矢板式」の護岸で、材料は鋼矢板、鋼管矢板、コンクリート矢板に対応しています。

▲「矢板式河川護岸の設計計算Ver.2」が対応する矢板の種類

常時の荷重では、根入れ長や許容応力度による断面照査を行い、地震時は地震力や液状化も考慮して、弾塑性法による断面力や変位の照査を行います。

その他の機能としては、鋼材や液状化の低減係数の自動算定や突出矢板の形状入力、背面盛り土の最大5層までの考慮などがあります。


体験内容

4月25日の午後1時半から午後4時半まで、Zoomによるオンラインセミナー形式で「河川シリーズ体験セミナー」が開催されました。講師を務めたのは、フォーラムエイトUC-1開発第2グループの菊田裕二さんです。セミナーの内容は、先述の5本のプログラムを20分~40分ずつ、実際に操作しながら体験していく、実際的なものでした。

最初の「等流・不等流の計算・3DCAD Ver.9」を使った実習では、川幅や水深が場所によって異なる「不等流計算」を行いました。河川断面はCADプログラムの標準データ形式「DXF」を使って、4つの断面を読み込みました。各断面間の距離を50mとして150mの河川の形状を入力しました。

▲DXF形式で読み込んだ河川の断面形状

各断面で使用する平均流速公式には「レベル1」、粗度係数は「0.03」、河床高標高には「断面最下端」を設定し、収束計算を行います。流水の位置エネルギーを表す水頭が0.0mとなる水位が不等流の水位となります。

▲計算結果。限界水深(赤線)より上で、水位が水頭0.0mを表す垂直線と交わる点が常流の水位となる

別の断面では、常流の水位が見つからないエラーとなりました。その原因は断面高が不足していたためでした。そこで断面高を高くしたところ収束しました。これは実際の河川では、堤防を越流することを意味します。

次は「小規模河川の氾濫推定計算」の体験です。解析対象となる河川は、「地理院タイル」から実際の河川を読み込みました。続いて河川の範囲を緯度・経度や地図上でクリックを行って入力します。また航空写真から「河心線」を入力しました。さらに地形データを使って、河川の河床断面を自動作成します。

▲自動作成した河川断面

洪水の量は、ハイドログラフに確率年や降雨強度式、降雨継続時間などのパラメーターを入力して求めます。計算結果として降雨強度~継続時間曲線などが出力されました。

▲ハイドログラフの計算結果

地形とハイドログラフを組み合わせて計算を行うと「氾濫推定図」が自動作成されました。

▲計算によって求められた氾濫推定図

これに説明文や現地の地図を組み合わせると、発注者などに提出できる報告書がすぐに作れます。

続いて、各河川構造物の設計プログラムの操作です。

落差工の設計計算では、全長約45mの直壁型落差工を題材に、本体から下流側の護床工まで、水理計算や安定計算を行って報告書の作成までを行いました。

RC特殊堤の設計計算プログラムは、H鋼で支えられた逆T型鉄筋コンクリート擁壁の堤体や基礎を設計し、応力照査や安定計算を行いました。

▲RC特殊堤の設計プログラムの計算結果確認画面

最後の矢板式河川護岸の設計計算では、幅0.5m、高さ0.5mの頭部コンクリートが付いた鋼矢板護岸を題材に設計を体験しました。地盤中に打ち込まれた矢板壁が受ける土圧や水圧のバランスから、プログラムによって必要矢板長が自動計算されます。それをもとに矢板長を設計者が決定し、矢板壁の断面力や反力、応力度を計算するという流れです。

▲矢板式河川護岸の設計計算の題材となった鋼管矢板を使った自立式護岸

イエイリコメントと提案

水の流れを解析するための方程式や理論は、数百年前に発見されたにもかかわらず、実際の河川工学ではデータの膨大さから、かなり単純化したケースで使われることがほとんどでした。しかし、最近は地形の3Dレーザー測量や降雨量分布のレーダー計測などで、河川の流れや氾濫を解くためのデータは飛躍的に充実してきました。

それに伴い、今回のセミナーのテーマとなった河川関係のプログラムは、地形や河川断面などはCADや数値地図でインポートできるようになるなど、かなり複雑なケースが扱えるようになってきました。

今後はさらに各プログラムのデータ入力を自動化することで、より精密な解析が行えるようになりそうです。例えば、地形や河川断面形状、降雨量の分布データなど、洪水に関するデータを、1つの「河川デジタルツイン」(デジタルの双子)に集約し、各プログラムのデータもそこから自動的にインポートできるようにすると、洪水発生時にリアルタイムに被害予測が行えるようになり、より解析の価値が高まるのではないでしょうか。




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(Up&Coming '23 盛夏号掲載)
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