「地盤改良の設計計算」において、検討対象が深層混合処理のときは必要に応じて円弧すべりの計算を行うことができます。しかしながら、思った通りの計算ができない、エラーが発生するなどの問い合わせをいただくことも多くあります。ここでは、円弧すべりの計算を行うための設定方法について紹介いたします。
円弧すべりの検討ケース設定
本製品で建築基準を適用した場合は「建築物のための改良地盤の設計および品質管理指針」に準拠した計算を行います。同基準においては、円弧すべりの検討についても記載されており、本製品もそれに準拠した計算を行うことができます。
建築基準では、局部すべりおよび全体すべりに対する検討を行うこととなっています。検討が必要なケースは以下のとおりです。
計算条件 | 局部すべり |
全体すべり |
|
残留強度 |
ピーク強度 |
残留強度 |
|
常時 |
〇 |
〇※ |
〇 |
中地震時 |
〇※ |
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大地震時 |
〇※ |
||
表1 すべり破壊の検討ケース ※偏土圧を受けない場合は検討しない |
本製品では、複数のケースが検討でき(建築基準では最大20ケース)、上記の検討が必要なケースを一度に計算することが可能です。
図1のように局部すべりは、すべり面が改良地盤の一部を通るようなすべりで、全体すべりは改良地盤全体がすべり面の内側にあるようなすべりです。局部すべり、全体すべりを検討するために、すべり円の中心や半径を指定する必要があります。
本製品の土木基準による深層混合処理工法の検討は、主に「陸上工事における深層混合処理工法設計・施工マニュアル」に準拠した計算を行います。同基準では、表1のような規定はありませんが、改良地盤内を通るすべりと改良地盤外を通るすべりを検討することとなっています。本製品で土木基準を選択したときの円弧すべりの設定も、すべり円の中心や半径の指定のほか、計算対象範囲や表層すべり制限の設定は建築基準の場合と変わりません。また、土木基準の場合は、改良前のすべりと改良後のすべりの検討を同時に行うことができるようになっています。
すべり円の設定方法
円弧すべりの設定では、安全率が厳しくなるようなすべり円を設定する必要があります。すべり円中心の取り方は、基準類に記載されているわけではありませんので、設計者において判断していただく必要がありますが、すべり円中心を格子範囲とすることで、すべての格子点をすべり円中心座標とした計算を一度に行い、一番厳しい条件の結果を抽出します。
また、すべり円の半径についても、中心からの一定刻みを選択することで、すべり円の半径を大きくしていきながら計算し、一番厳しい結果を抽出します。これらの設定を使うことで安全率が厳しくなる条件を探す手間を省くことができます。
すべり面が生成できない場合
円弧すべりの条件を設定して計算しても、「計算可能なすべり面が存在しませんでした」というメッセージが表示され、円弧すべりの計算が行われない場合があります。入力した条件により生成されるすべり円が地表面と交わらずに土砂ブロックの側面で切れてしまうのがエラーの原因である場合、生成される土砂ブロックを左右に広げることで計算が可能となります。「円弧すべり」画面には、計算対象範囲の指定があり、改良地盤の左右にどの程度の土砂ブロックを定義するかを決定します。
また、すべり円の半径の指定を中心からの一定刻みにすると、円弧すべりの計算が正常に終了しても、生成されたすべり面が意図しない状態になっている場合があります。図2のように改良地盤周辺の表層のみを削るようなすべり面が生成される場合には、「円弧すべり」画面の「表層すべり制限」を指定してください。表層すべり制限に0 以外の値が設定されていると、生成されるすべり面は指定された制限値以上のすべり幅となり、図2のような小さい幅のすべり面が生成されるのを回避することができます。
(Up&Coming '21 盛夏号掲載)