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前回は、楢原氏がMIT長倉威彦準教授を訪ね、その取り組みについて取材し、併せて新しいタイプのコンペ提案「arcbazar」について紹介しました。
今回は、イスラエル・テルアビブの大学に招聘され、講演とワークショップを行った同氏の滞在レポートを掲載します。

■著者プロフィール
楢原太郎氏(ニュージャージー工科大学 建築デザイン学部 准教授)は、米国マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学で学び、現在はニュージャージー工科大学で教鞭を執られています。大学教育の現状やコンピュータ、デザインなどの専門分野の動向などを現地からレポートいただく企画です。

Vol.8 イスラエル古都巡礼 / ワークショップ

ある日、突然イスラエルから連絡が来た。
「講演会つきでワークショップを一週間、テル・アビブにある大学でやってみませんか?」
予想外の唐突な依頼に「不思議」の一字で頭が満たされた。
なぜイスラエルなのだろうか?

イスラエルと言えばユダヤ人のヘッドクオーターであり、ユダヤ人と言えば多岐において現代人類最強民族の一つと私は勝手に解釈している。ニューヨークで勤務していた頃、特に建築建設業界でのユダヤ人勢力の存在感は否定しがたいものがあると感じた。実際、超が付く有名建築家にはフランク・ゲーリーをはじめリチャード・マイヤー、ピーター・アイゼンマン等、ユダヤ人が多い。仲間内ではよく冗談で、ニューヨークにいてもジューイッシュ・マフィアにはかなわないからと言ってニューヨークを去って行くアジアやヨーロッパ系の若手建築家も沢山いた。


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■エルサレム旧市街城壁に隣接したダビデの塔と呼ばれる要塞。

著者が日本から来て初めてユダヤ人という人々の存在を身近に感じたのは、以前にブルックリンからNYCに電車で通勤していた頃であった。いつも車両の隅で隠れるようにして不思議な記号の羅列が載った本を声は出さずにモグモグと復唱している女の人達が居た。それがヘブライ語の教典を読みながら通勤するユダヤ教徒であった。
勿論、ユダヤ人には今でも民族衣装を纏う敬虔なユダヤ教徒もいれば、自分がユダヤ人であるなどおくびにも見せない普通の白人にしか見えない人達もいる。名目の上ではユダヤ人とは人種や国籍を特定する言葉ではないので、極端な例では「俺、ジューイッシュ」と繰り返す黒人のユダヤ教徒に出くわした事もある。だが確実にユダヤ人という人種は存在し、私の拙い経験で云々いうのもなんだが、会社や大学の職場で出会った上司等は案外初対面から「私はユダヤ人だ」と事ある度に自分から言って来る人が多かった。こう宣言する事がアメリカ社会の文脈において何か意味する所があるのか、或いは「ユダヤ教の休日には出勤しませんから」と遠回しに宣言しているのか?いずれにしろ自身がユダヤ人であるという自意識が比較的高い人が多いようだ。


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■エルサレム旧市街。聖地、嘆きの壁、そして複雑に入り組んだ迷宮都市。

よく欧米人から見ると中国人も韓国人も日本人も同じに見えると言うが、日本で中学校以来あれだけ散々ホロコースト等の迫害の歴史を学ばされて来た割には、いざアメリカに来て見るとどれがユダヤ人なのか普通の白人と全く区別がつかなかった。そんな折に、ロン・ジェレミーというアメリカのポルノ男優の自伝的ドキュメンタリーを見たのを契機に私にも微妙な違いが少なからず感じられる様になった。これは真面目な映画で、物理学者の父を持つインテリのユダヤ人家庭に育った彼が、ある時ガールフレンドが雑誌に投稿してしまった彼の規格外のある部分の写った写真をきっかけにその道へ入って行く話だ。熾烈な芸能界での生存競争、それに勝ち残って来た彼の人脈作りやビジネスマンとしての側面も描かれていて面白かった。
その中でふと彼が見せた住所録兼メモ帳を見た瞬間、私の中で何らかの符号が合致したのを感じた。手書きの草臥れたメモ帳で、お世辞にも綺麗とは言えない乱雑なメモや連絡先で溢れかえって混沌としているのだが、時として縦横無尽に矢印がページ間を飛び交って人間同士のネットワークが奔放に付け加えられたりしていた。そこには彼の思考回路の中の余分な体裁を繕う事を一切排除した究極の合理性、またそれを達成する為には躊躇無く臨機応変に革新に走る姿勢が垣間見えたような気がした。そう認識した瞬間、私がかつて接して来た様々なユダヤ人達が思い出されて来て、何か独特の共通項の様なものの存在が抽象的ではあるが感じられた。それ以降、私も十中八九どの人がユダヤ人かある程度分かる様になったのである。

