はじめに

福田知弘氏による「建築と都市のブログ」の好評連載の第6回。今回も、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。この3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。

Vol.6

マナーマ:古新が織りなす
中東の島

大阪大学大学院准教授 福田 知弘

プロフィール

1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授、博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design Research In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

極東の島国から中東の島国へ

2009年5月、ASCAAD2009国際会議参加のためバーレーンへ。中東地域のCAAD学会であり、テーマは「Digitizing Architecture --Formalization & Content --」。デザイン教育、デザイン手法、デジタルデザインツール、デジタル手法、デジタルヘリテージ、ジェネレーティブシステム、VRアプリケーションなどをテーマとして、35の論文が掲載された。

今回、実行委員長を務めたワエル・アブデルハミード先生(バーレーン大学・当時)は、World16のメンバーでもある。一方、リーマンショック影響による経済不況等により、残念ながら参加を見合わせた研究者・学生も多く、参加者は100名弱であった。

学会では、バーレーン国の国務大臣の開会式への参加や、中東らしい民族衣装をまとった聴衆が大勢いる中での論文発表など、学会は独特の雰囲気であり、筆者にとっては新鮮な経験であった【図1】。

【図1】ASCAAD2009

大阪旅めがね・大正エリアクルーで大正を案内してから、深夜便で関西空港を発ち、カタール・ドーハ経由でバーレーンまで15時間。2日間の学会参加のため、機中泊2泊、現地2泊の計4泊と中々タイトな弾丸出張である。

経由地となるドーハは、朝6時の時点で30度を超えており、さらに蒸し暑い【図2】。

【図2】ドーハで乗り換え

ドーハと聞けば、日本のゼネコンが新ドーハ国際空港を建設するなど関わりをみせているが、やはり「ドーハの悲劇」を先に思い出す。1994 FIFAワールドカップのアジア地区最終予選、ドーハで行われたイラクとの最終戦で後半ロスタイムに同点にされてしまい、日本が悲願の本大会初出場を逃した出来事である。

バーレーン・ワールドトレードセンター

バーレーンは33の島から構成される中東の島国であり、面積は淡路島ほど。そこに約80万人が住む。人口密度は、1,019人/k㎡と日本の約3倍。アラブ人が7割を占めるが、アジア人も多い。バーレーンに着いて驚いた事を3つ。

  1. アラビアで最初に油田が発見された国(1931年10月)。
  2. 有史以前(紀元前3000年~)の古墳群としては世界最大級。
  3. 発表に使うレーザーポインタを手荷物かばんに携帯していたが空港の出口検査で危険物として没収された。

では、首都マナーマの様子を。

バーレーン・ワールドトレードセンター

ASCAAD2009が開催されたホテルのすぐ隣に、バーレーンの新しいランドマーク、バーレーン・ワールドトレードセンター(BWTC)が建つ【図3】。設計はATKINS。BTWCは、高さ240mのツインタワー。そして中央に発電用の風力タービン(直径29メートル)が3基。目の前に広がる海からの風を利用しようと、世界ではじめて大型の風力発電をビル自身に取り入れた。このビルが必要とする電力の11~15%を風力発電でまかなえるという。目標稼働率は50%。

【図3】BYWC

ビルの下層階は最先端のブランドショップが入るモール街となっているが、上層階は一般オフィスとなっているため、一般客がアクセスできるエリアはモール街のみ。これはちょっと残念。

まちなか

BWTCのある湾岸地域は新規開発が進んでいるが、バーレーン門【図4】から南側がスーク(市場)地区となっており、アラブらしい下町の風景に出会える【図5】。狭い路地を進んでいくと服飾、金、香水、青物、日曜品などの市が集まっており、生活感に溢れている。

