IT活用による建設産業の成長戦略を追求する「建設ITジャーナリスト」家入 龍太
イエイリ・ラボ体験レポート
Vol.53
動的解析セミナー(既設・補強編)
【イエイリ・ラボ 家入龍太 プロフィール】
BIM/CIMやi-Construction、AI、ロボットなどの活用で、生産性向上やコロナ禍などの課題を解決し、建設業のデジタル変革(DX)を実現するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式サイトはhttps://Ken-IT.World

建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望などをお届けする予定です。

はじめに

建設ITジャーナリストの家入龍太です。フォーラムエイトが開発した3次元動的非線形解析ソフト「Engineer's Studio®」は、様々な静的・動的な荷重に対する構造物の変形を、弾塑性動的解析によって精密に求めることができるものです。構造物を棒状の「はり要素」や壁・床などの「平板要素」でモデリングし、部材の内部で発生する材料の降伏やひび割れなどを考慮して高精度で解析できるのが特長です。

その精度を実現しているのが、「ファイバー要素」です。一つ一つの部材をさらに細かい“繊維”の集合体のように扱い、1つの部材断面の中でも弾性状態の部分と降伏した部分に分けて扱うという、超精密な解析が可能なのです。

 

▲3次元動的非線形解析ソフト「Engineer's Studio®」の画面

例えば、鉄筋コンクリート橋脚の場合、同じ断面でも「かぶりコンクリート」「鉄筋」「コアコンクリート」と、断面の位置によって異なる応力-ひずみ関係(ヒステリシス)を持つ材料が混在しています。これらのそれぞれの部分に「ファイバー要素」を割り当てることで、断面の曲げや軸力変動などの影響を精密に考慮しながら解析できるのです。

▲ファイバー要素のイメージ。同じ断面内にある異なる材料をそれぞれの応力-ひずみ曲線によってモデル化し解析できる

このように、Engineer's Studio®には数々の機能が追加され、ケーブル要素のある吊り橋などを含めて、ほとんどの構造物を3Dでモデル化し、精密な動的・静的解析が可能になっています。

Engineer's Studio®の実力は、2010年に防災科学技術研究所が開催した、「E-ディフェンス、実大橋梁耐震実験の破壊解析コンテスト」で、フォーラムエイトと東京都市大学の吉川弘道教授(当時)らの合同チームが、このソフトを使って見事、「優勝」したことで、構造解析界にその名をとどろかせました。

▲「E-ディフェンス、実大橋梁耐震実験の破壊解析コンテスト」の供試体(左)とEngineer's Studio®の解析モデル(右)

▲各部材の非線形特性を考慮した変位の計算結果


製品概要・特長

その後も、Engineer's Studio®の進化はとどまることをしりません。

例えば、国土交通省は2018年1月に施行した平成29年道路橋示方書で、橋の安全性や性能を細かく設計できるように「部分係数法」を導入したほか、設計供用期間100年を標準として「耐久性能」を定義し、適切な維持管理を行うことを規定しました。

これらの改定内容は2017年9月にリリースされたEngineer's Studio® Ver.7で、「土木構造二軸断面計算(部分係数法・H29道示対応)」オプションが追加されました。またEngineer's Studio®面内も、 12月に「土木構造二軸断面計算 (部分係数法・H29道示対応)」オプションで対応しました。

ソフトの計算能力や使い勝手の面でも進化しています。2019年4月にリリースされたVer.9では、プリ・ポストプロセッサー部も含めて64bit処理に対応し、超大規模のモデル作成も可能になりました。下図は節点数約13万個からなる平板要素モデルで、メモリー消費量は最大で約9GBにも上ります。

また、解析時に最新の情報をスピーディーに入手できるようにするため、Ver.9では「オンラインヘルプ機能」も搭載されました。Engineer's Studio®の画面上でキーワードを入力して検索すると、WEBブラウザでオンラインヘルプ画面が立ち上がり、検索結果を表示してくれます。


▲「E-ディフェンス、実大橋梁耐震実験の破壊解析コンテスト」の供試体(左)とEngineer's Studio®の解析モデル(右)

▲オンラインヘルプ機能。解析上の最新情報をEngineer's Studio®の画面上から検索し、結果をWEBブラウザで見られる

そして、2021年7月にリリースされたVer.10では、曲げモーメントに対する曲げひずみの特性を持った「M-φ要素」の計算で、従来は軸力を一定として計算していたのが、解析中の軸力変動をも考慮した計算ができるようになりました。その結果、ラーメン橋などの解析を、より精密に行えるようになりました。

▲解析中に軸力が変化しても、それに対応したM-φ関係を使って解析が行える

▲解析中の軸力変動をラーメン橋脚に応用した例

このように、Engineer’s Studio®には数々の機能が追加され、ケーブル要素のある吊り橋などを含めて、ほとんどの構造物を3Dでモデル化し、精密な動的・静的解析が可能になっています。そのため、製品としては最大の機能を備えた最上位の「Ultimate」から、ケーブル要素などを除いた「Advanced」、そして静的解析のみの「Lite」まで、ユーザのニーズに合わせたオプション構成が用意されています。

