連載 Vol.2

吉川 弘道東京都市大学 名誉教授

早稲田大学理工学部卒業、工学博士、コロラド大学客員教授(1992-3年)。専門は耐震工学、地震リスク、鉄筋コンクリート。土木学会論文賞、土木学会吉田賞他受賞。著書に『都市の地震防災』(フォーラムエイトパブリッシング)他多数。現在、インフラツーリズム推進会議議長を務めるほか、「魅せる土木」を提唱。‘土木ウォッチング’、‘Discover Doboku’を主宰。土木広報大賞2019(土木学会)準優秀部門賞(イベント部門)受賞。

Episode3

巨大ダムのカリスマ 黒部ダムの生誕を探る
― 自然との戦いを克服したアーチダムは
インフラツーリズムの先達でもある ―

■施設データ:黒部川第四発電所 黒部ダム
・河川:黒部川水系黒部川(富山県立山町)
・形式:アーチ式ドーム越流型ダム
・着工/完成:昭和31年/昭和38年
・諸元:堤高186m、堤頂長492m、
    堤体積158万m3

関西電力が社運をかけて挑んだ黒部川第四発電所建設プロジェクト(世紀の大工事”くろよん”)は、1956年(昭和31年)に着工し、厳しい自然環境のもと7年の歳月を掛け完成に至った。中核施設となる黒部ダムは、我が国最大のアーチ式コンクリートダム(アーチ式ドーム越流型ダム)として、その規模と威容を誇る。


先ずは、竣工直後の華麗なフォルムを見て貰いたい[Photo1]。アーチダムを直上から俯瞰したもので、その曲面シェル構造は、堅牢で優美な構造美を魅せている。上流側(水圧側)に迫出していることは、アーチ構造の大原則であることも付記したい。

このような大規模コンクリートダムは、どのように建設されたのであろうか。これは、粛々と進む柱状ブロック工法による工事写真で理解できる[Photo2] 。ブロック工法とは、大容量のダムコンクリートをブロックに分割して打設する伝統工法(現在では、レヤ工法、RCD工法、CSG工法などが開発されている)。


1 竣工直後の直上空撮

2 柱状ブロック工法による建設中の黒部ダム
【資料提供】世界銀行 The world Bank 日本が世界銀行からの貸出を受けた31のプロジェクト
http://worldbank.or.jp/31project/


人跡未踏の秘境黒部に建設された巨大ダムは、60年に渡り粛々と水力発電を継続しているが、一方では、その威容と構造美に魅了された観光客が引きも切らない。扇沢駅と黒部ダムを往来する関電トンネルトロリーバスは54年間供用され、新しく電気バスに引き継がれた。


巨大ダムのカリスマ黒部ダムは、インフラツーリズム(土木観光学)の先達でもあり、発電という現役選手を貫いたまま土木のレガシーを体現している。 

3 観光客で賑わうダムサイト。ダイナミックな人工瀑布が生み出す虹は、インスタ映えのお手伝いをする。

【補記】黒部川第四発電所は、黒部ダムの竣工を待たずに発電したと言われている。
公式サイトによれば、1963年黒部ダム完成、1961年1月営業運転開始と記されている。

Episode4

都市トンネル構築技術の王者 シールド工法
― 飽くなき合理化の追求:
重複円形断面・非円形断面 ―

シールド工法とは、シールドマシンと呼ばれる鋼製外筒を持つ掘削機を用い、地山の崩壊を防ぎながら掘削/推進/覆工する工法。昭和/平成期には全国の都市部にて、地下鉄・電力・下水道・共同溝などに適用され、密閉型シールド工法は都市トンネルの代名詞ともなっている。シールドトンネルと言えば円形断面が基本であるが、近年、多種多様の頼もしい異端児が生まれている。

[Photo1]は二連円形断面泥土圧シールド工法で、カッターフェイス(シールドマシンの最前面)の仕組みに秘密がある。[Photo2]は、これを実際の建設現場にて適用し、重複円形断面(2つの円が一部重なっている)の地下鉄上下線を構築している。


1 二連円形断面泥土圧シールド工法のシールドマシン

2 二連円形断面トンネルの完成


次の[Photo3]は偏心多軸シールド工法で、ほぼほぼ四角形の断面[Photo4]を構築することができる。さらには、カッタフレームの形状を変えることで、円形、矩形、楕円形、馬蹄形等も可能で、非円形断面を構築する究極のカッターフェイスである。


3 偏心多軸シールド工法のシールドマシン

4 完成したトンネルの断面(ほぼ四角形です)


さて、変断面形状(非円形断面)にはどんなメリットがあるのか?これは、地下の多種多様な制約条件に広く対応することにより、地下空間のより高度な有効利用が可能となる。平たく言えば、無駄な断面スペースを省くことにより建設コストを削減するものである。


ロンドンのテムズトンネル(19世紀後半に完成)が起源とされるシールドトンネルは我が国にも伝わり、平成期に入り、大断面・高速施工・大深度化・合理化施工など世界の最先端技術をリードしてきた。AI技術(人工知能)も導入されていると聞く。改めて、エンジニアの飽くなきチャレンジ魂に敬意を表したい。


【資料提供】大豊建設 https://www.daiho.co.jp/tech/


吉川 弘道 氏 関連サイト

Discover Doboku 日本の土木再発見 https://www.facebook.com/DiscoverDoboku

土木ウォッチング -インフラ大図鑑- https://www.doboku-watching.com/

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(Up&Coming '20 盛夏号掲載)