【図4】バーレーン門

【図5】スーク地区

バーレーンの日中は40度近くにも上り、さらに蒸し暑い。1時間も歩けば休みたくなる。まちなかアブドゥーラ・アベニュー沿いのレストランでランチ。ペプシと庶民的なインド料理風の焼き飯が美味しかった。店の看板、商品のラベル、交通標識などは、英語とアラビア語の2言語表記が基本のようだ【図6】。

【図6】インド風焼き飯とペプシ

この日は日曜日だったが、まちなかはなぜだか普段通り。子供たちも学校へ。調べてみると、バーレーンはイスラム教国ゆえ金曜日が休日。ただし近年は、金・土の週休2日になりつつあるそうだ。

バーレーンの物価は日本とさほど変わらない。レクサス、ベンツ、BMWなどの高級車も数多く走っている。

バーレーン国立博物館

バーレーンは数多くの古墳や遺跡があるため、博物館が幾つも点在している。

バーレーン国立博物館は、1988年にオープン。1階と2階に計6つの展示室があり、バーレーンの古墳、歴史、人々の暮らしぶりなどが紹介されている。イスラム化以前の古代文明、紀元前2200年から前1600年頃に黄金時代を迎えたという、ディルムン文明の展示、並びに、天然真珠採取業に関する展示は特に興味深かった【図7】。

【図7】バーレーン国立博物館

バーレーン・フォート

車に乗って、マナーマ郊外へ。バーレーンは島国といっても近隣国とハイウェイで繋がっている【図8】。タクシーの運転手に聞けば、ここからサウジアラビアへは1時間、クェートやカタールへは4時間、ドバイへは16時間、オマーンへは22時間で着くと言っていた。日本人にとって、国が陸続きなのは何とも不思議な気分だ。

【図8】隣国とつながるハイウェイ

バーレーン・フォートは、紀元前3000年頃からいくつもの都市が積み重なってつくり上げられてきた地。古くは、メソポタミア文明とインダス文明を結ぶ交易の要衝として、少なくとも紀元前2300年頃には栄えていたと見られ、古代都市ディルムンがあった場所と考えられており、2005年にバーレーンで初めて世界遺産に登録された。マナーマ市街とは約7km離れている。

現在残っている遺構は、16世紀頃にバーレーンを支配したポルトガルの城跡といわれ、現在も修復作業が行われている。遺跡の中に入ると壁が高く迷路のよう【図9,10】。

【図9】バーレーン・フォート

【図10】バーレーン・フォート内部

バーレーン・フォート博物館

バーレーン・フォートの傍には、2009年にオープンしたバーレーン・フォート博物館が建つ。設計はWohlert Arkitekter(デンマーク)。見学料は約140円(500Fils)。入口で開館を待っていると、社会見学のためか小学生たちがやってきた【図11】。展示は3000年前からの都市の歴史が地層や遺物と共に紹介される。内部空間は、2層吹き抜けとなっており、地層を現す巨大な壁が印象的。高低差を活かした展示方法も見やすく工夫されている【図12】。中庭やカフェも気持ちがいい。

【図11】バーレーン・フォート博物館

【図12】博物館内の展示

尚、この近辺にあるサール(Saar)古墳群近くでは、紀元前3000年に栄えたディムルン文明の史料を展示する「バーレーン遺跡博物館」が計画中だと聞いた。

3Dデジタルシティ・バーレーン by UC-win/Road
「バーレーン」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ

UC-win/Roadによる3次元VR(バーチャル・リアリティ)モデルを作成したものです。バーレーンの新しいランドマーク、バーレーン・ワールドトレードセンター(BWTC)を中心に新規開発が進む湾岸地域と、アラブらしい生活感に溢れた下町の風景が混在する首都マナーマの街並みを再現しました。世界遺産に登録された中東の歴史を感じさせる城跡、サウジアラビア、ドバイなど中東各地と繋がるハイウェイの交通流、BWTCの発電用風力タービンの回転する様子などをリアルに表現しています。

(Up&Coming '10 新緑の号掲載)