強い仕事は強い愛から 愛の映画特集

少し気恥ずかしさがあったのかもしれませんが、これまで愛の映画について語っておりませんでした。家族、恋人、夫婦、そして推し。会社への愛、もあるのかもしれません。今回は愛に関する映画を取り上げます。様々な愛の形を知り、仕事への活力になれば幸いです。

究極の片思い
「すれ違いのダイアリーズ」

舞台はタイのチェンマイにある学校。そこに勤務する先生同士の恋愛なのですが、2人は1度も会ったことも一緒に仕事をしたこともありません。実は2人が勤める学校は、生徒数が10人にも満たない小さなもので、教師は1人しか居ません。そんな環境で、なぜ2人は知り合い、恋に目覚めたのでしょうか・・・?

答えは赴任時期のズレです。はじめに赴任したのは女性教師のエーン。その約1年後に赴任したのは男性教師のソーン。2人が出会うきっかけになったのは、前任のエーンが書いた日記でした。

学校は片田舎にあり、湖の真ん中にある水上学校でした。電気も水道も通っていない。自分と、生徒と、生徒の親くらいしか周りに人が居ない。そんな中、後任のソーンにとってはエーンの日記が明日の生活への道しるべあり、生きる希望でした。次第にソーンはエーンに想いを巡らせます。

言ってしまえば単なる片思い。しかし、本作の巧みな編集によって、2人が同じ時間を同じ場所で過ごしているように見えるのです。不思議と2人の距離が縮まっているように錯覚し、気づけばソーンと同じ気持ちに。果たして、2人は最後に出会えるのでしょうか・・・?

2014年製作 タイ映画 上映時間:110分 配給:ムヴィオラ
監督:ニティワット・タラートーン 出演:スクリット・ウィセートケーオほか

花束の意味とは?
「花束みたいな恋をした」

「東京ラブストーリー」や「カルテット」でもおなじみ。脚本家の坂元裕二が手掛けた恋愛映画です。同じ駅の終電を逃したことからグッと距離が縮まった2人の大学生。好きな映画や音楽や文学が同じで、かなりマニアックなサブカルチャー話でさえ通じ合える。当然2人は惹かれ合い、付き合うことになります。まさしく花束のような恋。順調に愛を育んでいくのですが、様々なトラブルが2人を襲います。

出会いや趣味の共通点は偶然の連続。しかしその後は、誰もが経験したであろうカップルの苦悩と葛藤がたっぷり描かれていきます。ゆとりある学生生活、気が引き締まる就職活動期、そして社会人。人生で大切な期間を共有する2人ですが、いつまでも同じ価値観ではありません。恋愛のほろ苦い思い出も蘇る作品です。

「綺麗なバラにはトゲがある」という言葉があります。キラキラ恋愛映画も良いですが、少し痛みのある映画も時には味わい深い。鑑賞後にはタイトル「花束」の本当の意味が分かるでしょう。

2021年製作 日本映画 上映時間:124分 配給:東京テアトル
監督:土井裕泰 脚本:坂元裕二 出演:菅田将暉、有村架純、ほか

OSに恋する人生
「her 世界でひとつの彼女」

舞台は近未来。人工知能型OS「サマンサ」に恋する男性を描いた映画です。これだけ読むと、かなり奇妙な恋だと思うかもしれません。そもそも、これは恋なのかと。しかし映画を見れば、きっとあなたもサマンサに恋をするはずです。姿形なく、音声のみでサマンサと時間を過ごす主人公。最初はただのAIとの会話に思えますが、細やかなコミュニケーションのやり取りが2人の距離を縮めていきます。

当たり前ですが、この映画では本当のAIが会話しているのではなく、女優が声を当てています。さらに、特定のデバイスに実物化することもなく、OSという形なき形のシステムの状態で恋愛映画を進めているのです。完全に音だけで恋ができる映画も、非常に珍しいです。今後発展していくAI。もしかしたらAIと結婚できる可能性もあるのかも・・・。

2013年製作 アメリカ映画 上映時間:126分
配給:アスミック・エース 監督:スパイク・ジョーンズ
出演:ホアキン・フェニックス、スカーレット・ヨハンソンほか

愛とは一体何なのか?
「愛がなんだ」

恋愛映画の名手である今泉力哉監督の出世作。分類すれば間違いなく愛の映画だし、主人公の女性は存分に愛を振りまく。しかし、鑑賞後はタイトルの通り「愛がなんだ」と思うはずです。

彼女が愛する男は、付き合っている訳でも結婚している訳でもない。それでも男のためにお弁当を作り、お金を工面し、身も心も捧げる。一方の男は、彼女に対して一切の恋愛感情を持ちません。どう頑張っても成立しない愛。周りからどれだけ否定されても、彼女は男に尽くし続けます。何が彼女を突き動かしているのでしょうか。いったい、愛とは何なのでしょうか。

きっと彼女はこう答えるでしょう。「愛がなんだ!」と。
この映画ほど極端ではないにしても、誰もが報われない恋に奔走した経験があると思います。絶対に付き合えないと分かっている。それでも好きな相手に何かをしてあげたい。アイドルやタレントの場合もあるでしょう。そう考えると、この映画は普遍的な愛の原理について語っているようにも見えます。

2019年製作 日本映画 上映時間:123分 配給:エレファントハウス
監督:今泉力哉 出演:岸井ゆきの、成田凌ほか

映画愛が小さな世界を変えていく
「桐島、部活やめるってよ」

映画ファンの間では、青春映画の金字塔と呼ばれています。浅井リョウの同名小説が原作で、2013年日本アカデミー賞にて最優秀作品賞に選ばれました。

高校が舞台で、学業もスポーツも優秀で学年のスター的存在だった「桐島」が、バレー部を辞めるというニュースが学内に流れます。学校からも行方をくらまし、誰も連絡が取れない状況に。これまで桐島によってバランスを保ってきたスクールカーストにひずみが生じ、人間関係の歯車が徐々に狂っていきます。

今作の最たる特徴が、重要人物である「桐島」が一度も画面に登場しないまま終わること。桐島に会えない喪失感で友人や恋人が狼狽える中、全く動じずに日々を過ごしていたのは、映画部の部長であり映画に「愛」を捧げている主人公(神木隆之介)でした。映画への愛が学校に響き渡った時、一体何が起きるのでしょうか・・・?

「桐島、部活やめるってよ」 配給:ショウゲート
©2012「桐島」映画部 © 朝井リョウ/集英社
2012年製作 日本映画 上映時間:103分 配給:ショウゲート
監督:吉田大八 出演:神木隆之介、橋本愛ほか



(Up&Coming '25 春の号掲載)

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