World16による第15回VRサマーワークショップの報告を行います。
今回は米国マサチューセッツ州ボストン市(厳密にはケンブリッジ市)にある、マサチューセッツ工科大学(MIT)のIndustrial Liaison Program(ILP:産業学際会)のホストで開催しました。7年前の2017年にも同じ場所での開催をしております。
MIT―ILPはMITの提供する産学連携プログラムであり、会員企業とMITがともに情報提供や連携活動ができるようなサービスを提供しています。70年以上の歴史があり、会員には富士通、三菱、三井、NECなど大企業が名を連ねています。(会員リストは以下のサイトで公開されています。https://ilp.mit.edu/search/members)FORUM8社も会員企業の1つとして毎年MIT教授によるセミナーなどを開催しています。
7年ぶりのMIT訪問ですが、2023年新規オープンしたMITミュージアムは地下鉄駅に隣接した立派な建物に新設されており、MIT発の技術などが堪能できるようになっていました。またMIT IBM Watson AI Labも近代的なビルとして建設されていました。ともに今回のワークショップのテクニカルツアーとして見学をしています。
※今回のポスター画像はChatGPTに近未来のボストンを描いてもらったものです。
初日は、フォーラムエイト社の伊藤社長とMIT-ILP所長の挨拶からはじまりました。その後、FORUM8社の提供するVRソフトであるUC-win/Roadと、メタバース用オンラインサービスであるF8VPSのアップデート情報、そして昨年度のFORUM8社内表彰技術の発表がおこなわれました。その後、World16の各メンバーによる今回のワークショップでの提案のプレゼンが行われました。第15回目である今回のサマーワークショップのお題は、Web4.0に向けた「デジタルツインとメタバースの利用」と設定しました。各メンバーは、Day2とDay3の2日間で、提案しているプロジェクトのプロトタイプ開発を行い、Day4にその成果を発表することになっています。本ワークショップの数週間前に、FORUM8社開発マネージャーのヨアン・ペンクレアシュ氏を交えてZOOMブレインストーミングを行いました。7年前と違い今回はFORUM8社の開発グループの方々は日本からのサポートをしてもらっております。MIT-ILPオフィスで、FORUM8社提供のTシャツを着て記念撮影を行いました。
Day1の提案プレゼンを終えた後は、参加者でMITミュージアム鑑賞をおこないました。MITミュージアムが以前とくらべて近代的な美術館になっており、MIT発のいろいろな技術が贅沢な空間に展示されています。かなりお勧めです。その後は、ボストンで有名な海鮮レストランUnion Oyster Houseにてロブスターとオイスターを堪能してきました。
ボストンの地下鉄事故!
実は初日の朝に我々が利用する地下鉄レッドラインで脱線する事故があり、我々も途中駅で下車させられ、シャトルバスで各駅を回ることになりました。どうにか初日の朝のセッションは間に合わせることができましたが、ワークショップ期間中に何回も運転中止や途中駅で待機させられることになりました。
2日目は、2名の方に45分程度の招待講演を開催しました。
招待講演1は、MIT航空宇宙制御研究室(Aerospace Control Lab: ACL)ジョナサン・ハウ教授に依頼していましたが、あいにく夏季休暇中だったため急遽助手で博士課程の近藤耕太氏が替わりに発表をお願いしました。研究テーマはダイナミックに動く障害物があるときに複数のドローンが衝突しないようにするための技術開発でした。
招待講演2は、MIT建築都市学科のミホ・マゼレウ教授による、災害時における初動システムの構築とその教育に関する一連の研究発表でした。日本でも研究活動をしており災害が起こる前に公園などに緊急避難具を設置しておき、日ごろから住民と情報を共有できるような活動が大事であるといった内容でした。レジリエンス(国土強靭化)にむけたオンラインシステムなども開発・研究しており、発表後はWorld16メンバーから多くの質問を受けていました。
MIT航空宇宙制御研究室(Aerospace Control Lab: ACL) 近藤耕太氏
MIT建築都市学科 ミホ・マゼレウ教授
午後からは本格的に我々の開発がはじまり、ワークショップの部屋にはいろいろな機材を持参してきたメンバー達が、お互いに情報交換しながら最新のソリューションについても意見交換等が活発に行われました。
3日目も引き続き各メンバーが開発をつづけます。World16代表として私も各プロジェクトの進行状況を確認し、FORUM8ヨアン氏と協力しながら翌日発表できるような形にするため試行錯誤を繰り返しました。メンバーの多くは夜までオフィスに残って開発をつづけました。不幸にもまた地下鉄の遅延によりDay3は夕食をとる時間もなく、ホテルに帰ってきたのは夜中近くになってしまいました。
