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人事・採用、デジタルアーカイブ、就労支援など多様な目的で展開 塚田研究室ゼミのメタバースプロジェクトチームでは、複数の企画が並行して進められています。その中のひとつ「メタバース人事」では、建設コンサルタント会社である株式会社日本インシークとの協力により、企業のリクルート活動における様々な制約を、F8VPSのメタバースで解決する試みに取り組んでいます。メタバース空間内の説明会会場で人事担当者がプレゼンを実施し、説明を聞いて画面共有で資料を受け取るといった「Web会議機能」だけでなく、普段は忙しくてなかなか話せないような経営陣と直接話をしたり、アバターや「立ち話機能」を利用して学生が若手社員や内定者などと交流を行うなど、コミュニケーションの機会創出としても有効。 時間的・空間的な制約から解放されるため、全国から様々な人材を募ることができるだけでなく、英語が喋れない場合でもAIが仲介することによって、海外との人材交流が可能になるなど、様々なメリットが考えられるといいます。 さらに、メタバースならではのメリットとして、高速道路の橋梁点検など、インターンでも実際には行くことができないような空間を再現し、遠方から参加して業務が疑似体験できるといったコンテンツの作成も行っています。橋梁点検車のモデルを制作し、クリックすると関連した事業説明ムービーが再生される、また、ジャンクションなどを想定して橋の下側を眺められるようにし、点検項目にあるような錆やひび割れを再現して、損傷部分をクリックすると実際の点検の様子が映し出されるなど、実際の事業でどのようなことが行われているかを学生がリアルに体験できる仕組みを検討しています。 プロジェクトでF8VPSを実際に使用している学生からは、従来のWeb会議ツールの機能が3次元空間でそのまま利用できることや、チャットなどの細やかなコミュニケーション機能が便利だとの声が上がっています。 別のプロジェクトとしては、AIやメタバースを活用した障がい者の就労支援の試みがあり、実際に関西地区の社会福祉法人との協働へと発展。現実空間では身体的な制約があったり、人前に立つのが苦手であっても、メタバース空間の中ではアバターを使って自由に空間を動き回り仕事ができるなどのメリットがあるといいます。「現在は学生がメタバースの空間コンテンツを作成していますが、障がい者の方々がそれを企業から請け負う形で作れるようになれば、就労支援という観点でも役立ちます。メタバース空間の中でのびのびと働いているうちに自信がつき、現実での社会復帰につながるという事例もあります」 その他にも、不動産業者とのコラボレーションで、点群測量による物件の高精度な空間モデルを作成して家具の配置や出し入れのシミュレーションが可能な「メタバース不動産」、デジタルアーカイブ(遺産・記録・伝承)の収益化を試みる「メタバースミュージアム」、高校生向けのオープンキャンパスとして、摂南大学の構内を点群データを使って3次元化し、現地に行かなくても模擬講義を受けたり、ウォークスルーしてキャンパスライフを体験できる「バーチャルキャンパス」など、メタバースを活用した様々なビジネスプランを企画・発表しています。
点群データとメタバースの連携による高速道路の維持管理 ゼミでは主に、企業課題解決やビジネスアイデアの実現をテーマとしてメタバースを活用していますが、塚田氏自身としては、2022年、関西大学を中心として発足したインフラマネジメント研究会に学外研究協力メンバーとして参加し、メタバース空間を基盤とした高速道路等の公共構造物のデータ管理と、その有用性検証に取り組んでいます。この研究は、関西大学の他に、企業としてはフォーラムエイト、スバル興業、日本インシークが参加しています。 「高速道路を対象として、日本インシークが高精度3次元レーザ計測を行い、取得した点群データを使ってフォーラムエイトがメタバース空間を構築。照明や電柱など、道路に関連し点検が必要な構造物のモデルを作成して、様々なシミュレーションを行うと共に、属性情報を可視化し、維持管理のプラットフォームとすることを目指しています。スバル興業は実際の点検や維持管理を請け負っている企業ですので、このような空間でのデータ管理のメリットを評価する立場として参加されています。現在、定期的に集まって意見交換・話題提供を行いながら、具体的なアイデア出しを行っているところです」 塚田氏が参加する同プロジェクト内のワーキンググループでは、公共構造物の点群データや3Dモデルと、調査・設計・施工・維持管理の各工程で生成される設計図面・点検帳票・現場写真等を管理するデータベースを用意し、位置と参照情報に基づいて、3Dメタバース空間内でのデジタルデータの管理・可視化手法を提案。 「路面に発生するポットホールやひび割れは日常点検でパトロールされており、その点検結果や情報がエクセルなどの2Dデータでまとめられている。通常、皆さんが画像やデータを取得したら、デスクトップのフォルダで2次元管理していると思いますが、これを3次元空間上に転換し様々なデータ同士を紐づけることで、効率的に管理・参照できるのではないかということが、この研究会でやろうとしていることになります」 これについては、情報の登録にあたってどのような機能が必要かといった議論を今年中に実施し、仕様の方針が固まったところで、フォーラムエイトがF8VPSを開発し、関係者で実際の使用をスタートする見込みだといいます。 この他にも、メタバース空間での舗装・附属物点検について、現地から随時上がってくる情報を見ながら、メタバース空間の中で点検が実施できるような手法の検証が進んでいます。具体的には、道路パトロールで撮影したドライブレコーダーの映像からAIを用いて路面のどこがどのようにひび割れているかといった自動判定損傷状態を判定し、位置情報に基づいて判定結果が自動的にメタバース空間に落とし込まれるような仕組みです。
自由なアイデアをビジネスとして実現するWebVRプラットフォームに今後も期待 「3次元に全く抵抗がない今の若い人たちは、対面でなければという意識がなくなりつつあるだけでなく、むしろオンラインだからこそできることは何かという発想ができる。その自由なアイデアをビジネスとして成立させる上で、独自でメタバースのプラットフォームを構築し、目的に合わせた自由度の高い作り込みが可能な点が魅力的です」と、塚田氏は、社会課題や企業課題を実践的に解決するための手法としてのF8VPSの有用性に触れます。塚田研究室のゼミでは、学生発案のビジネスプランを、チームで年1回、個人で年1回以上、外部のアイデアコンテストや学会、研究会などへ積極的に応募するという方針を掲げて、毎年多数の表彰実績を積み重ねており、こういった活動をいっそう後押しするツールとしても、活用が期待されます。 「現在、メタバースに関連する多数のプロジェクトが走り出しています。学生たちは、今考えられることはすべて形にして行動に移してくれていますので、今後は、プラットフォームをカスタマイズしたり拡張しながら、ひとつひとつのプロジェクトを結実させていきたいと考えています」。 本取組の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)JPMJRX21I2の支援を受けています。
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執筆:池野隆 (Up&Coming '23 盛夏号掲載) |
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