はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第46回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は徳島県神山町の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.46 

神山:案山子
  大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/


神山へ

徳島県神山町は、県央の山間部に位置する人口5400人の小さな町であるが、アダプト・プログラム(市民と行政による協働事業)を全国初で導入するなど、先駆的な取り組みで知られる。近年では、光ファイバーを用いた高速通信網の整備を契機として、都会から多くのIT企業がサテライトオフィスを町内に構えており、新しい働き方・暮らし方を発信している【図1】。

2018年11月に「4K・VR徳島映画祭2018」が開催された。この映画祭は、日本でたったひとつの4K・8K・VR映像に特化したイベントで、数多くの4K・8K・VR映像作品の上映や、最先端技術動向に関するセミナー、トークセッションが旧広野小学校を会場として行われた【図2】。筆者自身は、VR/MR(人工現実/複合現実)の取り組みなどを紹介させて頂くことになった。主催者側のスタッフ用の法被を着てプレゼンすることになったのだが、法被を着るとなぜか気分が盛り上がる。中々楽しい経験となった【図3】。

1 えんがわオフィス 2 旧広野小学校

校内には、地元のカフェや雑貨屋さんが露店を並べており、祭りの縁日のようでありながら、お洒落な感じ【図4】。

夜は、Week神山にある築70年の古民家を再生した「地野食堂」で交流会【図5】。道中、真っ暗で、星が綺麗に見えた。3日間で5000名を超える方々が訪問されたそうだ。

3 プレゼン衣装 4 フード&ドリンク/ 雑貨コーナー 5 地野食堂

アーティスト・イン・レジデンス

プレゼンを終えた翌日、神山温泉の朝風呂に浸かってから、裏山を散歩してみた。山の中なので太陽がなかなか昇ってこず、霜が降りている【図6】。静かな大粟山の山中のところどころには、アートが常設展示されていた【図7】。ここは、創造の森と呼ばれるアート会場。

6 遅い朝

アーティスト・イン・レジデンスとは、招へいされたアーティスト(芸術家)が、ある土地に滞在し、作品の制作など創作活動を行うこと。わが国では、1990年前半からはじまったとされ、全国に拡がっている。神山町では、1999年に始まり、毎年、国内外から約3名の芸術家を招へいし、夏から秋にかけての約2か月間、町内に滞在してもらい、住民と交流しながら、作品を制作し、最終的に展覧会を開いている。神山町には、江戸から明治にかけて、農民の娯楽として阿波人形浄瑠璃が盛んに上演されたことから、1400枚を超える舞台の背景画・襖絵(屏風絵)が現存しているそうだ。これら襖絵を作るために絵師が招かれ、集落に滞在しながら作られたという「アーティスト・イン・レジデンス」の文脈もある。

大粟山の山頂に辿り着くと、山の向こうから朝日が差し込んできた。西方を眺めると、鮎喰川と山なみが続き、正面に三角形をした東宮山が望める【図8】。

9 大久保に射し込む朝日

折角なので、別のルートを辿りながら山を下り、トンネルをくぐると、大久保方面に出た。山の向こうから朝日がまた差し込んできた【図9】。「大久保の乳いちょう」と呼ばれる、樹齢500年以上のいちょうは、樹周13メートル、樹高38メートルの巨木【図10】。そして、眼前に拡がる棚田の真ん中には、アーティストによるパゴダが見える【図11】。宿に戻り、再び湯治へ。

7 大粟山の常設アート展示
8 定番スポット
11 パゴダと乳いちょう
10 大久保の乳いちょうと紅葉

雨乞の滝

神山温泉から電動自転車を借りて雨乞の滝へ向かう。滝の駐車場まで約5kmの道のりだが、標高差 130mを上ることになり、バッテリーは程なく点滅し始めた。坂道沿いに築かれた美しい石垣を眺めながら深呼吸【図12】。

12 石垣

自転車を駐車場に止めて、そこから川沿いの山道を800m(標高差180m)歩いて登る【図13】。直線状の結構な急坂で息がすぐに上がる。道中、うぐいす滝、不動滝、もみじ滝、観音滝などに出会うたびにホッとした。

雨乞の滝の手前につくと、大きな岩壁が立ちはだかり、滝はすぐには見えない。そして、その岩を超えると、滝がひとつ見えた。実は、雨乞の滝について大して予習してきておらず、パンフレットで見ていた滝はひとつしか写っておらず、ここまでの険しい急坂を上ってきてこれなのか、意外に大したことないのでは、と感じてしまった。

