連載【第23回】
皮膚とこころ
profile
関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了・医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬三敬塾クリニック院長を経て、現在ピュシス統合医療クリニック院長。公益財団法人 未来工学研究所研究参与、東京大学大学院新領域創成科学研究科共同客員研究員、統合医療 アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・業務執行理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『花粉症にはホメオパシーがいい』『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著。『1分で眠れる4-7-8呼吸』監修など多数。
今回は身体において最も大きな器官である皮膚について考えてみます。
皮膚の役割と構造
皮膚の面積は成人平均で1.6m2、脳や肝臓が約1.4kgであるのに比べ、皮膚のみの重さは3kg弱(皮下組織含めると約9kgで体重の約14%)もあります。皮膚の重要な働きは身体の最外層に位置し生体内部環境を一定に保つことです。生体の恒常性(ホメオスタシス)の維持の役割として水分の喪失や透過を防ぐ、体温を調節しています。そして、体外の変化を感知する感覚器で、環境の変化に順応し紫外線などの物理的刺激や細菌やウイルスなどの病原体から身体を守っています。図1に皮膚の構造を示しています。皮膚の構造は「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層からなり、表皮を構成する細胞の95%は角化細胞と呼ばれ、表皮の最下層で分裂し、成熟に伴い上方へと移行していきます。最後に表皮表面で、脱核して死んだ角化細胞(角質細胞ともいいます)は“垢”として剥がれ落ちます。これをターンオーバーと呼びます。正常皮膚のターンオーバーは角質層の厚さで変わってきますが、平均で約28日だといわれています。角質層は角質細胞“レンガ”のように積み重ね身体をラップフィルムのように被っています。私たちの身体は約70%が水分です。この角質層が身体からの水分の喪失を防ぎ、また外界からの侵入物に対する防御を担っています。真皮は表皮の下部に位置し、血管、リンパ管、神経と多彩です。 “しわ”“はり”に関係している膠原線維、弾性繊維、基質があります。皮膚は感覚器としても働いています。痛覚、触覚・圧覚、温度感覚、振動感覚のセンサーでもあるのです。さらに皮膚はその発生において脳・脊髄の中枢神経系と表皮は同じ外胚葉由来です(図2)。このことから皮膚は“第3の脳”露出した脳と呼ばれています。
皮膚とこころの関係
皮膚は身体と外部との境界に位置することから、皮膚は自己と非自己の境界といえます。精神科医のフロイトは「自我(エゴ)は究極的には身体的な感覚、主として身体の表面に由来する感覚から生まれてる」と言っています。身体の表面、つまり皮膚が自我と関係しているのです。また「皮膚はこころの鏡」と呼ばれています。私たちは恥ずかしいときには「赤面」し、恐ろしいときには「顔面蒼白」「鳥肌が立つ」「身の毛もよだつ」など皮膚の変化で表現します。 時にずうずうしい人のことを「面の皮が厚い」などと言ったりします。 肌で感じる、肌が合うなど皮膚を介したコミュニケーションは私たちの発達においてとても重要です。とくに、アタッチメント(愛着)といわれる、特定の対象への接近・接触を求める行動のことで、本能的反応要素が母親との相互作用を通して統合されて発現するによって、子供は社会的、精神的に正常に発達していきます。この発達が皮膚を介しているのです。
皮膚の病気とこころ
こころと身体は一つであるという考え方は、心身一如として古くから知られていますが、医学的には心身相関という考え方です。心身相関は心身症という病気の状態において重要です(図3)。心理的なストレスで湿疹やにきびが悪化したり、蕁麻疹や円形脱毛症が出現するのは知られています。心理的なストレスから皮膚が病気になるだけでなく、こころとつながりがある皮膚が病気になることで、こころも影響を受けます。皮膚の病気は眼に見える病気であることから、絶えず自分で症状がわかり、他の人の目につくことで不安になります。またアトピー性皮膚炎など原因が解らない皮膚の病気も多く、治らないのではないかという不安も少なくありません。治療はステロイドが中心で、長期間ステロイドを使うことへの不安があります。最近では生物学的製剤が使用されるようになりましたが、まだまだ治療は難しい状況です。そして皮膚の病気の多くが不快な感覚である痒みを伴い、この痒みは自分の意志でコントロールできません。このように皮膚の病気になったことがより心理的ストレスとなり、こころに影響してくるのです。皮膚とこころのつながりを考え、皮膚の治療だけでなく、こころのケア、あるいは心身一如であるこころと身体全体をみる全人的な医療が必要だといえます。
皮膚はこころとつながっています。皮膚を考え、皮膚を思い、皮膚を愛しみ、皮膚を大切にすることは自己を大切にし、他者とのつながり、自然とのつながりを大切にすることにつながると思います。
(Up&Coming '23 秋の号掲載)