第12回VRサマー・ワークショップの様子をレポートします。第1回目より世界のいろいろな都市で開催してきましたが、いまだに収束しないコロナ禍のため、2年連続でのオンラインによるリモート、バーチャル会議となりました。
本イベントは、World16という世界のさまざまな国・地域から選抜された学術専門家(大学教授・研究者)と企業(フォーラムエイト)で実務に携わっている開発者が、未来のイノベーションを開拓するような技術を提案し、実際にプロトタイプ開発を行うワークショップです。World16メンバーは、VRを利用した都市モデルの可視化・シミュレーションの研究開発を主に行っており、サマー・ワークショップでは、共通のプラットフォーム(フォーラムエイト社UC-win/Road)を用いることで、知識共有・共同開発を促進しています。過去には、World16メンバーの活動拠点を中心に、アメリカ・アリゾナ州立大学(2008)、日本・箱根(2009)、アメリカ・カルフォルニア大学サンタバーバラ校(2010)、イタリア・ピサ大学(2011)、アメリカ・ハワイ(2014)、ギリシャ・テッサロニキ(2015)、日本・大阪大学(2016)、アメリカ・MIT(2017)、ニュージーランド・ビクトリア大学(2018)、フランス・パリ(2019)で開催してきました。
世界中でリモートワークが急激な勢いで広がっている現在、VR技術がより一般的に利用される未来が近づいてきていると思います。今回のワークショップでも、VR都市モデルのクラウド環境下での利用がいくつか議論されており、注目していきたいと思います。
リモートで行う国際イベントの最大も問題は、時差によるスケジューリングの難しさにあります。昨年の経験から、ワークショップなどのリモート共同作業は事前打ち合わせが非常に重要だと認識しています。よってワークショップの一か月前より、各World16のメンバーと会議を行い、プロジェクトの概要と48時間でできるターゲット作業範囲(スコープ)を話し合っておきました。フォーラムエイト開発長とも相談し、各プロジェクトにどのような開発者を割り当ててチームを作っていくかを前もって計画しておくようにお願いしました。実際のワークショップでは、より自由時間を増やすことで、時間的プレッシャーを少なくするように努めました。
Day1のオープニングセッション(日本時間7月4日正午開始)は、フォーラムエイト・伊藤裕二社長による開会の挨拶からはじまり、同社開発部マネージャーのヨアン・ペンクレアシュ氏によるUC-win/Roadのアップデート情報と前年度開発事例の発表がありました。特にF8VPS(FORUM8バーチャルプラットフォームシステム)とよばれる統合型のクラウドサービスは、これから注目する技術だと思います。また、UC-win/Roadにおいてスケジューリング調整が容易にできるインターフェイス提供や、Microsoft社のプログラミング環境ソフトVisual Studioを利用したC++開発が可能となった点が大きいと感じました。その後、フォーラムエイト奨励賞社員による成果発表を行いました。
オープニングセッションの後、World16の各メンバーによるプロジェクト提案とそのプレゼンテーションを行いました。事前ミーティングの時に議論した内容からすこし調整されていたものが提案されているので、チーム編成なども比較的スムーズに行えたと思います。時差の関係上、米国東海岸のメンバーだけは、Day2朝9時からの発表となりました。
Day1オープニングとDay4の成果発表はZOOMというオンライン会議ツールを去年と同様に利用しました。一方、ワークショップでは、前回と同様に、スラック<slack.com>というチャットシステムを利用しました。プロジェクト毎に、チャンネルを作りその中でメッセージやファイルのやり取りと行うので、多くのプロジェクトが別々に動くような場合には、管理しやすいのが特徴です。スラックとは別に、開発の合間、ちょっとしたおしゃべりをしたい時のためにGather.Town<https://gather.town/>というサービスを準備しておきました。レトロな2Dゲーム風のインターフェイス上で、参加者内でもいくつかのグループごとに会話ができるため、個別会議(井戸端会議も含め)が可能となります。2Dゲームのダンジョンのような別部屋をつくる機能もあります。写真部屋に集合して、参加者の記念撮影を行いました。
48時間のワークショップを経て、最終日7月8日午後1時より、全メンバーの発表になりました。以下各プロジェクトの要約と、私個人的な感想を含めレビューをしています。
