連載 【第17回】
不眠について

profile
関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了、医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬塾
クリニック院長を経て現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会上級登録医・評議員、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。日本人初の英国Faculty of Homeopathy専門医(MFHom)。2014年度アリゾナ大学統合医療プログラムAssociate Fellow修了。『国際ホメオパシー医学事典』『女性のためのホメオパシー』訳。『妊娠力 心と体の8つの習慣』監訳。『がんという病と生きる 森田療法による不安からの回復』共著など多数。


不眠

今回は不眠について考えてみます。人生の約3分の1は睡眠です。シェークスピアはマクベスの一節で「睡眠こそ、この世の饗宴における最高の滋養である」と述べています。最近では、最高の癒しでもある睡眠で、眠れないと訴える人が増えています。生活が夜型であったり、ネット依存から昼夜逆転している人もいます。日本の一般成人における不眠の頻度は約 20%で、年齢とともに増加していきます。現代は誰でも不眠になりうる時代といえます。

不眠の症状には3つのタイプがあります。なかなか寝付けない入眠困難、何度も目が覚める中途覚醒、朝早く目が覚める早朝覚醒です。ただ入眠困難を訴える人の中には、中々眠くならず一旦眠ると正午前後まで寝ています。不眠には睡眠習慣や生活習慣がかかわり、身体疾患に伴う不眠や飲んでいる薬が影響している場合があります。これらの影響を考え、その影響などを改善してもなお不眠の症状が続くときには睡眠障害といえます。国際分類第3版(ICSD‒3;2014年)では睡眠障害を ①不眠症 (慢性、短期間不眠、他) ②睡眠呼吸障害(睡眠無呼吸症:SAS)③過眠症(ナルコレプシ―Type 1、2)④概日リズム睡眠障害 ⑤睡眠時運動障害(むずむず脚症候群)⑥睡眠時随伴障害(レム睡眠行動障害)⑦他の睡眠障害に分類しています。


不眠症

不眠症は「眠る機会や環境が適切であるにもかかわらず、睡眠の開始と持続、安定性、あるいは質に持続的な障害が認められ、その結果何らかの日中の障害をきたす場合」と定義されます。入眠困難や中途覚醒などの不眠の症状では不眠症とは診断されません。重要なのは不眠の症状によって日中の機能障害が生じていることです。不眠症の診断基準を図1に示しています。

国際分類第3版(ICSD-3)における不眠症(不眠障害)の診断基準
  1. 以下の症状の1つ以上を患者が訴えるか、親や介護者が観察する
  1. 入眠困難
  2. 睡眠維持困難
  3. 早朝覚醒
  4. 適切な時間に就床することを拒む(ぐずる)
  5. 親や介護者がいないと眠れない
  1. 夜間の睡眠困難に関連した以下の症状の1つ以上を患者が訴えるか、親や介護者が観察する
  1. 疲労または倦怠感
  2. 注意力、集中力、記憶力の低下
  3. 社会生活上、家庭生活上、職業生活上の機能障害、または学業成績の低下
  4. 気分がすぐれない、いらいら
  5. 日中の眠気
  6. 行動の問題(例:過活動、衝動性、攻撃性)
  7. やる気、気力、自発性の低下
  8. 過失や事故を起こしやすい
  9. 眠ることについて心配し、不満を抱いている
  1. 眠る機会(睡眠に割り当てられた十分な時間)や環境(安全性、照度、静寂性、快適性)が適切であるにもかかわらず、上述の睡眠・覚醒に関する症状を訴える
  1. 睡眠障害とそれに関連した日中の症状は、少なくとも週に3回は生じる
  1. 睡眠障害とそれに関連した日中の症状は、少なくとも3ヶ月間認められる
  1. 睡眠・覚醒困難は、その他の睡眠障害ではよく説明できない
図1

不眠症でみられる日中の機能障害には、倦怠感、集中力・注意・記憶の障害、抑うつ気分や焦燥感、意欲低下などうつ病の症状と重なります。また日中の眠気、仕事中や運転中のミスや事故の危険、睡眠不足による頭痛や消化器症状がみられます。また不眠症で受診される人の多くが「眠なければならないと考えれば考えるほど眠れない」という不眠への不安を訴えています。不安なことが頭から離れずに眠れない人もいます。不眠と不安がセットになって悪循環に陥っていきます。


不眠対策

不眠の対策としてはまず、生活習慣や睡眠習慣の改善です。厚生労働省では睡眠についてのわかりやすい情報を提供することを目的に2003年に作成し、その改訂版として2014年に「健康づくりのための睡眠指針 2014 ~睡眠12箇条~」(図2)を提案しています。

健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠12箇条~
第1条 良い睡眠でからだもこころも健康に
第2条 良い睡眠でからだも適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリをこころも健康に
第3条 良い睡眠は、生活習慣病予防につながります
第4条 睡眠による休養感は、こころの健康に重要です
第5条 年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を
第6条 良い睡眠のためには、環境づくりも重要です
第7条 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ
第8条 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を
第9条 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠
第10条 眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない
第11条 いつもと違う睡眠には、要注意
第12条 眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を
図2

日々の生活の中で、就寝と起床の時間を規則正しくする。寝床は暗いところで点滅する光がないようにする。概日リズムを考え、起床時明るい光にあたる。カフェインやアルコールを摂りすぎないようにする。夕食は抜かない、就寝時間1時間以上前にすませる。遅い時間に運動をしない。刺激の強すぎる行動をしない。入浴は90分前、すぐ寝るときはシャワーでもよい。などが参考になります。また寝床に入ったときに「4・7・8呼吸」やマインドフルな呼吸瞑想が役に立ちます。浮かんでくる考えや不安から身体のほうに意識を向けていくときに呼吸が最も簡単であり、交感神経優位の緊張状態から、副交感神経優位である眠りへとつながります。不眠症になる前にできることからはじめてください。



前ページ
  
インデックス
(Up&Coming '22 春の号掲載)
戻る
Up&Coming

LOADING