立地適正化計画の策定から「動くハザードマップ」実現へ
前述の同市「立地適正化計画」の策定作業が2019~21年度に進められていた頃、国によるDX推進の流れに加え、国交省の「PLATEAU」プロジェクトが始動(20年度)。同計画の防災指針において浸水リスクが高いエリアのソフト対策をどうまとめるか議論していた過程で、市はPLATEAUプロジェクトの3D都市モデル活用による地域課題のソリューション開発事業に注目。一方、同プロジェクトに関連する国交省の分科会でUC-win/Roadに初めて触れる機会を得。これと3D都市モデルを活用することで、災害可視化や避難シミュレーションを通じ防災意識向上を目指すソフト対策を進めていく、とのアプローチを着想。そのノウハウをまちづくりや都市計画に繋げていくことも視野に、同プロジェクトへの参加を表明。2022年4月にUC-win/Roadを導入し、今回の取り組みがスタートした、と同市建設部都市整備課新玉名駅周辺整備推進係・技術主任の安田信洋氏は振り返ります。
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住民の防災意識の向上、防災講話でのデータ活用を図るため近隣住民へワークショップを実施 |
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3D都市モデルを活用した3DVR空間上に浸水範囲や水位の状況の変化をリアルタイムに表現することにより災害リスクを可視化 |
今回の取り組みではまず、UC-win/RoadをベースにPLATEAUの3D都市モデルを活用し市の現状を3D VRでリアルに再現。それを基に浸水および避難のシミュレーションを作成。破堤や浸水の危険がある箇所を割り出すとともに、VR体験により地域の住民に浸水被害を実感してもらい、防災意識の向上と避難誘導の高度化を図ることが意図されました。
その完成を受け、2022年12月には災害可視化の取り組みで市が監修を受ける熊本大学大学院先端科学研究部の本間里見教授と庁内関係者、2023年2月には藏原市長や庁内関係者、当該地域の一部市民向けに実証。その際、本間教授が既存の紙や2Dの静的な(動かない)ハザードマップに対し、今回の3D都市モデル上を刻々と変化する様子が体感できる成果を「動くハザードマップ」と形容。新たな防災ツールの一つになるのではと言及。他の参加者からも従来より直感的に分かりやすかったという評価が得られた、と安田氏は述べます。
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想定し得る最大規模の降雨に対し、仮に堤防が決壊し水があふれだした場合の浸水範囲や浸水深の変化を時刻歴でシミュレーション |
防災やまちづくりでの一層高度な活用に向けデジタルツイン構築へ
3D都市モデルを活用した災害可視化に関する2022年度のユースケース事業の成果は、引き続き今後の防災講話等で利用。それにより市民の防災意識の醸成やマイタイムライン(住民一人ひとりの防災行動計画)作成の支援ツールとして活用していく。併せて、開発した氾濫シミュレーションはストーリーエディターを用い同市Webサイト上で、また氾濫解析結果はPLATEAU VIEW上でそれぞれ公開する予定 ― と安田氏は説明します。
さらに次年度以降は、3D都市モデル活用によるデジタルツイン環境の構築にも着手。具体的には、例年5月中旬~6月初旬に開催され、延べ10万人前後の人出がある「髙瀬裏川花しょうぶまつり」にフォーカス。市内各地にWi-Fiパケットセンサーを設置し、来訪者の移動経路を計測。取得した人流データを3D都市モデル上で再現・分析するとともに、UC-win/Roadにインポートして3D VRと人流を組み合わせることで現実世界の現象をよりリアルに可視化。その上で3D空間環境の変化に応じたシミュレーション予測を通じ、災害時の避難誘導などの防災から、施設や構造物の配置計画など公園管理あるいはまちづくり、観光振興などの施策に資するツール化を図っていきたいといいます。
一方、新玉名駅周辺整備推進係係長を兼務する同市建設部都市整備課の廣川課長補佐はまだ検討段階としつつ、同駅周辺のインフラ整備にあたり3D都市モデルやUC-win/Roadの活用がもたらす可能性に言及。また、中尾課長はまちなかの再開発におけるそれらの利用効果にも注目。今回取り組みの実務をリードする安田氏のノウハウを他の職員にも広げていってもらいたいとの考えを示します。
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出典:玉名市ホームページ |
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マラソンの父「金栗四三」ゆかりの地
熊本県北初のフルマラソン「玉名いだてんマラソン」と
「横島いちごマラソン大会」を2月26日(日)同時開催
出典:玉名いだてんマラソン/横島いちごマラソンHP |
第31回 髙瀬裏川 花しょうぶ 祭り
2023年5月19日(金)~6月3日(土)
*メインイベント=5月27日(土)
雨天時は28日に延期
場所:玉名市髙瀬裏川水際緑地一帯 |
UC-win/Roadによるデジタルシティが市民参画促す「共通言語」に
中尾課長は出来上がった3D VRが想定した以上に「きれいで、リアルになっている」と評価。しかも、UC-win/Roadを使いこなせるようになれば、職員自身らで更なる利用展開も可能なソフトの特性に注目。例えば、ドライビングシミュレーションに適用することで、ゲーム感覚で楽しみながら行政側の意図を理解してもらうような利用シーンも描きます。
庁内ではこれまで、UC-win/Roadの操作を専ら安田氏が担当。その経験も踏まえ、氏はまずGIS(地理情報システム)ソフトなどを通じ電子地図の世界に触れた後、UC-win/Roadに入っていくといった段階を踏むことが望ましいと位置づけ。その上で、職員が自ら必要なものを作成できるようになることが今後の自治体にも求められる、との考えを述べます。
実際、デジタルシティを自分たちで作れるようになれば、活用の幅は広がるはず。例えば、施策の具体的な中身を可視化すると、庁内はもとより専門家でない市民も直感的に理解が可能になり、市としては市民の反応も得られる。そこでその反応をしっかり受け止め、「次はこう見せよう」というように相互作用で見せ方も向上していけば、デジタルシティが市民の参画も容易にするコミュニケーションツールになっていく、と安田氏は期待します。
「UC-win/Roadによるデジタルシティが庁内と市民の方との『共通言語』となり、市民参画のツールとして進んでいくのではと思います」
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