橋の耐震設計を行う場合に、塑性化を期待する部材を適切に選定するとともに、部材等の限界状態を適切に設定する必要があります。本製品では、塑性化を期待する部材を明確にするために柱に塑性化を期待するかどうかの設定をご用意しておりますが、これに関する設定の考え方や影響項目について多くのお問い合わせを頂いております。今回は、柱の塑性化に関する設定方法や選択基準、照査に影響する項目についてご紹介します。
「柱の塑性化」の設定方法
塑性化を期待する部位については、H29道示Ⅴ(P.28)の解説より、橋の架設条件や制約条件を考慮したうえで「設計者」が総合的に判断する(明確にする)必要があるとされています。
本製品では、上記の設定を行っていただくために、「荷重|偶発(レベル2地震動)」画面-「柱の塑性化」の項目において、「期待する」,「期待しない」,「許容しない」の選択を設けています (図1)。
「柱の塑性化」の選択基準
下記道示の記述を参考に、柱に塑性化を期待するかどうかを橋の制約条件などから総合的に判断し設定します。
(1)「期待する」
・ H29道示Ⅴ(P.28)の解説:支承を介して上下部構造が接続されている一般的な桁橋等で、橋脚の柱基部の状態が比較的安易に確認できる条件の場合
(2)「期待しない」
・ H29道示Ⅴ(P.28)の解説:支承を介して上下部構造が接続されている一般的な桁橋等で、橋脚の柱基部の状態が比較的安易に確認できる条件の場合
(3)「許容しない」
・ H29道示Ⅴ(P.182)の解説:ダム湖に架かる橋の橋脚のように地震後の点検や修復が著しく難しい場合
照査に影響する項目
(1)水平変位の制限値
「柱の塑性化」の選択および柱の破壊形態の判定により、表1のように水平変位の制限値を決定します。
曲げ破壊型 | |
期待する |
A種の橋:限界状態3 水平変位の制限値を式(8.4.6)の 「δls3d」 B種の橋:限界状態2 水平変位の制限値を式(8.4.2)の 「δls2d」 |
期待しない | |
許容しない |
限界状態1 水平変位の制限値を式(8.4.1)の「δyEd」 |
せん断破壊型 または 曲げ損傷からせん断破壊移行型 |
|
期待する |
該当なし ※耐震性の判定NG |
期待しない |
限界状態1及び3(3は実質省略) 水平変位の制限値を式(8.4.1)の 「δyEd」 |
許容しない |
限界状態1 水平変位の制限値を式(8.4.1)の「δyEd」 |
表1 破壊形態ごとの水平変位の制限値
ここで、曲げ破壊型の場合に柱の塑性化を「期待する」と「期待しない」(基礎に塑性化を期待する場合)で同じ水平変位の制限値としているのは、下記道示の解説より常に柱に塑性化を考慮した設計とする必要があるとされているためです。
・H29道示Ⅴ(P. 37)(13)解説:設計の意図に反して基礎が塑性化せず,橋脚が塑性化することになったとしても,橋の性能が満足されるように,橋脚は常に塑性化を考慮した設計を実施する必要がある。
なお、最終的に適用される制限値は、計算書の「結果詳細|柱の設計(偶発(レベル2地震動)に対する照査)|結果一覧」の「δa」でご確認いただけます。
(2)保有水平耐力の判定
H29道示Ⅴ(P.183)の(4)の解説では、「せん断破壊型」及び「曲げ損傷からせん断破壊移行型」の場合に、橋脚に塑性化を期待しない設計を行う必要があるとされています。そのため、「柱の塑性化」を「期待する」と選択し曲げ破壊型とならない場合、耐震性の判定を「NG」としています(表2、表3)。
(3)せん断力の制限値
せん断力に対する照査では、下記の通り制限値を決定しています。
・「期待する」:正負交番作用による補正係数ccを考慮したPs」を用います。
・「期待しない」又は「許容しない」:正負交番作用による補正係数ccを1.0とした「Ps0」を用います。
(Up&Coming '21 新年号掲載)