バージニア工科大学のトーマス・タッカー教授は、VR空間と実空間をシームレスに操作するインターフェイスの開発をここ数年研究課題としています。VR空間と同じオブジェクトを3Dプリントや電子工作などのデジタルファブリケーション技術で作成し、VR空間に存在するモデルの属性(色やテクスチャ)を切り替えたり、匂いをリアルタイムに発生させることで、VRの可能性を広げようとしています。今回はVR-Next®というフォーラムエイト社の新しいツールを用いてglTF形式データの検証を行っています。
▲ トーマス・タッカー氏(バージニア工科大学) SCENT +VR
バージニア工科大学のドンソー・チョイ氏は、遺跡調査プロジェクトの点群データ収集解析を行っており、時系列の4D点群データツール開発に興味があります。今回は、点群データから距離、面積、体積などの計測ツール開発の提案をしています。インターフェイス開発にはもう少し時間が必要だったので、点群データの4D連携のテストを行い問題点の指摘や最適化への提案をしています。
▲ ドンソー・チョイ氏(バージニア工科大学) Volumetric & Surface Calculation Using Point Cloud in UC-win/Road
大阪大学の福田知弘教授は、実際のツール開発というよりは、現在利用されているオンラインVR環境や製品のレビューを行い、これからの開発ロードマップをまとめる作業を行いました。特に重点をおいていた3D点群データのリアルタイム共有は、実現できれば長年の研究のConcurrent Collaboration Designへ大きな貢献となりそうです。またフォーラムエイトのF8VPSへの要求点もまとめています。 個人的には多くの人間が同時参加するようなVR空間では、ダイレクトに3D空間にスケッチできるような機能があれば助かると思っています。
▲ 福田 知弘 氏(大阪大学大学院) VR Online Platform Towards More Realistic Online Meeting
イスラエル・シェンカー大学のレベッカ・ヴィタル教授は、ライティング・シミュレーションのためのIESファイルインポート機能の提案を行いました。建築学科の教授らしく、室外ライトの種類によって夜間照明がどのように変わるかをインターラクティヴに検証できるツールを開発し、発表時にデモを行っています。道路照明計画などの提案時に利用できるような製品ツールになることを期待できるプロジェクトです。
▲ レベッカ・ヴィタル 氏(シェンカー大学) Integrating Street/Road Lighting tools into UC-win/Road
中国・同済大学のコスタス・テルジディス教授は、同大学で実施しているキッズAIという教育プログラムの一環として、小学生へのプログラミング学習とAI技術を通してのモノづくり教育の提案をしました。具体的には、UC-win/Road内で簡単なスクリプト言語でミニゲーム迷路をランダム生成するツールを開発しました。子供達が継続的に熱中するようなアウトプットにできるかという運用面での難しさを含んでいますが、とてもチャレンジングなプロジェクトだと思います。
▲ コスタス・テルジディス 氏(同済大学) Kids AID
中国ハルビン大学のスカイ・ロー教授は、去年から引き続き卓上で利用する建築模型と、AR・VR・MRの技術を統合したシステム開発を行っています。今回はフォーラムエイトの新規開発したVisual Studio用のテンプレートを通してUC-win/Roadと他のコントロールやカメラ機材とのシステム統合にチャレンジしました。今後多くのツールとの連携、クラウドを通してのリアルタイムシステム構築などが実現できると期待しています。
▲ スカイ・ロー 氏(ハルビン大学) Interractive Reality for UC-win/Road
ニュージーランド・ビクトリア大学のマーク・アウエル教授は、ユーザが視線コントロールだけを使って、複雑なデザイン行為を実現できるためのインターフェイス開発の提案をしています。あたらしいコンセプトではないけれど、まだ実現されていないことからもわかるように、安定した入力システムにするには多くの試行錯誤と微調整が必要なようです。視線だけでは対応しきれないために音声や手などの補助も必要になるかもしれません。
▲ マーク・アウエル 氏(ヴィクトリア大学) EVES
英国ロバート・ゴードン大学のアマル・ベナルジ教授は、建築の消費エネルギー軽減が研究課題です。今回はUC-win/Roadの新規4D機能を使い、住宅のローエナジー化のための工事施工プロセスをVR可視化しました。彼の大学授業でも利用できるような学習ツール開発をこれから行っていくようです。以前より開発している点群データとの連携ができると、実物の点群データ上に施工プロセスをリアルタイムで編集・表示することが可能になりそうです。
