土木にドラマを! 人間を!
きっと土木が好きになる「インフラ映画」特集

日々の業務と切っても切り離せない、「土木」。営業・開発とも土木の知識が必要不可欠であり、皆さん既に熟知されていると思いますが、ここであえて質問させてください。


 「あなたは、土木が好きですか?」


仕事で土木を知らなければならないのであれば、せっかくなら土木を楽しみ、親しみ、興味を持つことも大事かと思います。特に新人・若手の方は、土木特有の専門用語に悩まされているのではありませんか?今回は土木を好きになってもらうために最適な劇映画を、「インフラ映画」としてご紹介したいと思います。これをきっかけに、土木が少しでも好きになれたら幸いです。


 世界のクロサワが描く傑作人間ドラマ!
 命のバトンが1つの公園へ繋がれる-

「生きる」(1952)

黒澤明と聞いたら思い浮かぶのは時代劇、という方も多いのではないでしょうか?しかし、黒澤監督の真骨頂はむしろ現代劇にある、と私は考えています。今作は黒澤作品の中でもヒューマニズムが最高到達点に達した作品と評価されています。


主人公は志村喬が演じる市役所の市民課長。市民から公園設立の陳情を受けるも、事なかれ主義の志村は見ぬふり。そんな志村でしたが、突然胃癌を宣告されます。死への不安が募り、皆勤賞の役所勤めから一変、夜の街へ。しかし真面目な志村には不向きな行為。人生の意味を失った志村でしたが、部下の女性の生命力に惹かれ、彼女が作った玩具を見て、一念発起し公園を設立。直接的な建設描写はありませんが、一つの公園を必死に作る志村に胸が熱くなります。


自分が建てた公園のブランコで一人、「命短し、恋せよ乙女」と歌うシーンが全てを物語っています。そして志村の死後、公園は子供たちの笑い声で溢れる。これぞ究極のヒューマニズム映画だっ!

「生きる」

公開年:1952年
配給:東宝
上映時間:143分
監督:黒澤明(「七人の侍」,「羅生門」)
出演:志村喬、金子信雄、田中春男、千秋実


 世界に誇る世紀の大事業を
 実話・実名で描いた昭和の傑作!

「黒部の太陽」(1968)

おそらく日本で一番有名な土木映画でしょう。戦後間もない1956年に着工、7年間にも及ぶ大工事で完成した黒部ダムの工事を描いた映画です。石原裕次郎、三船敏郎という超豪華キャストはもちろんですが、それに負けじ劣らず豪華なのは、映画に協力した企業。なんと、実際に工事に携わった電力会社、及び建設会社等の名前がオープニングクレジットで流れ、思わず「いつも大変お世話になっております!」と声に出しそうになります。


凄まじいのは、トンネル建設時に破砕帯に衝突してしまい、洪水に襲われるシーン。当時はCGも何もないため、本当に破砕帯を掘ったんです! 土圧と水圧に襲われ、降伏点をゆうに超え破断する鉄筋。ダイナマイト用の穴場から噴き出す洪水。三船敏郎の「でかいぞ!」の掛け声と共に全力疾走で逃げる役者、そして裏方のスタッフ・・・。洪水時はちょうどカメラを回していたため、あくまで偶然撮れた産物なのです。また、そのとき三船敏郎が洪水におじけづき、セリフが言えなかったら、俳優もスタッフも全員死んでいた、と監督が話しています。もはやドキュメンタリーな奇跡の映画です!黒部ダムに行きたくなること間違いなしっ!

「黒部の太陽」

公開年:1968年
配給:日活
上映時間:196分
監督:熊井啓(「忍ぶ河」,「日本列島」)
出演:三船敏郎、石原裕次郎、志村喬、加藤武、
   寺尾聡、大滝秀治


 今じゃ絶対無理!新幹線映画の傑作!
 高倉健と千葉真一による演技合戦も◎

「新幹線大爆破」(1975)

なんとも危険な香りのするタイトルですが、安心してください!ネタバレになるかもしれませんが最初に言っておきたい!新幹線は安全に走り続けます! …と、丁寧なフォローが必要ですが、海外からの評価が非常に高く、昭和の大傑作のひとつ。爆弾を仕掛けられてもたゆまぬ努力で安全に運行しようとする国鉄職員の努力に光るものを感じました。


東京発博多行きの新幹線に爆弾を仕掛けたのは、あの高倉健。時速80㎞を下回ると爆発すると宣言し、金銭を要求。一人の犠牲者も出さずに新幹線を安全に運行しようと奮闘する運転士を演じるのは、俳優史上最強の肉体を持つ千葉真一(新田真剣佑の父)。昭和の名優たちの演技合戦も見どころです!

「新幹線大爆破」

公開年:1975年
配給:東映
上映時間:152分
監督:佐藤純彌(「野生の証明」)
出演:高倉健、千葉真一、宇津井健、丹波哲郎、
   竜雷太、北大路欣也


 「橋の下」の力持ちがこの世に生きる意味を問う

「恋人たち」(2015)

この中で唯一、平成の作品。公開当時は無名でしたが、キネマ旬報で日本映画1位を獲得し、再上映ーいわゆる凱旋上映が決定したのです!(凱旋上映については前号のはちみつを参照)


主人公は都内で橋梁点検の仕事に就き、打音探査や触診により、日夜インフラを守る。しかし諸事情で休職を余儀なくされた過去があり、保険料が払えず自身の身体は点検してもらえない。橋梁点検という物理インフラの命を救う一方で、保険という社会インフラに苦しめられるインフラ・パラドックスを通して、社会で生きていくことの大変さと素晴らしさを捉えています。今作のキャッチコピーは「それでも人は、生きていく」。現代を生きる我々にとって、最高の人間賛歌映画です。

「恋人たち」

公開年:2015年
配給:アークフィルムズ
上映時間:140分
監督:橋口亮輔
   (「 ぐるりのこと。」,「 ハッシュ!」)
出演:篠原敦、安藤玉恵、リリー・フランキー


 原発事故を政府・電力会社の
 視点から描いた稀有な大作

「Fukushima 50」(2020)

3.11以降、これまで多くの東日本大震災・原発事故関連の映画が作られてきました。しかし、そのほとんどは単館系の映画館で流れるようなインディーズ映画ばかりで、今作のようにメジャー資本・メジャー俳優で製作された映画は見たことがありません。また、政府や電力会社の立場から原発事故を描くことも珍しく、製作されたこと自体が奇跡のような作品です。


福島第一原発所長を渡辺謙、同原発1・2号機当直長を佐藤浩市、内閣総理大臣役を佐野史郎が演じ、VFX(視覚効果)はあの「シンゴジラ」を担当したスタジオ白組によって事故の様子を妥協なく再現。当時はニュース・新聞等でしか知りえなかった原発事故対応の内実を余すところなく描き、新たな3.11の真実が見える映画です。

「Fukushima 50」2020年3月公開
© 2020 『Fukushima 50』 製作委員会

「Fukushima 50」

公開年:2020年
配給:KADOKAWA
上映時間:122分
監督:若松節朗
   (「空母いぶき」,「ホワイトアウト」)
出演:佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、緒形直人、
   火野正平、平田満、萩原聖人、吉岡里帆、
   斎藤工、富田靖子、佐野史郎、安田成美


「Fukushima 50」2020年3月公開
© 2020 『Fukushima 50』 製作委員会

※2019年の記事を元に作成しています

(Up&Coming '20 盛夏号掲載)