Users Report
ユーザー紹介/第142回
株式会社長大 大阪支社 社会基盤事業本部
第2設計保全事業部 第2道路部
道路関連の各種計画・設計業務でUC-win/Road用い数多くのVRを作成
BIM/CIM対応含め高度化するシミュレーションにもVRやDSを駆使
株式会社長大 大阪支社 社会基盤事業本部 第2設計保全事業部 第2道路部
所在地大阪市西区
市の基本情報
道路の計画、設計および運用管理、 説明会資料の作成など
社会基盤事業本部第2設計保全事業部 第2道路部 恩賀俊樹係長
「今年度から国土交通省の事業では、BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)が必須となり、3次元(3D)に対応したソフトを使っての設計が本当に身近になりました」
国交省は、2023年4月1日以降に入札契約手続きを開始する同省直轄の土木業務・工事を対象としてBIM/CIMの適用をスタート。そこでは、調査・測量・設計から施工・維持管理まで建設事業の各段階で3Dモデルを導入・活用することにより、事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化を図る、との目的が掲げられています。
株式会社長大の大阪支社において様々な道路の計画や設計に携わる、社会基盤事業本部第2設計保全事業部第2道路部の恩賀俊樹係長は、自身を含め3Dに対応した道路設計は、まだ普及段階である、と言及。その半面、フォーラムエイトの3DリアルタイムVRソフトウェア「UC-win/Road」を使用したVR作成では、自らいち早く業務を通じてノウハウを蓄積。BIM/CIMの適用を機に、その優位性を発揮していきたい考えを示します。
また、概略設計や予備設計を中心に道路の各種業務をこなす同部の辻澤尚吾氏は、既にBIM/CIMに対応する複数の設計に従事。その過程では折に触れ、品質向上や作業効率化といった適用メリットも感じながら実践しているところ、と述べます。
今回ご紹介するユーザーは、株式会社長大大阪支社の社会基盤事業本部第2設計保全事業部の「第2道路部」です。15年ほど前、当時既に導入されていたUC-win/Roadおよびドライビング・シミュレータ(DS)の活用を石塚裕朗氏が再開。数多くのVR作成を重ねる中で、3年ほど前からは必要に応じフォーラムエイトのデータ作成サービスも利用しながら、業務への一層高度なVR活用を進めてきています。
大阪を拠点に各種道路の計画や設計などを担当
株式会社長大は1968年2月、有限会社長大橋設計センタとして設立。同年11月に株式会社長大橋設計センター、1984年に現行社名へと改称。創業以来55年を経る中で、建設コンサルタントとして組織および事業分野を再編・拡充。現在は、事業戦略推進および経営企画の2統括部の下、管理および事業推進の2本部、海外、構造、社会基盤および社会創生の4事業本部より構成。
また本社経営センターおよび本社技術センター(いずれも東京都中央区)、本社災害対策センターおよび総合研究所(いずれも茨城県つくば市)をはじめ、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松および福岡の8支社、更別、つくば、北関東、南関東、神戸および沖縄の6支店、それらの傘下の国内17事務所、10営業所、海外5事務所などを設置。それらに909名の従業員を配置しています(数字は2023年3月現在)。
さらに、同社の経営理念のキャッチフレーズを冠した持株会社「人・夢・技術グループ株式会社」の下には、国内6社・海外7社のグループ会社も有しています。
そのような同社において、大阪支社を拠点とする社会基盤事業本部第2設計保全事業部の第2道路部は4課より構成。今回はそのうち、大阪とその周辺地域を中心に各種道路の計画や設計、その説明会資料の作成などに取り組む第2課の皆さんにお話を伺いました。
石塚裕朗氏
濵村俊旗氏
辻澤尚吾氏
15年ほど前のUC-win/Roadの 利用再開からVRが一気に身近に
石塚氏が初めてUC-win/Roadに触れたのは15年ほど前に遡ります。同部では当時、それ以前に導入した同ソフトとDSがあまり使われていない状況にあり、測量技術を持つ自身であればそれらを有効利用できるのでは、と独自にトライすることを着想。実際に触ってみると、感覚的に操作する中でVRが思いのほか容易に作成可能なことを実感。そうした折、道路計画に際してドライバーが前方の交差点に設置される信号を定められた距離から見通せる「視距」の確認をVRで出来ないか、というニーズに遭遇。UC-win/Roadを使い再現した、交差点や信号機を含む道路環境のVRをDSでシミュレーションし、課題の解決に至っています。
これを受け、技術提案書にVR適用を含めるケースも加わり、比較的シンプルなVRを同氏が自ら作成する機会が増大。それとともに、当初は単体だった交差点が複数になり、道路延長も次第に大規模化。発注者との情報共有だけでなく、地元説明会の資料としてなど活用分野も広がってきました。
その後、10年くらい前には新設道路の計画にあたり、発注者への説明や地元説明会用に大規模なVR作成業務を受注し、フォーラムエイトのサポートも得て対応。そのほか、日照なども考慮した標識の視認性検討、橋梁などの構造物や植樹帯を含む景観検討などVRの活用は多様な展開を見せていきます。
