vol.42

このコーナーでは、ユーザーの皆様に役立つような税務、会計、労務、法務などの総務情報を中心に取り上げ、専門家の方にわかりやすく紹介いただきます。今回は、2023年4月から改正される時間外労働割増賃金率と就業規則の対応について解説いたします。

時間外労働割増賃金率の変更と就業規則の対応について

2023年4月1日から、中小企業においても、月60時間を超える時間外労働については、割増賃金率が大企業と同じく50%へ引き上げとなりました(大企業は2010年10月より適用)。どのような改正なのか確認し、就業規則の変更などの必要な対応を取るようにしましょう。

1.月60時間超の時間外労働の割増率が変更に

深夜労働と休日労働との関係

深夜労働(午後22:00~午前5:00)の時間帯は深夜労働時間となり、深夜割増対象となります。深夜割増賃金は25%となりますので、この時間帯に時間外労働があり、かつ月60時間を超えていた場合は、深夜割増にプラスして60時間超の時間外割増分の支払いが必要となります。


■深夜時間帯に時間外労働をした場合(通常の深夜+時間外労働の計算)
深夜労働割増賃金率25%+時間外労働割増賃金率25%=50%


■深夜時間帯に60時間超の時間外労働をした場合
深夜労働割増賃金率25%+60時間超時間外労働割増賃金率50%=75%


また、法定休日に労働した時間は、休日労働賃金割増率(35%)の支払いが必要ですが、時間外労働の算定には含みません。法定休日労働に「時間外」という概念が存在しないため、例え法定休日に8時間以上働いても、時間外割増率をプラスする計算とはなりません。あくまでも、法定休日労働時間に休日労働賃金割増率で計算した賃金の支払いとなります。

なお、それ以外の休日の労働時間は、時間外労働に含まれます。


2.就業規則の変更

適格請求書発行事業者の登録を受けている間は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、消費税の申告が必要となります。

免税事業者の方が2023年10月1日から登録を受ける場合は、登録日である2023年10月1日以降の課税資産の譲渡等について、消費税の申告が必要となります。

消費税の課税対象は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付けおよび役務の提供です。


3.簡易課税制度について

就業規則(賃金規程)で割増賃金計算率や式を記載している箇所があれば、今回の月60時間超の割増賃金率を追加する必要があります。



変更施行日は、引き上げ率適用となる日付(2023年4月1日)からとなります。この他、次項の「代替休暇」を付与する場合にも就業規則に追加記載が必要となります。


4.代替休暇

今回の月60時間超の時間外労働についての割増率引き上げですが、引き上げ部分の割増賃金支払いに代えて、有給での休暇=「代替休暇」を付与することも出来ます。もともと長時間労働抑制のために月60時間超の時間外労働に対して割増率を引き上げた経緯があるため、労働者の健康を確保するため、割増賃金の支払いの代わりに代替休暇の付与が出来ます。労働者にはしっかりと休息を取ってもらい、会社は割増賃金支払いを抑制できるため、上手く活用したい制度です。

ただし代替休暇を付与とする場合は、労使協定を締結する必要があります。労使協定の内容としては、以下の通りです。

1.代替休暇の時間数の算定について
2.代替休暇の単位
3.代替休暇を与えることが出来る期間について
4.代替休暇の取得日の決定方法
5.割増賃金の支払日



なお、代替休暇を付与することとなった場合でも、通常の時間外割増分(25%)の支払いは必要となりますので注意が必要です。また、代替休暇を取得するか、50%の割増賃金支払とするのかについては労働者の任意の選択となりますので、会社側で代替休暇の強制はできません。


5.割増賃金率の引き上げに伴い確認しておくこと

現状として、月60時間超えの時間外労働をしている社員がどのくらいいるのか確認してみます。月60時間超えの時間外労働は長時間労働に該当します。さらに月80時間を超える時間外労働があり、過労死等になった場合は労災認定されるラインとなります。労災となれば、会社の安全配慮義務違反にも問われる可能性があります。



割増賃金率引き上げ前に、まずは時間外労働の削減に取り組んでいきましょう。業務量の確認、仕事の進め方など業務の効率化を図り、なるべく月60時間を超える時間外労働とならないようにしていきましょう。割増賃金率を守って支払いを行えばコンプライアンス違反とはなりませんが、それが常態化するのは社員の健康面から言えば非常に危険です。支払えば良い、ではなく、支払わなくても良い職場環境を整えることが大切です。





監修:社会保険労務士 小泉事務所

(Up&Coming '23 春の号掲載)