IT活用による建設産業の成長戦略を追求する「建設ITジャーナリスト」家入 龍太
イエイリ・ラボ体験レポート
Vol.54
F8VPS 体験セミナー
【イエイリ・ラボ 家入龍太 プロフィール】
BIM/CIMやi-Construction、AI、ロボットなどの活用で、生産性向上やコロナ禍などの課題を解決し、建設業のデジタル変革(DX)を実現するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式サイトはhttps://Ken-IT.World

建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望などをお届けする予定です。

はじめに

建設ITジャーナリストの家入龍太です。昨今のコロナ禍で、オンライン会議やテレワークが一気に普及しました。本来は、人同士の接触機会を削減するためでしたが、実際にテレワークをやってみると、コロナ感染のリスクが減るだけでなく、「移動のムダ」が削減されたり、満員電車に揺られながら通勤する「体力・気力のムダ」がなくなったりすることで、かえって生産性が上がることを実感した人も多かったのではと思います。

また、社会的な認識という点でも、「職場」に出てこなくても、仕事の成果が挙げられれば働いているとみなされるようになったことも大きな変化です。その結果、自分が便利な場所や快適な環境の場所を自由に選べることで、ライフ・ワークバランスを取りやすくなるという働き方改革も実現しやすくなりました。

コロナ以前から、オンライン会議や職場のないバーチャルカンパニーといった発想はありましたが、コロナ禍によってテレワークがしっかり社会実装されたとも言えそうです。

建設業でも、これまで工事現場だけで行っていた施工管理の仕事を、クラウドサーバーとパソコンやスマートフォンなどでテレワーク化することが進んでいます。現場の仕事をテレワークで行うためには、「現場に行かなくても、現場で今、工事がどのように進んでいるかがわかる」という状況を作る必要があります。

そこで大きな役割を果たすのが、「デジタルツイン」(デジタルの双子)です。建設業でのデジタルツインとは、建設中の建物や橋などを、デジタルデータで表現したものです。このデジタルツインを、クラウド上にアップし、工事関係者で共有することで、「現場に行かなくても、現場のことがわかる」を実現できるのです。

デジタルツインというと、つい3DのBIM/CIMモデルや点群データなどを高度なものをイメージしがちですが、テレワークで行う業務の内容によって、様々なものでも使えます。

現場の業務の中でも、「クルマや人の動きの検討」や「空間設計での合意形成」、「自然災害の現状を踏まえた緊急対策」といった高度な問題解決をテレワークで行うためには、やはりVR(仮想現実)が必要です。VRをデジタルツインとして使うことで、テレワークで行える仕事の範囲が大きく広がります。

そして最近は「メタバース」という言葉が流行しています。これはVR空間の中に複数の人が集まって、コミュニケーションを図れるのが特長です。現場をVR化し、そこにいろいろな場所から工事関係者が集結して議論することで、合意形成が行え、「意思決定がどんどん行い、その場で物事が進む」という生産性向上を実現できる点で注目されます。

▲F8VPSでショールームをVR空間に再現したもの。「デジタルツイン」として現地に行かなくても、製品のデモを見たり検討したりできる


製品概要・特長

フォーラムエイトの新製品「F8VPS」(Forum 8 Virtual Platform System)とは、その名の通り、クラウド上にVR(仮想現実)の世界を作るためのプラットフォームシステムです。今回のセミナーでは、この製品を使って、現実のショールームや展示会場、学校の教室などの現実空間を、VR上に再現し、実際の現場に出掛けなくてもプレゼンテーションや施設案内、教育などを行う手順を体験するものです。F8VPSの約20年前から、フォーラムエイトではおなじみのリアルタイムバーチャルリアリティーシステム「UC-win/Road」を開発、販売してきました。この製品は、道路の設計をVR上でわかりやすく行える点で定評がありました。

設計した道路を、ドライビングシミュレーターで運転したり、信号制御によってクルマの渋滞や走行速度がどう変わるかをシミュレーションしたりといった、道路と他のシステムを同じVR空間上で連携させて検討するといった拡張性も備えています。その結果、フォーラムエイトの設計・解析やシミュレーション用のソフトには、UC-win/Roadとのデータ連携機能が次々と装備され、UC-win/Road上で結果を集約して可視化になりました。

すると、UC-win/Roadの役割は、道路の設計だけでなく、まちづくりや防災、屋内と、あらゆる空間をVRで再現するツールへと広がりました。

▲UC-win/Roadは道路設計だけでなく、あらゆる空間をVR化するツールとして進化してきた

▲F8VPSでフォーラムエイト東京本社のショールーム(左上)をVR化(右下)した例

さらにフォーラムエイトはUC-win/Roadなどをクラウド上で扱えるようにした「VR Cloud®」という製品も開発しました。

実物を再現したVRがクラウド上で情報共有できるとなると、様々な現場にかかわる業務や体験を、テレワークやリモートで行うための「デジタルツイン」や「メタバース」としての進化を遂げたことになります。