以前は難しかった「立体にして見せる」ということが手軽に出来たことで、VRが一気に身近になった、と石塚氏は述懐します。「その手軽さが後々の、数多く作ったVRに繋がったのではと思います」
株式会社長大 大阪支社 社会基盤事業本部 第2設計保全事業部 第2道路部では、住民説明等の合意形成手段として、3次元CGのVRによる道路構造の視覚的検証を実施している(株式会社長大HP)
近年の主要なUC-win/Road 活用例、体制強化にも力
関西圏の地方自治体で都市計画道路を整備。そのための設計が行われ、「施工前の地元説明会等において計画を3D VRで表現し、視点場を変えて伝えた方が分かりやすい」との要望が発注者からもたらされました。2021年7月、同社はその道路環境検討業務を受注。途中、VRの住宅モデルを詳細に作って欲しいという追加の依頼があり、それも反映した成果を2022年3月に納品。翌2022年度にも当該プロジェクトに関係する同様な業務を受託。今年度も秋頃に地元説明会が予定されており、機会が得られればVRを活用して対応していきたい、と交差点や構造物を含む道路の計画・設計を主に担当する同部の恩賀係長は説明します。
一連の道路環境検討資料の作成では石塚氏の指導の下、それまで標識の配置計画などに主に取り組んできた同部の濵村俊旗氏がUC-win/Roadの使用に初めて挑戦。当社とも協力しながら、まず地形データや道路データのほか、橋梁詳細設計業務の各図を基に延長約1㎞にわたる区間のVRデータを作成。地元の要望を受けた住宅モデルの作成に当たっては、実際に現地を訪れて交差点付近の対象となる複数家屋の概ねの高さを計測するなどし、住民目線で体感できるよう意図されました。
また当該プロジェクトでは、地元の要望などを受け、複数の交差点付近に遮光壁や遮音壁が設置されています。そのほか、取り付け道路の設置により既存の公園に及ぼす影響、植樹帯の有無による構造物の見え方の違いなどを事前に住民目線や俯瞰で体感してもらうため、それらのVRシミュレーションも可能な構成になっています。
もう一つ、2020年度には今後益々交通量の増大が見込まれる、高速道路の出入口を増設する計画の説明会用VRを作成しています。そこでは、プロジェクト自体の規模の大きさに加え、様々な要素が複雑に絡み合う特性から、現況および新設の道路、関係する構造物、車道および交差点の路面標示、周辺建物、料金所モデルなどをVRで表現。説明会では模型展示とともにVR走行動画を提示し、効果的に体感してもらえるよう工夫している、と辻澤氏は語ります。
UC-win/Roadを駆使し、施工前・施工後の計画を3DVRで可視化。細かな要望にも柔軟に対応でき、視点場を変えての視認性・景観などの比較検討が手軽に行えた
規模の大きなプロジェクトにも、さまざまな条件をUC-win/Roadで比較検討することで対応。航空写真や現地写真を取り込むことで、リアルな仮想空間を表現。作成した仮想空間内でのVR走行シミュレーションにより、道路構造の視覚的検証が可能。説明会や協議の場での見せ方にも工夫が生まれた
UC-win/Roadのメリット、BIM/CIM対応で増すニーズ
「説明書を一つひとつ確認していたらきりがない。とりあえず触ってみると、求めるものが素直に返ってきます」。測量や道路に関する基本的な知識は要するものの、感覚的で使いやすく、表現しやすいため習得も早い。また、自由な視点で動画が取れるため、発注者からの細かな要望にも柔軟に応えられる、と石塚氏はUC-win/Roadを評価。しかも、点群データなども取り込め、そのスペック次第ではより臨場感のある(VR表現も可能。併せて、BIM/CIM対応になったことでそのニーズは今後格段に増えるのでは、と位置づけます。
同氏のサポートでUC-win/Roadの操作を担う濵村氏も、時に説明書で確認することはあるものの、概ね感覚的に触る中で習得できてきた、と振り返ります。
また、恩賀係長は発注者との協議の場などでUC-win/Roadの詳細かつリアルな表現への評価を実感。特に、自由に視点を変えて見られるそのメリットに注目します。
一方、3D CADソフトなどでBIM/CIM系の作業をすることが多いという辻澤氏。設計に特化した別のソフトでも3Dモデルや走行シミュレーションの作成が可能とは言え、精度などに制約もあり、説明資料として用いるにはUC-win/Roadで作成するVRの見せ方には及ばないと指摘。ただ、設計ソフトでも3Dモデルを作れ、発注者との構造確認などには使えることから、それをそのままUC-win/Roadに取り込み、そこで自由に編集するといった使い方が出来れば一層の作業効率向上に繋がるはず、と期待。その意味で、ソフトを使う自身らとソフト開発者が相互に協力してより良いものを創出していくというスタンスが重要になる、との見方を説きます。
現在、WebVRプラットフォームF8VPSで、メタバースに点群を直接読み込んで活用できる機能への対応なども進んでいることから、同社では今後、UC-win/Roadに加えて、よりコミュニケーションツールとしての機能が強化されたWebVRの活用も視野に入れているといいます。
社会基盤事業本部第2設計保全事業部第2道路部のみなさん
執筆:池野隆
(Up&Coming '23 盛夏号掲載)