本連載は、「システム開発」をテーマとしたコーナーです。フォーラムエイトのシステム開発の実績にもとづいて、毎回さまざまなトピックを紹介していきます。第26回は、ブラウザ上で作図を行うことができ、クラウド上でのデータの一括管理が可能なCADアプリについて紹介。ニーズに沿ったWebアプリの構築が可能です。

執筆 組込システム開発チーム

VRシステムをはじめとした関連分野における展開を推進。組込システム開発、マイコンソフトウェアの受託開発、コンサルティングを中心とした事業を展開。

物理特性を考慮した除雪シミュレーション

はじめに

建設ICTや建設DXなど、デジタル技術を活用した建設技術の向上が求められています。さらに、実環境の代替としてVRによるシミュレーションが有効であると考えられ、教育訓練コンテンツといった技術者育成、自動化・遠隔化施工といった実業務においても強力なツールとなります。

シミュレーションにおいては、実際の物理現象により即した運動モデルが必要であり、多くの物理特性を考慮することがシミュレーションの質を決定づけます。

今回は弊社開発の3DVRソフトウェア「UC-win/Road」を用いて、物理特性を考慮した除雪シミュレーション事例について説明します。

考慮する物理特性

除雪シミュレーションを行う際に考慮すべき事項について考えてみましょう。まず、積雪の対象となる地形の標高を考慮する必要があります。また、雪の物質特性として、主に除雪時の計算に関するものを用います。さらに、除雪により積雪が細片化され粒子(パーティクル)になる際の物理特性、車両のサイズや重量に関するデータが挙げられます。

以上をまとめると、表1のようになります。これらのパラメータを外部の物理エンジン(以下、物理エンジン)に渡し、その計算結果をUC-win/Roadに反映する形でシミュレーションを行います。

分類

パラメータ

説明

地形 シミュレーション範囲の標高値 道路の開始地点からの距離を指定し、道路エリア内の標高値を指定します。
物質特性 膨張角 膨張角度を指定します。
除雪が始まった際の貫通抵抗の計算に用いられます。
摩擦角 内部摩擦角を指定します。物理エンジンで使われる雪崩アルゴリズムの安息角に影響し、摩擦角が低いと除雪しやすくなります。
ヤング率 物質のヤング率を指定します。
パーティクル 膨張因数 除雪された雪がパーティクルに変換される際の体積の増加量を指定します。
密度 地形の密度を指定します。指定された掘削範囲に生成されたパーティクルの総質量に影響します。(地形の掘削後にパーティクルが生成されるため)
車両 サイズ 地形が圧縮される際の最大密度を指定します。
結束力 地形を構成するパーティクルの内部凝集力です。値が大きいほど掘削の際に発生するパーティクルのサイズが大きくなり、パーティクルの総数が減ります。
重量 車両の部位ごとのサイズ、重量を指定します。(図1)
除雪範囲 除雪を行う範囲を指定します。
重量 車両の重量を指定します。
表1 考慮する物理特性一覧

図1 車両サイズのパラメータ設定(車両の図面はイメージです)

シミュレーション結果

それでは実際のシミュレーション結果を見てみましょう。

まず重機が停止した状態で除雪を行います(図2)。単純にブレードの回転によって除雪を行っている様子になります。ブレードが直接当たった部分は除雪により路面が露出していますが、赤枠内ではブレードによって雪が削られた跡が確認できます。

図2 UC-win/Road上での描画(ブレード回転による除雪)

次に、実際に走行して除雪を行います(図3)。ブレードが傾いている方の路面脇に対して、除雪による雪の堆積が確認できます。除雪後の路面を近くで見てみましょう(図4)。除雪したにも関わらず、一部では雪が残っている部分があります。除雪時にブレードから雪がこぼれたり、路面脇に寄せた雪が崩れたりする影響によるものです。こうした現象は実際の除雪時にも発生しており、より現実の物理現象に近づいたシミュレーションが行えたことになります。

プログラムの内部的には路面内に微細なポリゴンメッシュを発生させており、積雪を考慮した高さ情報が格納されています。ブレードと雪面が接触し、雪が除去される(高さが減少する)、除去した雪が路面脇に堆積する(高さが増加する)ことで除雪表現を行っています。

また図4の通り、パーティクルの動きを計算し、最終的にどの位置に着地するかを各パーティクルで算出することにより、除雪後の路面をリアルに表現できています。

図3 除雪により路面脇に雪が堆積 図4 パーティクルにより雪が堆積

他分野への応用

今回は除雪シミュレーションをご紹介しましたが、他にも様々な分野に応用できます。例えば、土の掘削・運搬・整地等の作業で活用できると考えられます。

掘削シミュレーション

バックホウ等の重機をモデル化し、地面を掘削するシミュレーション。掘削した土の量を考慮してどの程度地面が掘削できたか、土を別の場所に移した時にどの程度堆積するかを可視化。図 4のように、掘削時にショベルから土がこぼれた時の土の堆積も可視化できる。

運搬シミュレーション

ホイールローダー等の重機をモデル化し、掘削した土をすくって運搬するシミュレーション。土をすくう時、走行中に土がどの程度こぼれるかを計算し可視化できる。

整地シミュレーション

グレーダー等の重機をモデル化し、荒れ地や砂利道をならして整地するシミュレーション。砂利の物質特性や標高データを使い凸凹な地形を再現することで、より実際に即したシミュレーションが可能。

おわりに

今回は弊社開発の3DVRソフトウェア「UC-win/Road」を用いて、物理特性を考慮した除雪シミュレーション事例について説明しました。簡易的なシミュレーションであれば、ブレードが当たった箇所は全体的に綺麗に除雪される結果になります。しかし、ブレードの傾きやパーティクルの影響も考慮して除雪状況を可視化できた点が本開発の特色であり、実際の物理現象に応じた精緻なシミュレーションを行うことができました。

除雪以外にも、重機による掘削・運搬・整地シミュレーションにも応用可能です。今後の開発に、ぜひご期待ください。

(Up&Coming '24 盛夏号掲載)



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