このように、UC-win/RoadやVR Cloud®の進化と、実際の現場で行われる幅広い業務をテレワークやリモートで行いたいという世の中のニーズが相まって登場したのが「F8VPS」という製品なのです。


▲F8VPSが対象とする分野。世の中の空間すべてと言っても過言ではない

体験内容

体験セミナーは、4月12日の午後1時30分~4時30分まで、東京本社とオンラインによるハイブリッドセミナーとして行われ、合計約30人が参加しました。講師を務めたのは、フォーラムエイト執行役員/VR開発マネージャのペンクレアシュ・ヨアン氏で、当日は宮崎支社からオンライン中継で講習を行いました。

15時まではDX(デジタル・トランスフォーメーション)とリモート社会の進展や、F8VPSの目標と機能、応用例、開発ロードマップの解説が行われました。10分の休憩をはさんで、F8VPSに実際にログインして、VR空間にコンテンツを作ったり、編集したりという体験を行う内容です。

F8VPSが目指すVR化の対象は、空間があるものすべてと言っても過言ではありません。前述のオフィスや学校、展示会のほか、観光やショップ、工場見学などをクラウド上のVRとして開発・展開し、テレワークや商品のPR、広報までDX時代に必須のプラットフォームシステムを構築することが目標です。

 

▲4月12日に東京会場とオンラインでハイブリッド開催された「F8VPS体験セミナー」

その機能はUC-win/Roadと同様に実感性の高いVR空間を作ったり体験したりするものもありますが、さらに「人」に関するものが多く備わっています。例えばWeb会議をスムーズに行う機能や、ログイン、行動によるユーザー情報の取得機能などです。

さらにオプション機能では、メンタルヘルスや心拍数までを可視化する「健康管理」やバーチャル店舗での買い物が行える「EC決済」、そして「アンケート・投票」などの機能までが提供されます。こうした機能は人がVR空間に集まり、意思決定や購入といった行動を後押しするものです。VR空間内で物事を進めることにより生産性を高める機能として注目されます。

▲F8VPSの機能。VR空間を作成する機能に加えて、VR空間を人の意思決定や行動をサポートする機能も目立つ

フォーラムエイトでは、令和3年度から「XR技術を用いた次世代コミュニケーションプラットフォーム」の開発を行っています。3DVR空間上に、実空間にある教室とそっくりなバーチャルな「遠隔教室」のシステムを開発しました。講師や生徒は、VR空間でも実空間でも授業に参加できます。実証実験には大阪大学大学院、中央大学、アリゾナ州立大学などが参加しました。

実証実験の結果、3Dモデルを教材に用いると立体感やスケール感がわかりやすく、通常のウェブ会議よりも高い臨場感が得られる、人と人との距離感や相手への話しかけなど、コミュニケーション面での効果が確認できました。

▲遠隔教室のイメージ

▲遠隔と実空間の教室による連携授業の実証実験

参加者による実習では、バーチャル展示会場のVRモデルを開き、クルマや鉄道シミュレーターの運転台、カタログ台などを配置するデモを見たほか、参加者自身がVR空間にログインしてアバターとして入り込み、仮想の教室や橋梁の下などを歩き回りながらコミュニケーションを図る体験を行いました。

F8VPSは使用期間に応じて料金を払う「サブスクリプション」方式で提供され、1年目の基本ライセンスは1サーバー当たり50万円(税別。以下同じ)です。2年目以降は半額になります。また、1ユーザー当たり、毎月1,800円で使えます。高度な検討や合意形成が、遠隔で行えるので、実際の現場に集まって検討する場合に比べて、交通費や移動時の時間が大幅に削減されることを考えると、かなりリーズナブルと言えそうです。

▲セミナー参加者自身もVR空間にログインし、アバターとして歩き回った

▲VR空間内の橋梁下を歩き回る参加者のアバター
 

▲VR空間上のバーチャルショールームに展示物の3Dモデルを配置するデモ

イエイリコメントと提案

フォーラムエイトは毎年秋に「デザインフェスティバル」という大規模なイベントを開催しており、その中でユーザーがUC-win/Roadで作成した道路や街並みなどの作品を競う「3D・VRシミュレーションコンテスト・オン・クラウド」というコンテストが行われます。

最近の作品は、道路の設計以外に、研究所全体のモデル化や江戸時代の船運、建機の遠隔操縦、建築物など、多岐にわたっています。コンテストに参加した作品から他の人がインスピレーションを受け、さらに新しい分野への活用が広がっていくという好循環が毎年、繰り返されているように感じます。

今回、幅広い分野にVRを活用できるF8VPSという製品が誕生した背景には、フォーラムエイトのイベントを通じたユーザーとのコミュニケーションがあったことも大きかったのではと感じます。


次号掲載予定
Shade3Dセミナー(応用編) 2022年7月1日(金)


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(Up&Coming '22 盛夏号掲載)
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