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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーの体験レポート。 新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。 製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望の内容など、全12回にわたってお届けする予定です。
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●はじめに 皆さん、はじめまして。建設ITジャーナリストの家入龍太です。今号から「イエイリ・ラボ・体験レポート」のコーナーを担当することになりました。このコーナーでは、私自身がフォーラムエイトの製品体験セミナーに参加し、その体験を交えながら製品の概要や特長、活用方法、そして今後の展望などをレポートしていきたいと思います。 1回目に取り上げるのは、避難解析シミュレーションソフト「building EXODUS」です。火災や地震などの非常時に、ビルやトンネルなどの中にいる大勢の人々がとる避難行動をシミュレーションするソフトで、安全性の高い建物やインフラ施設を設計するのに役立ちます。 知識や判断といった人間ならではの要素を考慮して解析やシミュレーションを行うソフトは、数多くあるフォーラムエイトの製品でも、異色と言えるでしょう。
●製品概要・特長 「building EXODUS」は、非常時に大勢の人々がどのような経路を通って避難するのかを解析、シミュレーションするソフトです。避難する人々が通った経路や、所要時間などの解析結果を、数値データとともに、実際のニュース映像のようなアニメーションで見ることができます。また、非常時だけでなく、平常時の駅や商業施設などの人の動線も解析できます。 このソフトは英国グリニッジ大学の火災安全工学グループ(FSEG)で開発されました。 例えば、ビルの中で火災が起こったとき、各フロアにいる人々は各自で周囲の状況を判断しながら、時々刻々と避難する方向や経路を決めていきます。ある人の行動は、ほかの人の行動にも影響を与えます。階段やエレベーターを目指して逃げる人もいれば、日ごろ使わない建物外部の非常階段から逃げる人もいます。なかには、途中で煙や有毒ガスを吸って、倒れてしまう人もいます。 building EXODUSでは、こうした避難を支配する要因を4つに分類して扱っています。経路発見などの「行動(Behavior)」、出口の数や移動距離などの「配置(Configuration)」、煙やがれきなどの「環境(Environment)」、訓練や知識に関する「手順(Procedures)」です。 応力解析や流体解析のような物理現象を解くのとは違い、避難中の人々がとる複雑な行動を一人ひとりについて解析し、人と人、人と構造物、人と火災などの相互作用を考慮しながら、解析、シミュレーションを行う画期的なソフトと言えるでしょう。 また、building EXODUSのシリーズとして、船舶など海上施設からの避難を解析する「maritime EXODUS」や、航空機内からの避難を解析する「air EXODUS」もあります。フォーラムエイトではこれらのソフトの機能や操作性に着目し、2006年、日本と中国での独占販売権を得ました。
●体験内容 3月19日の午後、フォーラムエイト東京本社で開催された「EXODUS・SMARTFIRE体験セミナー」に参加してきました。SMARTFIREは、建物などの火災をシミュレーションするソフトで、建物内部の火元から炎や煙が時々刻々と広がる様子を解析することができます。この結果をbuilding EXODUSに連動させることにより、炎や煙などの動きに反応しながら避難する人の動きをシミュレーションできます。 会場では十数人の受講者が一人ずつパソコンの前に座って講習を受けました。講師を務めるフォーラムエイトの中村博一さんはまず、両ソフトのしくみや機能、実際に使われたプロジェクトなどを分かりやすく説明しました。
●事例・活用例 building EXODUSは、多くの人が集まる様々な施設で、安全性の高い設計を行うために使われています。例えば、交通施設ではデュッセルドルフ空港の再開発プロジェクトや、サンフランシスコやニューヨークの地下鉄駅の設計で使われました。また、スポーツ施設ではロンドン・ミレニアムドームやシドニー・オリンピックスタジアムの設計で使われています。 日本ではbuilding EXODUSとSMARTFIREを組み合わせて、実習の題材としても使ったカラオケボックスの火災事故や、1979年に起こった東名高速道路の日本坂トンネル火災事故を再現するのに使われました。また、2009年には48時間で課題の建物を設計するインターネット上の仮想コンペ「Build Live Tokyo 2009 II」や、「Build London Live 2009」でも使われ、短時間での解析が可能なことを実証しました。 ●イエイリコメントと提案 建築業界では、建物の設計に従来の紙図面に代わって、3次元モデルを使う「ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)」という設計手法がここ、1〜2年の間に急速に普及しました。2011年度は、国土交通省官庁営繕部もBIMを導入することが発表されました。 BIMの導入が増えている理由は、設計内容を3次元CGで可視化できる分かりやすさと、施工段階などで発生する手戻りなどの問題点を、設計段階で事前に解決する「フロントローディング(設計業務の前倒し)」効果にあります。 building EXODUSは、建物が完成した後の安全性や人の動線を、着工前にフロントローディングで検証するためのツールといえます。シミュレーションによる解析結果を数値とともに、リアルなアニメーションで誰にでも分かりやすく表現できるので、施主にも納得してもらいやすくなります。 建築業界で普及しつつあるBIMと、building EXODUSが目指す方向性は同じところにあるのです。 ●製品の今後の展望 2009年、フォーラムエイトでは、BIM対応の3次元CADソフトとして「Allplan」を発売しました。building EXODUSは、DXF形式を通じてAllplanや他社のBIM用CADソフトとデータ交換できるようになっています。将来、BIM用のデータ交換フォーマット「IFC」に対応すると、さらに設計者にとって身近なツールになるでしょう。建築設計者が設計中の建物のモデルデータを、そのままbuilding EXODUSの入力データとして生かせるので、避難シミュレーションを短時間に行い、その結果を設計に反映しやすくなるからです。 さらに、building EXODUSがBIM用CADのプラグインソフトとして使えるようになると、マウス操作一つで避難シミュレーションを行えるようになり、ますます建築設計者にとって身近なツールになるでしょう。もちろん、その後に専門家による精密な解析を行う必要はありますが、基本設計の段階から避難のしやすさを考えることで、建物の安全性は大幅に高まります。
●仮想設計コンペでの活用に国内外から注目 体験セミナーを受講した後、3月24日に東京・三田の建築会館ホールで開催されたシンポジウム、「BIMで設計は変わるのか? 〜インターネットを活用した設計コンペからみえたこと〜」に参加しました。昨年9月に行われた「Build Live Tokyo 2009 II」に参加したチームが一堂に集まり、各チームで行ったことを報告するものでした。 フォーラムエイトはこのコンペに「チームF8W16」として参加し、48時間という短時間に、様々な解析も行いました。また、昨年12月に開催された国際コンペ「Build London Live 2009」でも、フォーラムエイトは日本のBIM界をリードするプロが集まる「チーム BIM Japan」のメンバーとして参加し、見事、最優秀賞を受賞しました。building EXODUSなどによる時間軸を考慮した「4次元解析」が、審査員から高い評価を得たのです。 シンポジウムのパネルディスカッションで壇上に立ったフォーラムエイトの今泉潤さんは、これらのコンペにおけるフォーラムエイトでの作業内容を報告しました。大ホールを埋めた来場者に、避難シミュレーションはBIMの有力なソリューションであることを印象づけました。
●次回は、「UC-1 擁壁の設計」セミナーをレポート予定です。 |
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(Up&Coming '10 新緑の号掲載) |
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