今年の日本の野球界の公式戦は、東京ドームで行われるアメリカ・メジャーリーグの一戦、ロサンジェルス・ドジャース対シカゴ・カブスの試合で幕を開けることになった……と書いても何の間違いもないことは、筆者も承知している。
が、この文章には、アメリカ人には絶対に通じない言葉遣いが含まれていることを、我々日本人は知っておいたほうがイイだろう。
それは、"メジャーリーグ"という言葉だ。
アメリカ人に向かって、「アイ・ライク・メジャーリーグ・ベースボール」と言っても通じない。怪訝な顔をされて「ホワット?」と訊き返されるのがオチだ。あるいは、日本人の日本語的発音を理解しているアメリカ人が相手だったら、笑いながら「ミイ・トゥー(私も)」と返事してくれるかもしれない。
が、日本で映画の題名にもなり、テレビのニュースなどでも平気で使われている「メジャーリーグ」という言葉は、アメリカ人(英語圏の人)には絶対に通じない言葉だということは知っておいたほうがイイ。
と言うのは、「メジャー」と発音すれば、英語では"measure"のこととなり、それは日本でも使われる"長さや大きさを測る測定器"のことしか表さないからだ。
"アメリカ大リーグ"のことを表す「大」を意味する英語は"major"で、発音は「メイジャー」と、"a"の部分が「エイ」と二重母音になる。
この「二重母音」と「短母音」の違いが、日本語でははっきりと「違い」として認識されないが、英語を母国語としてる人々にとっては、その違いは大きく、意味も全く違ってくることが少なくないのだ。
このように、日本の野球では間違った使われ方をしている「日本式英語=ジャングリッシュJanglish」が少なくない。
最近も、テレビのアナウンサーが、「今年のシーズン・オフ、ストーヴ・リーグの最大の話題は楽天の田中投手が巨人へ移籍……」と話しているのを耳にした。
が、"シーズン・オフ"は和製英語で、"オフ・シーズンOff season"が正しい英語。また"ストーヴ・リーグStove League"という言い方は、英語(アメリカ)でも使われるが、それは「オフ・シーズンの寒い冬の季節に、何人かの野球ファンが暖かいストーヴを囲み、過ぎ去ったシーズンの出来事を熱く語り合うこと」という意味。だから、トレードやドラフト会議が盛んになる(燃え上がる)といった意味で使われる日本のストーヴ・リーグとは意味が違うのだ。
また、「フォア・ボール(四球)」や「デッド・ボール(死球)」も和製英語で、それぞれ「ベース・オン・ボールズBase on balls」「ヒット・バイ・ピッチHit by pitch」という言い方が正しい。
逆に、夜間照明で行う試合が「ナイター」と呼ばれていることを、和製英語と思っている人が少なくないようだ(日本語の辞書にも和製英語と記されているものがある)。が、これはアメリカ人が使うことは少ない(ナイトゲームnight gameと言うことが多い)が、歴とした正しい英語で、英語は名詞の末尾に-erを付けて別の言葉にすることは多いという。
Night(ナイト=夜)に erを付けてNighter(ナイター=夜間試合)となるように、ノーヒットNohit(無安打)に-erをつけてノーヒッターNohitterとすれば、無安打試合(ノーヒットノーラン試合)を意味することになる。
そんななかで、最も珍妙な和製英語は、「バスター」とだろう。
野球好きなら子供でも知っていて、野球中継でもアナウンサーや解説者が頻繁に使う言葉だが、塁に出ている走者を、打者が送りバントで次の塁に進ませると見せかけながら、投手がボールを投げた瞬間に打者がバントをやめて強打に切り替える作戦のことだ。
この作戦を初めて日本の野球に持ち込んだのは読売ジャイアンツで、V9(9年連続優勝)時代に川上哲治監督のもとで名参謀と呼ばれた牧野茂ヘッドコーチだった。
1963年の春、ロサンゼルス・ドジャースのキャンプに参加したジャイアンツが、ドジャースと練習試合を行ったときに、ドジャースの選手が「その作戦」を見事に決めた。そのときドジャースナインだけでなく観客の多くも「バスター!」と叫んだので、その作戦を取り入れた牧野コーチが、同じ作戦を日本で披露したときに、試合後新聞記者たちに向かって「あれはバスターというドジャースの戦法だ」と話したところから、日本の野球で「バスター」という言葉(作戦)が広まったのだった。
が、「バスター!Buster!」という言葉は本来、「ぶち壊し屋」とか「バカ騒ぎ」を意味する言葉で、「オー!バスター!」と叫んで使われた場合は、「凄い!」「スッゲエ!」「やったぜぃ!」といった感嘆詞を意味することになる。
チャップリンと並ぶ大喜劇役者のバスター・キートン(本名ジョセフ・フランク・キートン1895~1966)の「バスター」という芸名は、階段から転落するギャグを平気で行うキートンを見た奇術師として高名だったフーディニが"What a Buster!"(何と凄いんだ!)と叫んだことから生まれたという。
また、1990年2月に東京で、当時史上最強のヘビー級王者と言われたマイク・タイソンを10ラウンドKOに破ったジェームス"バスター"ダグラスの「バスター」も「壊し屋」という意味で付けられたリングネームだった。
だから「バスター」は野球の作戦用語などとは無関係の言葉なのだ。そこで、藤田元司監督の下で再びジャイアンツのヘッドコーチのユニフォームを着た1981年、牧野茂さんにそのことを話したところが、笑顔で「そんなことくらい知ってるよ」と答えて、こう続けられた。
「英語で言えば、単なるヒッティング。それよりバスターのほうが、ずっと迫力があってわかりやすいじゃないか。もちろん、アメリカじゃあ、使えないけどね」
大谷翔平、山本由伸に、佐々木朗希の加わったドジャースに、今永昇太や鈴木誠也のいるカブスが開幕戦を行い、「サンシーン!」「ホームラン・サヨナーラ」と、アメリカの実況アナウンサーも日本語を口にするようになり……さらに、高卒ルーキーで日本のプロ野球を経ずにアメリカへ渡る野球選手も出てきた今日、野球の日米関係の未来も、日本のプロ野球の未来も、どうなってゆくのか?
それをキチンと考え、見定めるうえでも、「言葉」は正しくきちんと理解しておきたいですね。
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