▲ユーザのニーズに合わせて、Engineer's Studio®には様々なオプション構成が用意されている

体験内容

1月25日、フォーラムエイト名古屋支社をメイン会場として、東京本社や全国の各支店、オンライン受講者を対象に「動的解析セミナー(既設・補強編)」が開催されました。講師は技術サポートGroupの井上さんが務め、午前9時半から午後4時半まで、製品の概要説明から操作実習まで、Engineer's Studio®ならではの解析を学びました。

操作実習では、1996年以前に建設された既存橋を想定し、(1)現況解析と(2)補強解析を行いました。1996年に改定された道路橋示方書は、1995年に発生した兵庫県南部地震による大規模な被害を受けて、地震時の荷重値が大幅に増加しました。

そのため、それ以前に建設された橋梁は、現行基準の「レベル2地震動」と呼ばれる大規模な地震動に対して耐震性能を満足しない可能性があるので、速やかに補強を行う必要があります。こうしたケースは、橋梁の維持管理業務でも、実際によくあるケースです。

 

▲「動的解析セミナー(既設・補強編)」は、1月25日にハイブリッドで開催された

今回のセミナーでは、高さ9.5m×幅7m×厚さ2.2mのシンプルな直方体形状の「単柱橋脚」を、既存橋脚として想定しました。橋脚の表面から120mmのかぶりの後ろに、D25の軸方向鉄筋やD13の帯鉄筋などが配筋された構造です。

▲単柱橋脚の3Dモデル

▲橋脚の配筋図

この鉄筋コンクリート橋脚を、Engineer's Studio®で3Dモデル化するため、橋脚の本体部分は柱の「M-φ要素」とし、その上には固定支承のばね要素を介して沓座(シュー)の高さだけ仮想剛部材を取り付けたモデルにしました。また、橋脚の下端にあたる「基部」は固定支点としました。

▲単柱橋脚をEngineer's Studio®でモデル化した時の支点や載荷条件

橋脚基部は、断面の曲げモーメントが弾性限界を超えると塑性変形するので、「M-φ要素」で非線形挙動を表すモデルにしました。このM-φ特性は、道路橋示方書に準拠して設定しました。さらに、減衰のモデルには「Rayleigh減衰」を採用しました。

この橋脚モデルに、道路橋示方書に準拠した「II種地盤用、タイプII」の標準加速度波形の1つを作用させて、動的解析を行いました。その結果、橋脚の本体は全体にわたってせん断耐力照査で「NG」となり、曲率照査では、橋脚下端の基部が「NG」となりました。

▲橋脚モデルに作用させた入力地震動の加速度波形。最大加速度は619.1gal

▲橋脚本体はせん断耐力照査で全面的に「NG」となった

▲曲率照査では、橋脚本体は「OK」だったものの橋脚基部は「NG」となった

つまり既存橋脚は、現行基準では耐震性を満足しないことになりましたので、補強が必要になります。午後2時からは、既存橋脚に補強を施したモデルを使って、「補強解析」を行いました。

補強の方法は、既存橋脚の外側を厚さ250mmのコンクリートで巻き立て、その中にD29の軸方向鉄筋と、D19の帯鉄筋を入れるという方法です。見るからにがっちりした断面になりました。

▲既存橋脚の外側を厚さ250mmの鉄筋コンクリートで巻き立てる補強を行った

補強後の橋脚を再度、Engineer's Studio®でモデル化し、解析したところ、今度はせん断応力照査、曲率照査ともに橋脚本体と橋脚基部はすべて「OK」になり、補強の効果が確認できました。

▲補強後のせん断耐力照査結果。橋脚全体にわたって「OK」となった

▲補強後の曲率照査。橋脚基部も「OK」となった

イエイリコメントと提案

つい先日もある県の水管橋が突然崩落し、地域が大規模に断水するといったニュースがありましたが、社会インフラの老朽化に対する対策は、待ったなしの状態です。少子高齢化の影響により、年々、厳しくなっていく財政事情のなかで、古い基準で設計・施工された様々な構造物に、現行基準に合致した耐力を持たせるためには、実際の構造物をできるだけ忠実に再現した解析が必要です。

Engineer's Studio®の機能進化によりフォーラムエイトのBIM/CIMソフト「Allplan」や3次元CAD「3DCAD Studio」、その他、一般のBIM/CIMソフトとのIFC形式などによるデータ交換が可能になりました。

その結果、Engineer's Studio®は、水管橋や歩道橋、下水道タンク、水門など様々な形式の構造物を忠実に3Dモデル化し、補強方法を検討することで、コストパフォーマンスの高い補修計画を立てるのに大いに役立っています。

ソフトウェアの力によって、多大なインフラ投資を節約するという、新たな維持管理戦略も生まれてきそうですね。

▲水管橋(上)や水門(下)といった複雑な構造物をコストパフォーマンスよく補修するためにも、Engineer's Studio®の機能が求められている

次号掲載予定
F8VPS体験セミナー 2022年4月12日(火)


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