最終日は各プロジェクトの成果発表を行いました。ここではプロジェクトを手短に説明します。
イタリアのピサ大学でBIM学科長を務めるパオロ・フィアマ教授は、イタリア国内で提案されているシシリア島と本土の3kmをつなげる計画中の吊り橋のデザイン検証のためのVR作成を提案しました。実現すれば世界最長の吊り橋になりますが、規模や景観に対するインパクトなどを可視化する目的のプロジェクトです。
ピサ大学 Paolo Fiamma 氏
オランダのハンゼ応用科学大学のアマー・ベナージ教授は、配送システムのロジスティクスに関するEU研究共同プロジェクトの可視化を行いました。トラックで搬送されてきた荷物はいったん倉庫に保管され、その荷物を自転車配達員が目的地まで配送するという自転車王国オランダらしいプロジェクトです。担当は配送パッケージのサイズやレイアウトが実際に運用可能かどうかの検討ですが、将来的にはデジタルツインとして運用を目指します。
ハンゼ応用科学大学 Amar Bennadji 氏
イスラエル、シェンカー大学のレベッカ・ビダル氏は、オンラインVR美術館のキュレータのためのシステム提案を行いました。去年は展示する画像をVR美術館のどこに展示するかをオンランで簡単に編集できるようなシステム提案を行っています。今回は画像に加えて、3次元モデルや動画などもVR美術館にキュレータが自由に編集できるようなUIの提案を行っています。将来的には、美術館キュレータ専用のエンジンとして照明、音声、スクリプトなども統合されることを期待します。
シェンカー大学 Rebeka Vital 氏
大阪大学の環境エネルギー工学部の福田知弘准教授は、一枚の画像からAI技術によって深度情報(デプスマップ)を自動生成するプロジェクトを提案しました。実は2年前も同じ研究をされていますが、今回はまったく異なったアプローチをしており、ローカル環境でほぼリアルタイムで生成できるため、動画として生成可能になっています。出力データから点群をリアルタイムで生成したり、いままでのような複数カメラからのデータとの併用により、より精度の高い3Dモデルがリアルタイムに生成できることが期待されます。
大阪大学 福田 知弘 氏
バージニア工科大学准教授のトーマス・タッカー准教授は、VRと実物モデルをつなげるシステムのプロトタイプを製作しました。3Dプリントされた自動車モデルにタッチセンサーを埋め込み、FORUM8社のF8VPSシステム開発用の新しいプレイグラウンドAPIを利用することで、車の各部位を触るとその詳細情報がメタバース空間で表示されるプログラムを作成しました。今年のSiggraph2024で発表した彼の作品の応用例でもあり、今後はFORUM8のNFTとの連携が期待されます。
バージニア工科大学 Thomas Tucker 氏
マイアミ大学のルース・ロン氏は、、自身の大学キャンパスのデジタルツイン化のプロトタイプ構築を提案しました。現在はWeb版2次元マップで提供されているキャンパス内の建物パフォーマンス情報(電力、温度、日照、水)を3次元デジタルツイン化するための実装を試みました。毎分・毎秒更新されるようなデジタルツイン化に必要なデータにアクセスし、それを3Dモデルと連携させてグラフなどを表示させるために必要なプロセスを洗い出し、簡単に実装できるようなF8VPS用フレームワークの開発が期待されます。
マイアミ大学 Ruth Ron 氏
バージニア工科大学のドンスー・チョイ氏は、市販のカメラでステレオ動画を撮影し、その動画データからカメラデータ(移動量、回転量)を自動で抽出するこによって、6軸360度回転型VRシミュレーター用の作品を用意に生成できるようなシステムの提案を行いました。FORUM8のF8VPS上で実装されることで、だれでも簡単にローラーコースターのVRシミュレーションや、世界中の絶景VR飛行などの体験データを作成できるようになります。
バージニア工科大学 Dongsoo Choi 氏
香港理工大学、デザイン学部スカイ・ロー助教授は、今回のアップデートからサポートが始まったUC-win/RoadのPython APIを利用して、物理的オブジェクトをつなぎながら、ローラーコースターの3Dデータを作成できるシステムの提案を行いました。以前より実空間の手で触れる・動かせるオブジェクトでVR空間を操作することを研究テーマにしており、今回は複数のオブジェクトの連結を可能にすることで、子供が積木パズルで遊びながらメタバースデータを作成できるような体験デモの実装が期待されます。
香港理工大学 スカイ・ロー 氏
