Incredible India!
インドは、ロシア、カナダ、アメリカ、中国、ブラジル、オーストラリアに次いで、7番目に大きな面積を有する国。日本の8.7倍。また、人口は中国に次いで現在第2位だが、今世紀中には1位になるとも言われる。VISA取得先のインド総領事館で見かけた「Incredible India!」のポスター。キャッチコピーがちょっと気に入った。訪れてみると、インドは本当にIncredibleな国だった。
インド人は話し好き
「国際会議の名議長とは、インド人を黙らせ、日本人を喋らせることができる者」という冗談がある。インド人と日本人とは対照的ということか。確かにインド人は誰にでも話しかけてくるし、交渉の上手さも有名。
首都ニューデリーでタクシーに乗る。タクシーにメーターは付いておらず、行き先を伝えて値段交渉がはじまる。宿泊先のホテルによって、値段設定を変えられることもあるそうだ。そして、暑い車中だったのでエアコンを付けてもらう。運転手は何も言わずにエアコンを付けてくれ快適なドライブとなったが、降車の際に、エアコン代50ルピー(1ルピー≒1.9円)を追加請求された。「運転手さん、そんなん、はよぉ、ゆうて~な~」と思わず関西弁が出そうになる。運悪く、ぼったくりタクシーに出会ってしまったと思いきや、これが普通なんだと。そんな事で驚いてはいけない、と。ただ、もし高い値段をふっかけてきたとしても、「昨日は同じルートを100ルピーで乗ったけど~」というとその通りになったりする。まあ、こんな交渉が色々な場面で続くのだが、筆者の脳と体が戸惑いを隠せないでいる。そして徐々に、人間不信になっていくのだが、この壁を乗り越えるためには、ジモティに対応の仕方を教えてもらうしかない。
街なかの様子
街なかの交通渋滞は物凄い【図1】。自動車・バス・リクシャー・人力タクシーが道狭しと走っている。驚いたのは、前後左右の車間距離がとにかく狭いこと。隣の車との距離が15cm程しかないという話も決して大げさではなく、助手席に乗っていると、隣の車の運転手の方が、自分の運転手よりも自分の近くにいると感じるほど(笑)。ほとんどの車にはサイドミラーが付いておらず、運転手にその理由を聞くと必要ないとのこと。それでもぶつからず、というより、多少ぶつかっても気にせず、クラクションを鳴らしながら走っている。
色んなものとの出会いが楽しいのもインドならでは。リス・イヌ・サル・ラクダ・ウシ・クマ・ゾウなどの動物たち。そして、散髪屋さん。これらを見かけたのは、動物園やショッピングセンターではなく、なんと道端。
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【図1】 |
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【図1】ニューデリーの交通渋滞、道端の風景(牛、散髪) |
タージ・マハル
ニューデリーからヤムナー河に沿って南へ約200km下り、アーグラーという町に入る【図2】。特急列車で2時間強。アーグラーは紀元前3世紀頃に登場して以来、16世紀半ばにムガル帝国第3皇帝アクバルが首都をここに置き、約1世紀の間、帝国の中心として繁栄した。
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【図2】タージ・マハル |
タージ・マハルから500m以内はガソリン車通行禁止。これは近年、工場から排出される亜硫酸ガスや自動車の排気ガスによる大気汚染の影響で、タージの白大理石が汚損と劣化の危機にさらされているため。電気自動車・ラクダ・馬などでアクセスする【図3】。
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【図3】電気自動車でタージ・マハルへ |
敷地は、幅300m、奥行き580mで巨大そのもの。正門は赤砂岩でできており、ここからタージは見えない【図4】。正門の中は暗くそのまま進んでいくと、真っ白なタージが視界に飛び込んできて、思わず息を呑む。タージを囲む正門や壁は赤砂岩で作られており、白いタージが引き立つように設計されている。また、訪問時は丁度乾季で日中は40度を越えていた。こんな時、赤砂岩に座ると蒸し熱いが、大理石はひんやりと涼しい。タージの基壇の大きさは95m四方、タージ本体は57m四方で、高さ67m。四隅にあるミナレット(塔)の高さは43m。タージの真正面に立って、頭の中で、蓮を連想させる大小のドームや四隅の塔など、建物を構成する部材たちの大きさやプロポーションを変えてみたり、部材を取り外したりしてみると、建物のバランスがやはり悪くなった。世界屈指の美しい建築だと思う。
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【図4】正門付近 |
【図5】大理石壁面に刻まれたコーランの
章句や象嵌細工 |
いよいよ、基壇に上る。基壇へは靴を脱ぐか、靴をカバーする必要がある。間近に立つと遠くからはわからなかった、大理石の浮き彫りや象嵌細工が目に飛び込んでくる。コーランの章句はアラビア文字で彫刻されている【図5,6】。
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【図6】タージ・マハル全景 |
ブラック・タージとAR
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【図7】ロエベ アマソナ展でのセカイカメラ |
【図8】タブレットMR(2006年) |
ARの研究開発と実用化が盛んに行われている。ARを応用した実用化サービスとしては、2000年後半に発表されたセカイカメラが先駆的であった【図7】。このサービスでは商品ディスプレイにiPhoneをかざすと、実写映像の上にCGで描かれたエアタグが表示され、エアタグをクリックすると商品の詳細情報を閲覧することができる。
建築土木分野では、敷地をキャプチャした実写映像と、計画・設計案のCG映像を重畳してAR表示させることにより、事業者や設計者が現場に訪問して、将来の景観変化をシミュレーションしたり、顧客や市民にプレゼンテーションすることができる。筆者のグループでも開発を続けており【図8】、現場で検討可能なARは、会議室でじっくりと将来像を検討するVRとは、また違った魅力を秘めている。
タージ・マハルの話に戻ろう。タージの背後にはヤムナー川がゆったりと流れている【図9】。お妃の墓を建設したシャー・ジャハーンは、このヤムナー川の対岸に、黒大理石で自分の墓を建て、さらに両者を結ぶ橋を計画していたという。しかし彼は、自分の息子によってアーグラー城に幽閉されてしまい計画は頓挫してしまう。ジャハーンはその7年後に亡くなるが、幽閉され続けたアーグラー城で、亡くなったお妃や頓挫した黒いタージ計画に想いをはせていたことだろう。失意のジャハーンにVRやARが与えられていたならば、実現したかったブラックタージをせめて仮想体験できたのかもしれない。
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【図9】ヤムナー川 この対岸にブラック・タージが計画 |
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3Dデジタルシティ・インド by UC-win/Road
「インド」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ |
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無秩序に過密化した道路交通をUC-win/Roadの交通シミュレーション機能の活用により表現しました。また、タージ・マハルや幻の計画に終わったブラックタージ(黒大理石で建造する皇帝の墓)をVRモデルとして可視化、さらに市場の喧噪や道端を行き交うインドならではの馬、牛、象などのうち牛をモデル化するなど生命感あふれるインドの風景をリアルに表現しています。 |
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