▲ アマル・ベナルジ 氏(ロバートゴードン大学)
Japan-UK collaboration resarch projact Augmented reality in Buildings Energy Improv
カルフォルニア大学サンタバーバラ校のマルコス・ノバック教授は、マルチメディア芸術系の研究を行っており、ベネチア・ビエンナーレでも現実と情報をいろいろなVR・MR技術を駆使して表現する方法を探しています。今回のワークショップではフォーラムエイトの新規ツールVR-NEXTをテストするとともに、複数のコンピュータ、プロジェクター、ライティング装置、サウンドシステムなどを同時にリアルタイムで連携するようなメディアサーバーの開発を提案しています。またハードやソフトに依存されないように、クラウド環境でそれらをコントロールできるようなことも期待しており、そのための製品ツールなども紹介しています。
▲ マルコス・ノバック 氏(カリフォルニア大学) Media Field Navigation and VR-NEXT
ニュージャージー工科大学の楢原太郎教授は、ここ数年携わっている人工知能研究のために必要な学習データをより多くのユーザから収集するためのツール開発を提案しました。具体的には、都市や建物において、ユーザが興味のある位置情報(立っている場所と見ている場所)を記録するツールと、記録された場所の頻度をヒートマップ画像として生成する機能を開発しました。将来クラウド環境を利用することで、人工知能のための学習データができあがり、都市の再開発や問題点指摘に利用可能となりそうです。
▲ 楢原 太郎 氏(ニュージャージー工科大学) Thumbs Up Rating System for City-scale VR Models
イタリア・ピサ大学のパオロ・フィアマ教授は、BIM利用による建設工学を研究課題にしており、今回は地下設備(とくにパイプ)の簡易作成ツールと管理システムの提案をしました。地下にあるパイプのデータ管理は、掘ってみるまでわからないという問題があります。現場で調整変更しているケースが多いので、図面やデータベースに加え、簡易的にでもVRデータや変更データなどがすぐにアップデートできるようなツールが必要です。現在のUC-win/Roadのトンネル連結機能をアップグレードして、パイプ生成までサポートできれば非常に有益なツールになると感じました。
▲ パオロ・フィアマ 氏(ピサ大学) To model deep work in progress
コロナ禍でリモートワークへの移行が推進される今日、クラウド環境や人工知能などの技術がより手軽に利用できることが求められています。とくに建設・土木分野においては、大学等の研究機関、産業を担っている企業、そして地域の行政機関との連携作業がスムーズに行われるような環境、そしてサービス・ツールの開発が急務だと感じております。今回のワークショップで提案されプロトタイプ開発されたプロジェクトは、引き続き開発を継続していく予定です。11月に開催されるデザインフェスティバルのVRシンポジウム内にてその成果を発表予定しておりますので、是非ご参加ください。
フォーラムエイトが協力する一般財団法人 最先端表現技術利用推進協会(表技協)でも、クラウドと人工知能関連の検定試験を予定しております。基本的な知識と技術の講習会ですので、興味のある方は、当協会にご連絡いただければ幸いです。
毎回ワークショップの開催地にちなんだポスターを作成しています。今回は2回目のリモート開催ということで、未来のリモートワークをイメージしたものを作成しました。フォーラムエイト開発者の時間帯に合わせて行うために、私の地域(米国アリゾナ州)では常に夜からの開催となります。よってアリゾナの大自然の中でキャンプをしながらリモートワークできるような未来を期待したものを3DCGで作成しました。VRやARなどの技術が進歩した先には、キャンプ場の空間インターフェイスを操作しながら作業ができたらという思いを込めました。最終日には、朝日が昇ってくる別のイメージを作成しておきました。「コロナ禍の状況が改善して、明るい未来が来てほしい」という思いです。
(執筆:小林 佳弘)
VRの活用提案を発表・議論してきた国際VRシンポジウム。先進的な研究・開発、World16とフォーラムエイトの連携によって実現されるパッケージ製品展開についての成果発表が、デザインフェスティバルDAY2にて開催されます。
(Up&Coming '21 秋の号掲載)
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