新しい年2022年も世界のスポーツ界は、まずはオリンピック"騒動"で幕を開けそうだ。
21年11月、プロテニス選手で女子ダブルス世界ランキング1位にまでなった経験のある彭帥選手が、中国共産党幹部の元副首相に性的虐待を受け、不倫関係を強要されていたとの告白をインターネットに投稿。その後消息不明に陥っていた事件は、IOC(国際オリンピック委員会)バッハ会長がテレビ電話で無事を確認した、と彭さんの笑顔の写真付きで公開。
これは、何としてでも22年2月4日開幕の北京冬季オリンピックを無事に開催したいIOCバッハ会長と中国の習近平主席によるヤラセではないかと誰もが思った事件だった。
実際、WTA(世界女子プロテニス協会)のスティーヴ・サイモン氏は、中国当局の発表した子供たちと彭選手のテニス交流動画とともに、「彭帥さんの自由な発言、行動とは思えない」と疑義を呈し、WTAは多くの女子プロテニス大会を中国で開催する予定だったが、「疑惑が完全に晴れない限り、それら中国でのすべての大会の開催を見合わせる」とまでの決定を下した。
一方アメリカやイギリスは北京冬季五輪の政治的ボイコット(選手は派遣するが政府関係者は大会に参加しない)を主張し始めた。
また、この"彭帥事件"が起きる前から、アメリカも「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と非難していたウイグル族への中国当局の弾圧政策や、内モンゴル自治区でのモンゴルの子供たちへのモンゴル語禁止、中国語使用の強制、チベットや香港での民主勢力への弾圧などに対する抗議活動は世界中に広がり、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)をはじめとする多くの世界人権団体が北京冬季五輪のボイコットを呼びかけ始めた。
多くの人々から、その言動を否定されたIOCバッハ会長は、どのように失地を回復するのか? 彭帥さんに「五輪のときに北京で食事しましょう」と約束したことが実現されるかどうか? もしもすべてが曖昧なまま北京冬季五輪が開幕された場合は、1936年ベルリン五輪の二の舞になりかねない……と断言しているのは、作家で歴史家の井沢元彦氏だ。彼は近著『汚れた「平和の祭典」』(ビジネス社)で《2022年北京オリンピックをボイコットせよ》と訴え、でなければ1936年ヒトラー率いるナチス・ドイツのプロパガンダに利用されたベルリン五輪のように、世界のなかで独裁政権に自信と力を与えてしまうと警告する。
このベルリン大会も、開幕前からナチスによるユダヤ人迫害が問題視され、ボイコットの声が世界中で高まっていた。が、そのときIOCの調査団団長として派遣されたのがUSOC(アメリカ五輪委員会)会長のアベリー・ブランデージで、彼が「ユダヤ人迫害は存在しない」と報告。その虚偽の報告の結果ボイコットは中止された。その後、ユダヤ人と世界の人々がどれほど悲惨な災厄に見舞われたかは歴史に残されたとおりだ。
ブランデージは後にIOC会長として東京・札幌両オリンピックの開催に協力した人物でもあるのだが、IOCとしてベルリン五輪での失敗を繰り返すべきではないだろう。
政治的ボイコットが広がるのか、選手のあいだにまでボイコットが広がるのか……予断は許さないが、IOCは「開催ファースト」でなく、世界の人権問題にも眼を光らせて、中国に意見を申し立ててこそオリンピックの理念に叶うはずだが……。
北京冬季五輪が終わってもオリンピックの話題は尽きない。というのは4月前後に東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が、東京大会の最終決算報告を出すからだ。
招致立候補時には約7400億円で開催する「コンパクト五輪」が売り文句だったが、その後、1兆6500億円にまで膨らんだ。それは延期に要した追加費用が積算されていない段階での発表で、さらに国と東京都は既に1兆8000億円の税金を五輪関連費用として使ったとの報告が会計検査院からなされている。
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