はじめに
福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第31回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はブラジル・サンパウロの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.31
サンパウロ:南半球一のメガシティ
大阪大学大学院准教授 福田 知弘
プロフィール
1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学大学院准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。国内外のプロジェクトに関わる。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design Research In Asia)学会 会長、日本建築学会 近畿支部常議員、NPO 法人もうひとつの旅クラブ副理事長、大阪旅めがねエリアクルー。「光都・こうべ」照明デザイン設計競技最優秀賞受賞。著書「VR プレゼンテーションと新しい街づくり」「はじめての環境デザイン学」など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/
サンパウロへ
ブラジル・サンパウロへ。人口は2036万人。ブラジル、南アメリカ、そして、南半球で第1位の都市である。ウェンデル・コックスらにより作成された世界の都市的地域(400人/m2以上の人口密度を有する、建物が連続する地域)によれば、サンパウロは7位である(2020年)1)。日本からみて地球の裏側にあたり、時差は12時間。太陽は東から上がるのは日本と同じだが、北を回って、西に沈む。よって影は南側に落ちることになり、方向感覚に狂いが生じてしまう。訪問した7月の季節は冬。実は、サンパウロに来る直前はギリシャのVRサマーワークショップに参加していたのだが、ギリシャとサンパウロの気温差は15℃近くもあった。
ブラジルの公用語はポルトガル語。多くの方にとって英語は不得意なようで、筆者はポルトガル語が全然ダメ。そこで、ホテルでもフロントスタッフとGoogle翻訳画面を使いながらポルトガル語から英語に翻訳した文章でやり取りする場面も。一方で、英語がネイティブでない人には寛容な街だと感じた。
サンパウロは日本との縁がとても深い都市でもあり、中心部のリベルダージという場所には日本人街が形成されている。そこには、鳥居があり、大阪橋があり、日本食がある【図1】。日曜日になると、サンパウロ市内のお店は閉まるそうだが、丁度七夕祭りの季節ということもあってか、リベルダージには多くの露店が並んでいた。
【図1】リベルダージの鳥居
CAAD Futures 2015
サンパウロ訪問の目的は、CAAD Futures 2015カンファレンスへの出席【図2】2)。南米初の開催であり、都市のモデリング・分析とシミュレーション、設計知識とCAAD会議、サスティナビリティとパフォーマンス、自動化とパラメトリックな設計、形態研究、BIM、ファブリケーションとマテリアリティ、デザイン認知に関する査読付き論文発表64編、6つの基調講演、5つのワークショップが行われた。
【図2】CAAD Futures 2015(スライドは建設中のMASP)
学会明けの土曜日はエクスカーション。地元の方の案内ならではの街や建築の話、また、その説明に対する各国からの参加者の突っ込みも面白い。実行委員長ガビ・セラーニ先生のきめ細やかな段取りも素敵であり、色々と学ばせて頂いた。
学会場となったのは、パウリスタ通りにある、MASP(Museu de Arte de Sao Paulo;サンパウロ美術館、【図3】)。
【図3】MASP(サンパウロ美術館)
南半球屈指の美術館として知られる。美術品コレクションに加え、建築物がシンボリック。躯体は両端の4本の柱によって中空に浮かんでおり、地上部にオープンスペースを提供している【図4】。設計者は、リナ・ボ・バルディ。
【図4】MASP地上階の広場
リナ・ボ・バルディ
サンパウロにある、リナ・ボ・バルディの他の作品を。「ガラスの家」として知られる彼女の自邸、カサ・デ・ヴィドロ。緑に囲まれた高台にあり、家の中には、彼女たちが生活していた家具や調理器具が残されている。
セスキ・ポンペイアは使われなくなったドラム缶工場を改修した市民カルチャセンター。工場をリノベーションした棟には、レストラン、図書館、工房などの施設が入り、一日たっぷり過ごせる。リナが新たに設計した建物は、2棟のコンクリートの打放しビルで構成され、1棟には階段やエレベータなどの垂直動線が、もう1棟には体育館やプールが入る【図5】。採光・換気のための窓は自然曲線に穴が開けられており、コンクリートの仕上げも粗々しい。
【図5】セスキ・ポンペイア
行ってみると予想以上にカッコいい公共施設。中に入ってみると、子供も大人もやはりサッカーに夢中【図6】。
