Vol.27
Academy Users Report
アカデミーユーザー紹介/第27回
モーガン州立大学
Safety and Behavioral Analysis(SABA)センター
自動車と自転車におけるドライバーの挙動を相互研究運転中の行動研究や道路標識効果をUC-win/Road DSと視線計測システムで実現
モーガン州立大学
SABAセンターディレクター
Mansoureh Jeihani博士
モーガン州立大学の安全・挙動解析センター(Safety and Behavioral AnalysisCenter、以降SABAセンター)は、交通安全とモビリティに関する課題の解決を目指す自治体、州、国や世界の取り組みを支援する学術応用研究室です。SABAセンターはソフトウェアを活用したドライバーの運転挙動の研究でこのミッションを達成しています。
2011年7月、Mansoueh Jeihani博士は、ドライバーと交通挙動の研究支援のため、Innosimmulation i-Driveドライブシミュレータに加えVR-Design Studio UC-win/Roadを導入しました。
モーガン州立大学は、2002年度ソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤーを受賞したフォーラムエイトのUC-win/Roadとハードウェアを使用するだけでなく、シームレスに連携する交通マイクロシミュレーションソフトウェアも導入し、正確な交通データを相互作用により視覚化できるようにすることで、研究にさらなる側面を付加しました。
UC-win/Road内でボルチモアの3D環境を作成した後、Jeihani博士と学生達は、当初3つのプロジェクトを予定していました。
(1)運転中のながらスマホ
このプロジェクトでは、ドライバーに運転と携帯電話の操作を同時に行わせ、その反応時間、スピード、加速、停止、事故やヒヤリハットなどの状況を記録します。
(2)道路情報表示装置(VMS)の効果
開始から終了まで多様な経路を持つ道路網を作成。経路沿いには、道路情報表示装置による情報(「この先渋滞」等)を表示し、ドライバーがその標識を見た時や交通渋滞に遭遇した時に経路を変更するかどうかを調査します。また、スピードや実際に通った経路を記録します。
(3)経路の選択行動
(2)と連動し、ドライバーに開始点と終了点を与えて独自に経路を選択させ、GPSの使用有無など様々な交通状況のもとで実験を行います。また、カウントダウン式信号機(5,4,3,2,1)の効果を把握し、そのメリットやドライバーがこのような種類の信号にうまく反応するかどうかを確認したいと考えています。
これらのプロジェクトが成功した結果、現在、SABAセンターの規模は拡大し、UC-win/Roadを駆使した2つのフルサイズのフォーラムエイトのドライビングシミュレータ及び自転車シミュレータにより、ドライバーや自動車運転者の挙動の相互研究を実現しています。これら3つのシミュレータは相互に連携できるため、車と自転車間の反応の研究を実現するだけでなく、実空間で行うと危険を伴うような研究も行うことが可能です。
自転車シミュレータは自転車本体とモニタにより構成されています。1台目のドライビングシミュレータは、リアルタイムシミュレーションに対応したバックミラーを含む3つのミラーと、ハンドル、アクセル・ブレーキ・ペダル、ウィンカー等の制御システム、およびフルサイズのドライバーシートにより構成されています。もう1台のドライビングシミュレータはモーションセンシングプラットフォームに対応しているため、ドライバーがランブルストリップスや路面のくぼみ等の上を走行したときの感触を実感することができます。また、クラッチペダルと変速レバーも備わっています。
2台のドライビングシミュレータ、および1台の自転車シミュレータに搭載されているソフトウェアはUC-win/Roadであり、道路、橋梁、ランプ、道路付属物、3次元樹木や建物等を忠実に可視化できるだけでなく、各種天候を含む超リアルな環境をドライバーとサイクリストに提供することができます。また、道路線形、交差点の設計、信号機、断面、道路脇の標識、地形の設定、交通量の生成など、道路ネットワーク要素全体を作成および編集できます。研究の参加者は、出発地から目的地まで独自のルートの選択も可能です。
車線変更、加速、ブレーキ、ステアリング制御、速度、衝突などのデータは、ドライビングシミュレータソフトウェアによって記録されます。さまざまなレベルの自動運転と接続されたインフラストラクチャを発生させることも可能です。ハードウェアに変更を加えることはできませんが、ソフトウェアは、より高い位置に座っているドライバーの視界や死角、加速とブレーキの速度などの要因に合わせて調整が可能なため、トラックやバスなどの大型車両でのドライバーの行動の調査ができます。
SABAセンターの安全・挙動解析センター研究室
視線計測システムは、ドライバーがどこをどのくらいの時間見ているのかということを示します。これにより研究者は、あらゆる種類の道路で、テキストメッセージから看板までの様々な種類の注意散漫具合を研究することができます。
SABAセンターには、外部に持ち運べるポータブルドライビングシミュレータもあります。先日、マリファナがドライバーに与える影響について安全に研究を行うため、ドライビングシミュレータを警察に持ち込み研究を行いました。
SABAセンターの最近の研究プロジェクトには、異なる種類の道路を運転する際に発生する様々な注意散漫が与える影響についての研究が含まれています。例えば、衝突警報等の自動車の新しい警報システムにドライバーがどれだけうまく反応するかを観察したり、道路情報板がドライバーに与える影響、ドライバーに情報を提供する最善の方法、さまざまな車両用の環境協調型車間距離制御装置のテストを行ったりしています。
新たな自転車シミュレータの導入は、交通安全研究にさらなる展開をもたらすことになります。また、自転車シミュレータとドライビングシミュレータ、アイトラッカー、マイクロシミュレーションソフトウェアを統合することで、SABAセンターのディレクターMansourehJeihani博士が自転車運転者の安全性に関するより詳細な調査を実施できるようになります。その他にも、新たな研究分野として、公平性、あらゆる人のための自転車、障害者、交通標識と舗装設計、交通計画と交通需要予測などを視野に入れています。
研究にUC-win/Road視線計測システムを使用
執筆:池野隆
(Up&Coming '21 新年号掲載)