ジョージア工科大学(ジョージアテック)上級研究員のマシュー・スウォーツ氏はF8VPSを利用した送電網制御用デジタルツインのプロトタイプ開発の提案をしました。中央配電から遠隔地まで電力供給をバランスよく行うことは現在でも困難な課題です。マイクログリッドのバッテリー、住宅用ソーラーパネル、住宅用バッテリー、車内搭載バッテリー、エネルギー負荷の状況を模型とデジタルツイン連携モデルを開発することで、この分野の実験研究用デジタルツインがより活発になることが期待されます。
ジョージア工科大学 Matthew Swarts 氏
同済大学のコスタス・タージディス教授は、”ストーリーテリング”と生成AI技術を利用する提案を行いました。具体的には自分の声をAIに学習させ、別言語にAI翻訳すると同時にその言語で自分の声で発音させることで、本人が別言語で説明しているようなTikToK動画を作成しました。メタバース上でリアルタイムで利用が可能になれば、アバターを使い多言語の人とコミュニケーションができるような環境が期待されます。
同済大学 Kostas Terzidis 氏
カルフォルニア大学サンタバーバラ校トランスラボ所長のマルコス・ノバック教授は、生成AIと最新のXRデバイス(Apple Vision Pro)を連携させることで、近い将来メタバース上で可能になりそうなデザイン活動のためのツール連携を提案しました。まずはF8VPSの開発用プレイグラウンドAPIを利用してApple Vision Proでデータ編集のツールを開発、そしてApple Vision ProのVR空間内で生成AIを利用することで建築データ(机といすの配置レイアウト)を会話しながら編集したり、新規デザインを生成できることを実証しました。
カルフォルニア大学 Marcos Novak 氏
ニュージャージー工科大学の楢原太郎教授は、エンジニア向けアプリケーションのデータ編集をプロントのみで行うシステムの検討を行いました。具体的にはUC-win/Roadの群衆シミュレーションのためのネットワーク形状状態(ノードとリンクによるグラフ構造)をChatGPTに理解させ、グラフ構造を改良してもらったり交通量を調整してもらうことが可能性を示しました。近い将来、事前に理解してもらいたい内容をうまくAIに学習させておけば、どんなソフトでもプロンプト入力だけで学習する必要がなくなりそうな期待があります。
ニュージャージー工科大学 楢原 太郎 氏
今回、FORUM8社からの参加のマーク・シュナゲル氏とインゲ・シュナゲル氏もWorld16のメンバー同様に、新規開発事業の提案を行いいました。マーク氏は、Chainlink Oracleというブロックチェーン外のデータをブロックチェーン内のスマートコントラクトに提供するサービス(DApp)を利用し、設計図面などのデータ変遷の履歴をブロックチェイン上に非中央集権型の管理ができるようなシステムの提案をしました。インゲ氏は、生成AIを利用した漫画スタイルのオンライン動画生成サービスを提案しました。Stable Diffusion をベースに、スタイル学習をLoraとして追加できる機能を統合したオンラインサービスです。様々なLoraがマーケットには存在していますが、その漫画版に特化したサービスです。
全員の発表後にとったMIT-ILPオフィスからの集合写真
テクニカルツアーと奨励賞発表パーティ
ワークショップでのプロジェクト発表後、テクニカルツアーとしてMITのIBM Watson AI Lab (IBMのワトソン人工知能研究所)の見学を行いました。IBMが開発してきた技術と現在のLLM(巨大言語モデル)を利用した応用例、巨大なデータから相関関係ではなく因果関係を抽出する研究などの説明をしてくれました。道を挟んで反対側にGoogleの巨大なビルが建っているのが印象的でした。
その後、MITのキャンパスツアーを行い、集合写真をとりました。7年前と今回の写真を載せておきます。
最後は、ボストンの中心部のレストランにて、伊藤社長による総評と奨励賞の発表が行われました。せっかくのルーフトップでしたが、残念ながら雨に降られてしまい十分な時間がとれずに解散となりました。その後再び地下鉄が故障し、何時間も地下鉄に閉じ込められ、最終的には途中下車をさせられシャトルバスでの送迎に切り替わりました。
本ワークショップで開発されたプロジェクトは11月のフォーラムエイトデザインフェスティバル内の国際VRシンポジュームで発表する予定です。ご興味がある方は是非ご参加いただき、お声をかけていただきたいと思います。
VRの活用提案を発表・議論してきた国際VRシンポジウム。先進的な研究・開発、World16とフォーラムエイトの連携によって実現されるパッケージ製品展開についての成果発表が、デザインフェスティバルDAY2にて開催されます。
(Up&Coming '24 秋の号掲載)
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