しかし、視線を右に移してみると、今、眺めた滝よりもはるかに上の方から、豊富な水量の滝が3段に渡って落ちていた。先ほど少しがっかりしたこともあって、感動はより大きくなった【図14】。

後で調べてみると、最初の滝は雄滝(落差27m)、後の滝が雌滝(45m)。夫婦滝の場合、雄滝の方が立派だったりするのだが、雨乞の滝は雌滝の方がメイン。それも、大きな岩壁の屏風に身を隠しているとは、自然が作りだした、見事な空間演出であった。

13 雨乞の滝駐輪場 14 雨乞の滝: 雄滝と雌滝

クラフトビール

バッテリーがすっかり切れたレンタサイクルを神山温泉で返す。ブルワリーが近くにあることを教えてもらい、川沿いを歩いて尋ねてみた。2018年夏にオープンしたての、KAMIYAMA BEERである。実は前夜の交流会でも瓶ビールに出会っていたが、ブルワリーでは生ビールをオーナー直々に入れてもらえた。季節限定の黒ビールCINDERELLAなどを【図15】。2階のバルコニーから眺める山々と棚田がそよ風とともに気持ちいい。

案山子

雨乞いの滝の道中、民家の縁側にオジサンが座っていた【図16】。帽子とメガネとマスクをかけており、気になってしばらく眺めていても、全く動いていない。たぶん、昨夜の交流会で話題になっていた、案山子(かかし)なのだろう(近づいて確認までしていないので、もしかしたら、本物のオジサンだったのかもしれないのだが)。それにしても、よくできていた。

VRとはコンピュータを使ってあたかも本物のような世界を作り出す技術である。案山子は普通、コンピュータを使用せず、ロボットのように動くことはしないものの、本物の人間と見間違えてしまうその存在は、VRアバタと呼んでもいいかもしれない。少なくとも害獣にとっては、そうである。

神山から去る時には、案山子の大群にも出会った【図17】。こちらは、ネットにも紹介されているほどで、有名らしい。表情もかわいらしい。ただ、真っ暗な夜中にいきなり出会うと、ぞっとするかもしれない。

15 KAMIYAMA BEER
16 案山子? 17 活動している案山子

案山子はそもそも、鳥などの害獣を追い払うために、田んぼや畑の中に設置する人形であるが、今回出会った案山子は、芸術作品であり、本来とは異なる役割を務めている。本来の役割や意味とは異なる使われ方が主流となった例は、他にもないだろうか。

絵文字はそのひとつかもしれない。絵文字は、日本で発明されたものだが、既に、世界中の人々に使われており、英語でも「EMOJI」という単語が作られている。

以前、外国の友人と「EMOJI」の話題になり、私の方から「絵文字のE は何の意味か、ご存知ですか?」と尋ねたところ、「Emotion」だと答えられた。「感情」という意味を表す単語である。友人には、実は、「EMOJI」の「E(エ)」は、英語で「picture」のことで、だから、「EMOJI」は絵で表された文字のことなんですよ、とお伝えした。そう話しながらも、Emotionの方が、ひょっとしたら、世界中の人々には伝わりやすいのかも、と思えてきたのである。



3Dデジタルシティ・徳島 by UC-win/Road
「神山」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は、徳島県の北東部、吉野川の南側に並行して流れる鮎喰川上流域に位置する神山町を作成しました。4K・VR徳島映画祭2018の会場となった広野小学校校舎や、神山町役場周辺の街並みの再現を行いました。地形標高データ、航空写真は地理院タイルからインポートし、3D空間を再現しており、鮎喰川は湖沼機能を使用し表現しました。また、毎年七夕の時期には下分公民館と、その周辺で「七夕飾り」が開催されます。旗モデルを使用し、七夕飾りの吹き流しが揺らめく 様子を表現しています。
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地理院タイルより標高を読込、山あいの詳細地形を表現
画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
県道20号を走る車から見た広野小学校 スカイドームと湖沼機能で
夏の川面を表現
七夕の笹を3D樹木、
吹き流しを旗機能で表現



CGレンダリングサービス

UC-win/Road CGサービス」では、UC-win/Roadデータを3D-CGモデルに変換して作成した高精細なCG画像ファイルを提供します。今回の3Dデジタルシティのレンダリングでは「Shade3D」を使用しました。日没後の下分公民館での七夕飾り、車体や路面に反射する照明の光など、高品質な画像を生成しています。

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(Up&Coming '19 盛夏号掲載)
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