【図6】セスキ・ポンペイア内観
地下鉄
ホテルから学会場までは地下鉄で一駅。歩いて行ける距離だが、冬の雨は辛かったので、地下鉄を使おう。とはいえ、2000万人のメガシティ・サンパウロのど真ん中の通勤ラッシュは物凄かった【図7】。
【図7】通勤ラッシュ
ラッシュの凄さに気づいてからは、地下で人に巻き込まれるよりも、地上で雨に巻き込まれたほうがマシかもと考えたが、人の波にのまれてもう後戻りできない。地下鉄の新しい路線のホームには落下防止ドアも付いている。電車も新しいのだが、加速減速の度合いが日本より大胆な感じで、パウリスタ(サンパウロっ子)は慣れているようだが、私だけ都度よろめいてしまう始末。また、切符は青いブースにいるスタッフの人力販売が主(基本区間R$3.5=JPY140)なので、雨になると長蛇の列。この辺りのギャップが面白い。
ミンホカオ
サンパウロの都心の高速道路が歩行者天国になる場所があると聞いた。ミンホカオと呼ばれているそう3)。1976年より、沿道の騒音対策を兼ねて実施した交通規制政策。平日は夜9:30~朝6:30迄、日曜祝日は終日、高速道路が歩行者専用道路に生まれ変わる。実際に行ってみると、本当に車が通らず気持ちいい3.5kmウォーク。高速道路は路面がきれいで歩きやすく、風が適度に通って気持ちがいい。ウォーキング、ジョギング、真剣ラン、ママチャリ、ロードバイク、犬の散歩、サッカー、中央分離帯に座って語り合い、と人々は思い思いに過ごしていた【図8,9】。お金をかけずに、実現可能性を考慮して、実施時間・実施曜日を限定して取り組んでいるのが素晴らしい。
【図8】ミンホカオ(昼)
【図9】ミンホカオ(夜)
一方、市内では自転車専用車線の常設化が進められており、目抜き通りのパウリスタ大通りでは丁度6月28日に正式開通を迎えたところ。日曜祝日には、以前から自転車専用道路として常設されてきた中央分離帯に加えて、中央分離帯とその両側計4車線分が自転車専用道路として開放されている。ママチャリのレンタサイクルもやっていた。
このように、公共スペースを市民により広く提供する試みが行われている。
イビラプエラ公園
市内にあるイビラプエラ公園はお勧め。建築家オスカー・ニーマイヤーと造園家ブーレ・マークスが設計した、市民の憩いの場所。3つの美術館がある他、特徴的なイビラプエラ講堂【図10】、流線型の大屋根など。自然はもちろん豊かで、ジャカランダやイッペの花が満開であった【図11】。
【図10】イビラプエラ講堂(内観)
【図11】ジャカランダ
ニーマイヤーによる大型集合住宅、コパン・ビルディング。この上階に上がることはできないものか?集合住宅なので無理かなと思ったが、片言の英語が話せる住民にたまたま出会え、アパートのエレベータ入口に立つガードマンにポルトガル語で尋ねてもらった。
結果、住民でなくとも屋上に上がれることはわかったものの、平日のみとのこと(訪問日は休日)。その後は機会が取れず、残念。後で、地元の家を旅行者に貸してくれるマッチングサイト4)を調べると、コパンに宿泊ができそうだとのこと。また機会があれば利用したいものだ。
最後に、以前、ブラジルから留学生として筆者の研究室で学ばれ、今はブラジルに戻って活躍されている、ユリ・トヘス君に久しぶりに出会うことができた。恐らく、最も遠い距離で頑張っている卒業生。帰国して時間が経っており、互いの顔が認識できるか不安だったが、MASPのピロティで何とか出会うことができ、色々と懐かしい話や近況を交換することができた【図12】。
Keep in touch with my old friends!
【図12】Yuri Torres君と再会
【参考文献】
1.DEMOGRAPHIA、Demographia World Urban Areas 11th Annual Edition: 2015:01 http://www.demographia.com/db-worldua.pdf
2.CAAD Futures 2015 http://caadfutures2015.fec.unicamp.br
3.ParqueMinhocão
4.Airbnb https://www.airbnb.jp/
3Dデジタルシティ by UC-win/Road
「サンパウロ」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
「スパコンクラウド® CGムービーサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細な動画ファイルを提供します。今回の3Dデジタルシティのレンダリングにも使用されており、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。また、POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。
(Up&Coming '15 秋の号掲載)