そのユダヤ人の総本山からの連絡で、遂に私もジューイッシュ・マフィアの仲間入りかと一瞬冗談半分で思ったが、調べてみると以前シンポジウムで一緒だったユダヤ人の知人の教えている大学からのオファーらしい。だがそれ程懇意にしていたわけでもない私に何故、突然白羽の矢が立ったのだろうか?疑問は絶えないが、イスラエルは旅行者の間では一度パスポートに入国した記録が残ると他のイスラム諸国に入国出来なくなる事から最後にとっておくべき聖地とされている。しかし旅行・遺跡マニアの私としてはこの機会を逃したらイスラエルに行く事は暫くないだろうと考えて参加させて頂く事にした。


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■テル・アビブ市街。港が遠くに見える。

入国してみて2点感想があり、意外と小国であったと言う点と、ユダヤ人しか住んでいないのかと思いきや、案外様々な人種が各テリトリーを築き複雑な関係性を呈していた点があった。テルアビブ近郊をドライブしてみると何処もアップダウンの激しい丘陵地帯が続き、その丘の上に整然と建ち並んでいる住宅群がユダヤ人地区、そしてどちらかと言えば自然発生的で複雑に入り乱れて建て込んでいるのがイスラム系居住区(これはイスラム系諸国では良く見る光景)と遠くからでも視覚的にその集落的構造から文化的相違が顕著に現れている。その究極の縮図ともいえる都市がワークショップの休日を利用して訪れたエルサレムの旧市街であった。

城壁で囲まれた立体的な迷宮のように入り組んだ縦横一キロにも満たないエリアにユダヤ人、アルメニア人、ムスリム、キリスト教徒地区が存在し各個性を放っている。一歩踏み入れると永遠と城壁の中を迷い続ける事になるのだが、その中心の開けた場所には有名な聖地、嘆きの壁がある。観光地でもある為、城壁の外ではタクシーが沢山待機しているのだが黄色と緑色に色分けされていて、アラブ人居住区のある東エルサレムからの物は西部地区内を通行禁止となっていた。

エリコ(Jerico)と言う絶壁の上に修道院が建っている近郊の町に行く途中、チェックポイントと呼ばれる所で機関銃を持ったイスラエル兵によるパスポートチェックを受けてからアラブ人地区内に入って行ったのが印象的であった。IT関連のスタートアップ企業が次々と育っている先進国であると同時に、シャバット(安息日)になると大都市でも機能が一旦停止してしまい、著者もバス停の前で3時間程待つ羽目になったりもした。またテル・アビブに夜中に戻ってから道に迷い2時間程アフリカ系の黒人しか居ないエリアを彷徨ったのだが、これはアルメニア系の不法滞在移民が居ついてしまったエリアで追い返す訳にも行かずイスラエルの抱えるもう一つの社会問題であるらしい。

無知な私も今回声を掛けて頂いたRuthさんから様々なご説明を受けた。テル・アビブは現在比較的安定しているが、子供の頃は本当にミサイルが飛んで来て避難したりしたそうだ。今でもヨーロッパ圏の人達は声を掛けても来るのを躊躇する人も多く、どうやらそこで旅行好きのTAROに声が掛かったようだ。

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■かつてキリストが苦行を行ったと言われる崖の上の修道院、アラブ人居住区内Jericoにある。

肝心のワークショップと講演会は大成功で、Ruthさんと一緒に4日程度で時間は限られていたが建築専攻の学生にセンサーやモーターを使って電子工作を織り交ぜ、インタラクティブな可動建築アイディアのモックアップ製作を指導した。
最後に講演会の後で学生の作品の展示会と打ち上げパーティーを開いてくれたのも粋な計らいであった。また折紙研究家のNikomarovさんとも知己を得て、氏が長年掛けて研究して来た多種多様に変化する三次元幾何学パターンも見せて頂く事が出来た。


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■テル・アビブ市街には
独特な幾何学的建築が見られる。
■開館して間もない
Scott Cohenによるテル・アビブ美術館新館。

イスラエル近代建築の流れでは、近代初頭のコルビジェを筆頭とするモダニズムやインターナショナルスタイルに対抗するように、ユダヤ文化独特の幾何学的表現を追及してきた流派が存在し、氏もその流れの中心人物として活躍して来た一人のようだ。テル・アビブの町を歩いていると、随所において何故だろうと不思議に思うほど過剰な幾何学的反復や独特の表現を建築物の中に見ることができる。こう云った表現傾倒は現代のユダヤ系建築家やアーティスト達の表現にも如実に現れていて、それらが世代を超えて継承されて来たものである事が今回よく理解できた。革新と伝統が混在した素晴らしい魅力に溢れた国であると同時に、日本のような島国では考えられないような様々な諸問題も抱えている国である事が改めて実感でき、貴重な一週間の滞在であった。


■ワークショップ修了後のエキシビションと打ち上げパーティーでメンバーと記念撮影。



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